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60 企む者達2
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ガベルトゥスが姿を現さないまま、日はどんどんと過ぎていく。トビアスからの魔力には慣れたが、しかし悪夢が消え去ることはない。
ガベルトゥスが来ないとわかっているのに、夜になれば期待してしまう自分に、もやもやとした感情が春輝を襲っていた。
折角手に入れた物が、手元に無いと言うのはなんとも腹立たしいのだ。
そんな中、早馬が先ぶれを携えてやって来る。王都からジェンツとサーシャリアがわざわざ領地までやって来ると言うのだ。思わず苦虫を噛み潰したような表情を春輝がしてしまったのは言うまでもない。
アルバロを含めた屋敷全体が数日活気にあふれた。誰もかれもが目を輝かせ、準備に余念がない。春輝に対する上手く嫌悪感を隠した態度とは大違いだった。
春輝もトビアスもそのような態度を取って欲しいわけではないが、その変化があまりにも気味が悪いほどなのだ。
日課となった散策をしながら、春輝はトビアスと共に領地から出ることも考えたが、敢えてそれをしなかった。下手に動き洗脳が不完全であると言うことを悟られては困るからだ。
「あぁ面倒くさい……ひと思いに消し炭にできればいいのに」
零れた春輝の呟きは、ここ最近ずっと漏らしている言葉だった。しかし核が埋め込まれ破壊出来ない間は動くことができない。大人しく情報を集めるしかないのだ。それがどれだけもどかしいか。
メイドの血の色が緑であった理由も未だにわからないままだ。その色から人間でないのは確かで、メイドの首を刎ねたアルバロやその場にいた他のメイドが驚きもしなかったと言うことは、彼らはそれを知っていたと言うことだった。
あのメイドだけなのか、それとも屋敷にいる人間の姿をした彼ら全てがそうであるのか。王の直轄地であることから、王族がそれを知っている可能性は大いに高い。
「なぁトビアス。王族の血の色は何色だと思う?」
「普通に考えれば赤でしょうが……あのメイドのことを考えると、赤であるとは言い切れませんね。青ではないのは確かですが」
「領民はどうだと思う」
「……屋敷の者達が全て緑であるならば、領民もそうである可能では高いでしょう」
「気味が悪い。全員掻っ捌けばすぐにわかるのにな」
「えぇ本当に」
物騒な春輝の物言いにも何も言わずに、寧ろ肯定してくるトビアスをちらりと春輝は見る。これが味方であることがどれだけ頼もしいか。
ピタリと足を止めたトビアスが、目をスッと細め遠くを見れば、顔を険しいものに変えた。
「ハルキ殿、到着したようです」
「あぁ本当に面倒くさい」
うさぎのぬいぐるみに顔を埋めた春輝は、心の底を隠すことなく吐き出した。
豪華絢爛な馬車が連なり、玄関前の馬車止めにずらりと並ぶ。さぞや道中目立ったことだろうと春輝は思った。
馬に騎乗する騎士は二種類。国旗とサーシャリアを現す旗を持つ騎士に、教会の旗を掲げる教会の騎士。
それを窓辺に寄りかかり春輝は見ていた。出迎えるつもりはさらさらなく、だが自室に籠ることことを許されなかった春輝は、広々とした応接間でジェンツとサーシャリアを、アルバロの監視の元待っていた。
久々に着せられた豪華な服も着心地が悪い。整えられたトビアスも見るのはいいが、自分が、と言うのはどうしても慣れることはない。
「まぁハルキ様、お会いしたかったですわ」
暫くしてやってきたサーシャリアは、すぐにハルキの元に駆け寄ってくると、相も変わらず体を密着させてくる。
不快さに眉を潜める春輝にはお構いなしに、品を作り甘ったるい声を出す。
気鬱に陥っていた時や、そこから回復してからは接触すらして来なかったというのに。
鼻の奥を突く重たく匂う香水に、頭痛と吐き気までしてきてしまい、春輝はぐっとサーシャリアを押して距離を取った。
照れてらっしゃるのね、と見当違いなことを言うサーシャリアを尻目に、春輝は別の椅子へと席を移す。
チラリと控えていたオーバンを見やれば、最後に見た時よりも酷くやつれ、顔色も心なしか悪いように見える。
そんなオーバンはジェンツに目配せをされると、今回の訪問の目的を告げてきた。
「今回こちらに来ましたのは、再び勇者ハルキ様、並びにホッパー卿のお力をお借りしたいからでございます」
「力を借りたい?」
「昨今巷では、再び魔獣が出始めているのですよ。魔王の復活にしては早すぎます。しかし民は不安に陥っているので、ハルキ様のお力を今再び示してほしいのです」
オーバンの言葉を引き継いだジェンツが、穏やかに語る。
魔獣が再び動き出したことはガベルトゥスと関係があるには違いがない。だが事情を聞きたくても、ガベルトゥスは未だに春輝の元へは訪れていないのだ。
だがどう考えても、魔獣を討伐するしか道はない。ジェンツやサーシャリア達が居なければ上手く見過ごすが、今はそれをするのは悪手でしかない。
それに聖剣を再び握ることも春輝には苦痛でしかない。なんとかトビアスに先に魔獣を排除させようかと目配せをすれば緩く首を振られ、時すでに遅かったことを悟った。
暫くすればバタバタと複数の足音が聞こえ、春輝はため息をつく。
「魔獣が領地内へ侵入、猛スピードでこちらに向かってきています!」
「まぁ! ではハルキ様の勇姿がもう見れてしまうのね? 楽しみですわ」
