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こりない彼女の夫
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「最近毎日のように来るわね? 何なのかしらいったい……」
「あー……もしかしたら最近愛人にかまってもらえてないからかもしれませんね? ほら、ここによく来るあのケバい女!」
「マリアナのこと? そういや最近ここにも来なくなったわね……?」
ジュリエッタとシロは足元に倒れる伯爵を見下ろしながら平然と会話を続けた。
伯爵はここ最近、毎日のように別邸を訪れジュリエッタに迫ってくる。
そしてそれをシロに物理的に阻止され、本邸に戻されるというサイクルを繰り返していた。
「この人が邸の中に入ってくるのって、精神的に結構キツイのよね……。入ってこられないように出来ないかしら?」
マリアナの相手をするのは面白くてよかったが、伯爵相手だと生理的な嫌悪感がすごい。
もう存在自体が生理的に無理だ。邸に入ってくるだけで鳥肌が立つ。
いっそのこと侵入経路に駆除剤を置いてしまいたい。
「俺もこの気持ち悪い男がお嬢様に近づくのは嫌ですよ。でも、外でこいつを昏倒させたところを誰かに見られるとわけにはいきません。俺の存在を外部の人間に知られても困りますしね。絶対に手出しはさせませんから、耐えてくださいお嬢様」
「そうよね……。シロを見られたら私が愛人を連れ込んでるとか騒がれるわよね。それは困るわ……」
「ええ……こいつが夫として全く機能していないド底辺屑男だとしても、女性が不貞をするのは許されないですからね」
「不貞をしているのは伯爵の方なのにね……」
「貴族の世界なんて男女不平等ですよ。男の不貞は許されても女の不貞は許されないというおかしな世界。ほら、花嫁に処女性を求めるくせして花婿に童貞を求めないじゃないですか?」
「そういやそうよね。平民だとそんなの気にしないのにね?」
貴族社会の男女不平等、というよりも女性の地位の軽さにジュリエッタは辟易していた。
女性は『修道女かよ』というくらいに高い貞操観念を求められるのに、男性は色を好むことは『仕方ないね』と推奨される。その家の、青い血を引く尊き子が増えることは喜ばしいとされているからだ。
だから自分の父親であるハルバード公爵が、やたらと婚外子を増やすことも見て見ぬふりをされている。
正妻である公爵夫人もこれを責めることはできないようだ。
ジュリエッタの感覚だと、自分の夫が外でやたらと子供を作ってくるのを妻が咎めてはいけないなんて馬鹿げた話でしかない。
だって普通に気持ち悪いではないか。他所で子供を作ってくる夫なんて。
そんな夫に愛情を注げる妻がどこにいるというのか。公爵夫人も夫であるハルバード公爵を気味の悪い害虫を見るような目をしていた。
「そもそも、お嬢様を蔑ろにしておいて平然と抱こうとする神経がどうかと思います。初日に愛人を侍らして『お前を愛することはない』というお決まりの台詞を吐いておいて……」
「その通りだわ。そういうところが傲慢よね。貴族の男って皆そうなのかしら?」
ジュリエッタの脳裏に父親であるハルバード公爵が浮かんだ。
彼も伯爵同様、己の欲の為に女性に手を出している節がある。
違うと言えば欲の種類だ。伯爵は性欲で女に手を出すが、公爵は己の目的のために手を出している。
「何でしょうね、その……自分に抱かれることは名誉だろうみたいな感覚。キショイですね」
「高い身分に生まれるとそういう勘違いしちゃうのかしらね? 傲慢だわ」
名誉どころか悍ましくて仕方ない。
マリアナは望んで伯爵に抱かれているのだろうが、ジュリエッタは違う。
いくら妻といえども、自分を粗末に扱う相手に抱かれたいなど思うわけもない。
そもそも離婚ありきの結婚なので、世継ぎを産む必要もない。
