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王太子と王宮の医師
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一方、王宮の医務室では呆れた顔をした医師が重症の側近を診察していた。
「これは……全身の骨が折れておりますし、歯も何本か抜けておりますね。王宮内でどうやったらこんな怪我を負えるのです?」
医師は「ゴリラにでも襲われたのですか?」と王太子に尋ねた。
側近の傷はゴリラ並みの腕力で吹っ飛ばされたかのように見える。
衛兵が配置されている平和な王宮内でどうやったらこんな重傷を負えるのか不思議で仕方がなかった。
「それは私にも分からない……! あの女を𠮟りつけようとしたらこんなことに……」
「あの女? まさか殿下は婦女子相手に暴行を働こうとしたのですか……?」
「なっ……ち、ちがう! 無礼な態度を改めさせようとしただけだ!!」
「改めさせる? 何をどうしようとしたのかは知りませんが、このような返り討ちに遭うということは何らかの暴力に及んだのでは?」
「いや……彼はただ私の為にアンゼリカを怒鳴りつけようとしただけで……」
「アンゼリカ……? まさか、殿下方はグリフォン公爵令嬢に無礼を働いたということですか?」
医師の責め立てるような視線に王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
「殿下……陛下よりグリフォン公爵家のご息女を丁重に扱えと申し付けられておりますことをお忘れで?」
「そ、それは……だが! 私は王太子だぞ? たかが臣下の娘如きにへりくだるなど……」
医師は大袈裟なほど大きなため息をつき、胡乱な目を向けた。
「殿下……王宮を維持するための資金及び王族方の生活資金が何処から支払われているかをご存じですか?」
「は? 資金……? 何だいきなりそんな関係のない話をして……」
「関係ないなどと言われては困るのですよ! いいですか? 先程申し上げた資金のみならず、我々使用人の給金だって支払っているのは貴方の婚約者の家なのですよ!? それを知らないとは言わせませんからね!」
「そ、それは……知っているが……」
「知っているなら婚約者様に対しての態度を改めてください! アンゼリカ様に婚約を解消されたらもう後がないって分かっていますか!?」
先程の教師の態度からも察せるように、この城で王太子の威信は地の底に落ちていた。自分が施しを受ける側だと自覚しない横柄な態度の数々は目に余るというのもあるが、理由はそれだけではない。
「うるさい! 私は王太子だぞ!? どうして臣下の娘如きに媚びを売る必要が……」
「必要に決まっているでしょうが!! だいたい、殿下がミラージュ様と婚約破棄したせいで我々の給金は一月分未払いになっていたんですからね!?」
「は……? 給金が未払い? それは婚約破棄と何の関係があるのだ……?」
「それまでサラマンドラ家が給金を支払ってくれていたからですよ……! 婚約破棄して何の関係もなくなればお金なんて支払いませんよ! 未払い分も含めて昨日グリフォン公爵家が支払ってくれなければ、王宮にいる使用人は全員辞職願を提出するところでした。もちろん私も含めて……」
自分達が給金未払いで苦しんでいるというのに、元凶である王太子の生活は何も変わらなかった。
だからこんな愚かな言動を繰り返すのだと思うと医師は腸が煮えくり返りそうな思いに駆られる。
「大切な事なので何度も申し上げます。殿下、アンゼリカ様を丁重に扱ってください。そうしないとこの王宮から使用人が全て消えますよ?」
医師の剣幕に圧倒される王太子は言葉を詰まらせる。
それでも何か反論しようとすると、医務室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。
「これは……全身の骨が折れておりますし、歯も何本か抜けておりますね。王宮内でどうやったらこんな怪我を負えるのです?」
医師は「ゴリラにでも襲われたのですか?」と王太子に尋ねた。
側近の傷はゴリラ並みの腕力で吹っ飛ばされたかのように見える。
衛兵が配置されている平和な王宮内でどうやったらこんな重傷を負えるのか不思議で仕方がなかった。
「それは私にも分からない……! あの女を𠮟りつけようとしたらこんなことに……」
「あの女? まさか殿下は婦女子相手に暴行を働こうとしたのですか……?」
「なっ……ち、ちがう! 無礼な態度を改めさせようとしただけだ!!」
「改めさせる? 何をどうしようとしたのかは知りませんが、このような返り討ちに遭うということは何らかの暴力に及んだのでは?」
「いや……彼はただ私の為にアンゼリカを怒鳴りつけようとしただけで……」
「アンゼリカ……? まさか、殿下方はグリフォン公爵令嬢に無礼を働いたということですか?」
医師の責め立てるような視線に王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
「殿下……陛下よりグリフォン公爵家のご息女を丁重に扱えと申し付けられておりますことをお忘れで?」
「そ、それは……だが! 私は王太子だぞ? たかが臣下の娘如きにへりくだるなど……」
医師は大袈裟なほど大きなため息をつき、胡乱な目を向けた。
「殿下……王宮を維持するための資金及び王族方の生活資金が何処から支払われているかをご存じですか?」
「は? 資金……? 何だいきなりそんな関係のない話をして……」
「関係ないなどと言われては困るのですよ! いいですか? 先程申し上げた資金のみならず、我々使用人の給金だって支払っているのは貴方の婚約者の家なのですよ!? それを知らないとは言わせませんからね!」
「そ、それは……知っているが……」
「知っているなら婚約者様に対しての態度を改めてください! アンゼリカ様に婚約を解消されたらもう後がないって分かっていますか!?」
先程の教師の態度からも察せるように、この城で王太子の威信は地の底に落ちていた。自分が施しを受ける側だと自覚しない横柄な態度の数々は目に余るというのもあるが、理由はそれだけではない。
「うるさい! 私は王太子だぞ!? どうして臣下の娘如きに媚びを売る必要が……」
「必要に決まっているでしょうが!! だいたい、殿下がミラージュ様と婚約破棄したせいで我々の給金は一月分未払いになっていたんですからね!?」
「は……? 給金が未払い? それは婚約破棄と何の関係があるのだ……?」
「それまでサラマンドラ家が給金を支払ってくれていたからですよ……! 婚約破棄して何の関係もなくなればお金なんて支払いませんよ! 未払い分も含めて昨日グリフォン公爵家が支払ってくれなければ、王宮にいる使用人は全員辞職願を提出するところでした。もちろん私も含めて……」
自分達が給金未払いで苦しんでいるというのに、元凶である王太子の生活は何も変わらなかった。
だからこんな愚かな言動を繰り返すのだと思うと医師は腸が煮えくり返りそうな思いに駆られる。
「大切な事なので何度も申し上げます。殿下、アンゼリカ様を丁重に扱ってください。そうしないとこの王宮から使用人が全て消えますよ?」
医師の剣幕に圧倒される王太子は言葉を詰まらせる。
それでも何か反論しようとすると、医務室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。
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