血相を変えて走ってきた衛兵とは真逆に、楽しそうに笑うサーシャリアの声だけが応接間に響いていた。
ガベルトゥスが来ないとわかっているのに、夜になれば期待してしまう自分に、もやもやとした感情が春輝を襲っていた。
折角手に入れた物が、手元に無いと言うのはなんとも腹立たしいのだ。
そんな中、早馬が先ぶれを携えてやって来る。王都からジェンツとサーシャリアがわざわざ領地までやって来ると言うのだ。思わず苦虫を噛み潰したような表情を春輝がしてしまったのは言うまでもない。
アルバロを含めた屋敷全体が数日活気にあふれた。誰もかれもが目を輝かせ、準備に余念がない。春輝に対する上手く嫌悪感を隠した態度とは大違いだった。
春輝もトビアスもそのような態度を取って欲しいわけではないが、その変化があまりにも気味が悪いほどなのだ。
日課となった散策をしながら、春輝はトビアスと共に領地から出ることも考えたが、敢えてそれをしなかった。下手に動き洗脳が不完全であると言うことを悟られては困るからだ。
「あぁ面倒くさい……ひと思いに消し炭にできればいいのに」
零れた春輝の呟きは、ここ最近ずっと漏らしている言葉だった。しかし核が埋め込まれ破壊出来ない間は動くことができない。大人しく情報を集めるしかないのだ。それがどれだけもどかしいか。
メイドの血の色が緑であった理由も未だにわからないままだ。その色から人間でないのは確かで、メイドの首を刎ねたアルバロやその場にいた他のメイドが驚きもしなかったと言うことは、彼らはそれを知っていたと言うことだった。
あのメイドだけなのか、それとも屋敷にいる人間の姿をした彼ら全てがそうであるのか。王の直轄地であることから、王族がそれを知っている可能性は大いに高い。
「なぁトビアス。王族の血の色は何色だと思う?」
「普通に考えれば赤でしょうが……あのメイドのことを考えると、赤であるとは言い切れませんね。青ではないのは確かですが」
「領民はどうだと思う」
「……屋敷の者達が全て緑であるならば、領民もそうである可能では高いでしょう」
「気味が悪い。全員掻っ捌けばすぐにわかるのにな」
「えぇ本当に」
物騒な春輝の物言いにも何も言わずに、寧ろ肯定してくるトビアスをちらりと春輝は見る。これが味方であることがどれだけ頼もしいか。
ピタリと足を止めたトビアスが、目をスッと細め遠くを見れば、顔を険しいものに変えた。
「ハルキ殿、到着したようです」
「あぁ本当に面倒くさい」
うさぎのぬいぐるみに顔を埋めた春輝は、心の底を隠すことなく吐き出した。
豪華絢爛な馬車が連なり、玄関前の馬車止めにずらりと並ぶ。さぞや道中目立ったことだろうと春輝は思った。
馬に騎乗する騎士は二種類。国旗とサーシャリアを現す旗を持つ騎士に、教会の旗を掲げる教会の騎士。
それを窓辺に寄りかかり春輝は見ていた。出迎えるつもりはさらさらなく、だが自室に籠ることことを許されなかった春輝は、広々とした応接間でジェンツとサーシャリアを、アルバロの監視の元待っていた。
久々に着せられた豪華な服も着心地が悪い。整えられたトビアスも見るのはいいが、自分が、と言うのはどうしても慣れることはない。
「まぁハルキ様、お会いしたかったですわ」
暫くしてやってきたサーシャリアは、すぐにハルキの元に駆け寄ってくると、相も変わらず体を密着させてくる。
不快さに眉を潜める春輝にはお構いなしに、品を作り甘ったるい声を出す。
気鬱に陥っていた時や、そこから回復してからは接触すらして来なかったというのに。
鼻の奥を突く重たく匂う香水に、頭痛と吐き気までしてきてしまい、春輝はぐっとサーシャリアを押して距離を取った。
照れてらっしゃるのね、と見当違いなことを言うサーシャリアを尻目に、春輝は別の椅子へと席を移す。
チラリと控えていたオーバンを見やれば、最後に見た時よりも酷くやつれ、顔色も心なしか悪いように見える。
そんなオーバンはジェンツに目配せをされると、今回の訪問の目的を告げてきた。
「今回こちらに来ましたのは、再び勇者ハルキ様、並びにホッパー卿のお力をお借りしたいからでございます」
「力を借りたい?」
「昨今巷では、再び魔獣が出始めているのですよ。魔王の復活にしては早すぎます。しかし民は不安に陥っているので、ハルキ様のお力を今再び示してほしいのです」
オーバンの言葉を引き継いだジェンツが、穏やかに語る。
魔獣が再び動き出したことはガベルトゥスと関係があるには違いがない。だが事情を聞きたくても、ガベルトゥスは未だに春輝の元へは訪れていないのだ。
だがどう考えても、魔獣を討伐するしか道はない。ジェンツやサーシャリア達が居なければ上手く見過ごすが、今はそれをするのは悪手でしかない。
それに聖剣を再び握ることも春輝には苦痛でしかない。なんとかトビアスに先に魔獣を排除させようかと目配せをすれば緩く首を振られ、時すでに遅かったことを悟った。
暫くすればバタバタと複数の足音が聞こえ、春輝はため息をつく。
「魔獣が領地内へ侵入、猛スピードでこちらに向かってきています!」
「まぁ! ではハルキ様の勇姿がもう見れてしまうのね? 楽しみですわ」
血相を変えて走ってきた衛兵とは真逆に、楽しそうに笑うサーシャリアの声だけが応接間に響いていた。
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