なのでジュリエッタが伯爵に抱かれたい理由なんてものは、この世のどこにも存在しないのだ。
「あー……もしかしたら最近愛人にかまってもらえてないからかもしれませんね? ほら、ここによく来るあのケバい女!」
「マリアナのこと? そういや最近ここにも来なくなったわね……?」
ジュリエッタとシロは足元に倒れる伯爵を見下ろしながら平然と会話を続けた。
伯爵はここ最近、毎日のように別邸を訪れジュリエッタに迫ってくる。
そしてそれをシロに物理的に阻止され、本邸に戻されるというサイクルを繰り返していた。
「この人が邸の中に入ってくるのって、精神的に結構キツイのよね……。入ってこられないように出来ないかしら?」
マリアナの相手をするのは面白くてよかったが、伯爵相手だと生理的な嫌悪感がすごい。
もう存在自体が生理的に無理だ。邸に入ってくるだけで鳥肌が立つ。
いっそのこと侵入経路に駆除剤を置いてしまいたい。
「俺もこの気持ち悪い男がお嬢様に近づくのは嫌ですよ。でも、外でこいつを昏倒させたところを誰かに見られるとわけにはいきません。俺の存在を外部の人間に知られても困りますしね。絶対に手出しはさせませんから、耐えてくださいお嬢様」
「そうよね……。シロを見られたら私が愛人を連れ込んでるとか騒がれるわよね。それは困るわ……」
「ええ……こいつが夫として全く機能していないド底辺屑男だとしても、女性が不貞をするのは許されないですからね」
「不貞をしているのは伯爵の方なのにね……」
「貴族の世界なんて男女不平等ですよ。男の不貞は許されても女の不貞は許されないというおかしな世界。ほら、花嫁に処女性を求めるくせして花婿に童貞を求めないじゃないですか?」
「そういやそうよね。平民だとそんなの気にしないのにね?」
貴族社会の男女不平等、というよりも女性の地位の軽さにジュリエッタは辟易していた。
女性は『修道女かよ』というくらいに高い貞操観念を求められるのに、男性は色を好むことは『仕方ないね』と推奨される。その家の、青い血を引く尊き子が増えることは喜ばしいとされているからだ。
だから自分の父親であるハルバード公爵が、やたらと婚外子を増やすことも見て見ぬふりをされている。
正妻である公爵夫人もこれを責めることはできないようだ。
ジュリエッタの感覚だと、自分の夫が外でやたらと子供を作ってくるのを妻が咎めてはいけないなんて馬鹿げた話でしかない。
だって普通に気持ち悪いではないか。他所で子供を作ってくる夫なんて。
そんな夫に愛情を注げる妻がどこにいるというのか。公爵夫人も夫であるハルバード公爵を気味の悪い害虫を見るような目をしていた。
「そもそも、お嬢様を蔑ろにしておいて平然と抱こうとする神経がどうかと思います。初日に愛人を侍らして『お前を愛することはない』というお決まりの台詞を吐いておいて……」
「その通りだわ。そういうところが傲慢よね。貴族の男って皆そうなのかしら?」
ジュリエッタの脳裏に父親であるハルバード公爵が浮かんだ。
彼も伯爵同様、己の欲の為に女性に手を出している節がある。
違うと言えば欲の種類だ。伯爵は性欲で女に手を出すが、公爵は己の目的のために手を出している。
「何でしょうね、その……自分に抱かれることは名誉だろうみたいな感覚。キショイですね」
「高い身分に生まれるとそういう勘違いしちゃうのかしらね? 傲慢だわ」
名誉どころか悍ましくて仕方ない。
マリアナは望んで伯爵に抱かれているのだろうが、ジュリエッタは違う。
いくら妻といえども、自分を粗末に扱う相手に抱かれたいなど思うわけもない。
そもそも離婚ありきの結婚なので、世継ぎを産む必要もない。
なのでジュリエッタが伯爵に抱かれたい理由なんてものは、この世のどこにも存在しないのだ。
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