34 / 100
34.隣国の隠しきれない欲望
しおりを挟む
先ほどの不安を含め、私が占った内容を全て話した。王妃様は顔色を青くして、俯く。その表情は暗かった。
「実は……プルシアイネン侯爵に縁談が来ているの」
はぁ……お相手は私ですよね。今さら何を? と首を傾げた私に、王妃様は首を横に振った。
「違うわ、あなたではないのよ。イーリス」
「え?」
いけない、素が出ちゃった。慌てて口を手で覆う。王妃様は溜め息を吐きながら、漏らしてはいけない話を始めた。
宮廷占い師は機密に触れる職種なので、誓約を交わしている。王宮で見聞きした話を、外部に漏らさない。ちなみに我が子爵家の使用人や叔母様達も同じ誓約を結んだ。そのため身内には話しても構わない。そもそも、占い師にも守秘義務があるけれど。
「隣国アベニウスはまだ諦めていないようで、鉱山を所有するネヴァライネン子爵令嬢と第九王子殿下の政略結婚を打ち出してきたの」
うわぁ……どうしても鉱山が欲しいんだな。王家直轄領だから、私が王子と結婚しても土地は置いて行くんだけど??
「それと同時に、宮廷占い師も諦めきれないのね。我が国の宰相とアベニウスの第五王女殿下の婚約も打診してきたわ」
図らずも、成立した婚約の間を割く形だ。王妃様は大きく息を吐いて、きゅっと唇を引き結んだ。
「我が国はアベニウス王国ほど大きくない。でも臣下や領地を差し出して生き延びる、醜い手は使わないわ」
ああ、なるほど。だから占いを所望なさったのね。私に政は分からないが、陛下や王妃様はこの要求を突っぱねる気でいる。戦争か、解決か。最初の占いで出たのは、この暗示だろう。
でも今占った結果は少し違う。結婚の打診以外に、隠しきれない悪巧みが表示された。つまり、この婚約の申し出の裏に、盛大な策略が仕込まれているのだ。
「王妃様……ご提案があります」
策略や謀略は私の得意分野ではない。ただ安全と思われる方向を示せるだけ。なら、これでいいよね。頷いて提案を聞いた王妃様の表情は、少しだけ柔らかくなっていた。
「わかりました。手配しましょう」
場はすぐに設けられた。王妃様の私室から少し離れた、王族用の居間を利用する。食堂でも良かったのだけれど、机が広くて遠いらしい。国王陛下と宰相閣下、王妃様……国の重鎮が揃った部屋で、私はカードをすべて広げた。
「国王陛下、王妃様、宰相閣下の順番で触れてください」
関係者全員を交えて、フルカードで占う。カードが悪巧みがあるよと教えてくれたのなら、解決の糸口も見つかるはず。占い師としてできる、私の最大の協力がこれだった。
わかったと承諾した陛下が、いつもより多いカードを混ぜる。念入りにカード全てに触れようと時間をかけた。その次の王妃様も同じ、でもルーカス様は違った。一度集めるようにカードを寄せて、手を載せて目を閉じる。まるで祈るような仕草だった。
「では、始めます」
おそらく、私の一生一度の占いになるだろう。緊張して手が震えた。
「実は……プルシアイネン侯爵に縁談が来ているの」
はぁ……お相手は私ですよね。今さら何を? と首を傾げた私に、王妃様は首を横に振った。
「違うわ、あなたではないのよ。イーリス」
「え?」
いけない、素が出ちゃった。慌てて口を手で覆う。王妃様は溜め息を吐きながら、漏らしてはいけない話を始めた。
宮廷占い師は機密に触れる職種なので、誓約を交わしている。王宮で見聞きした話を、外部に漏らさない。ちなみに我が子爵家の使用人や叔母様達も同じ誓約を結んだ。そのため身内には話しても構わない。そもそも、占い師にも守秘義務があるけれど。
「隣国アベニウスはまだ諦めていないようで、鉱山を所有するネヴァライネン子爵令嬢と第九王子殿下の政略結婚を打ち出してきたの」
うわぁ……どうしても鉱山が欲しいんだな。王家直轄領だから、私が王子と結婚しても土地は置いて行くんだけど??
「それと同時に、宮廷占い師も諦めきれないのね。我が国の宰相とアベニウスの第五王女殿下の婚約も打診してきたわ」
図らずも、成立した婚約の間を割く形だ。王妃様は大きく息を吐いて、きゅっと唇を引き結んだ。
「我が国はアベニウス王国ほど大きくない。でも臣下や領地を差し出して生き延びる、醜い手は使わないわ」
ああ、なるほど。だから占いを所望なさったのね。私に政は分からないが、陛下や王妃様はこの要求を突っぱねる気でいる。戦争か、解決か。最初の占いで出たのは、この暗示だろう。
でも今占った結果は少し違う。結婚の打診以外に、隠しきれない悪巧みが表示された。つまり、この婚約の申し出の裏に、盛大な策略が仕込まれているのだ。
「王妃様……ご提案があります」
策略や謀略は私の得意分野ではない。ただ安全と思われる方向を示せるだけ。なら、これでいいよね。頷いて提案を聞いた王妃様の表情は、少しだけ柔らかくなっていた。
「わかりました。手配しましょう」
場はすぐに設けられた。王妃様の私室から少し離れた、王族用の居間を利用する。食堂でも良かったのだけれど、机が広くて遠いらしい。国王陛下と宰相閣下、王妃様……国の重鎮が揃った部屋で、私はカードをすべて広げた。
「国王陛下、王妃様、宰相閣下の順番で触れてください」
関係者全員を交えて、フルカードで占う。カードが悪巧みがあるよと教えてくれたのなら、解決の糸口も見つかるはず。占い師としてできる、私の最大の協力がこれだった。
わかったと承諾した陛下が、いつもより多いカードを混ぜる。念入りにカード全てに触れようと時間をかけた。その次の王妃様も同じ、でもルーカス様は違った。一度集めるようにカードを寄せて、手を載せて目を閉じる。まるで祈るような仕草だった。
「では、始めます」
おそらく、私の一生一度の占いになるだろう。緊張して手が震えた。
14
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。
そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。
自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。
そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる