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第二章

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「……なんだ貴様は?」
「覚えてないんですか!? ゼロスさん、あの時助けてもらったらスライムですよ……」
「……覚えていないな」

 どうやらゼロスの知り合いだったようだけど……
 どうも覚えていないようだ。

「えっと……君はゼロスに助けてもらったって言ってるけど、どこでどうやって助けてもらったの?」
「……人間ですか?」
「魔族に見える?」
「見えません! ああ、人間の人と話をするのは初めてで、緊張します」

 少し照れるスライムは可愛かった。
 何と言うか、飼いたいような衝動に駆られる。
 ペット的な可愛さを備えたスライムが無性に触りたくなり、私はスライムの頭を撫でた。

「可愛いね」
「…………」

 青色の体が真っ赤に染まる。
 どこまで可愛いんだ、この子。
 一緒にいたサリアまでスライムを触り出し、スライムは溶けてしまいそうなほど、身体が柔らかくグチャグチャになっていた。

「あ、あの……あまり触られると恥ずかしくてとろけちゃいます」
「ああ、ごめんね。それで、ゼロスとはどこで?」
「あ……ゼロスさんには、以前、巨人族の人に襲われそうになったところを助けていただきました」
「巨人族……確かに、一度戦ったことがあるが……お前なんか知らないぞ」
「酷い! そりゃ、存在感は薄いかもしれませんが、あの時ちゃんといましたよ! ちゃんといたし、ちゃんと助けていただいた御恩は忘れていません! だからこうして、あなたを追いかけてここまで来たんです」

 ゼロスのことを慕っているようだな。
 でも可哀想なぐらいゼロスはこの子の事を覚えいていないみたい。
 
「恩などどうでもいい。さっさと自分のいた場所に帰れ」
「僕の居場所はゼロスさんがいるところです! もうそう決めたんです! だからここでゼロスさんのお世話をさせてください!」
「……俺はいい。その代わりリナ様のお世話をしろ」
「リナ様……?」
「今お前の頭を撫でているお方だ」

 スライムは私の顔を見上げ、そして真剣な目をする。

「これからお世話になります、リナ様。そしてお世話をさせていただきます!」
「勝手に話決まっちゃった!? いや、私はいいんだけど、君はそれでいいの?」
「はい。ゼロスさんがそう言うのだから、そうします」
「そっか……それでいいんだ」

 なんとも簡単な。
 人生の分岐点と言っていいぐらい大事な選択だと思うんだけど。
 なのに、晩御飯を選ぶぐらい簡単に決めちゃうんだもんな。

「ねえリナ」
「どうしたの、サリア?」
「この子もここにいるって……まぁ、この子は目立たないからいいけどさ」
「そ、存在感が薄いのは重々承知ですけど、そんなハッキリ言われた傷つきますよ!?」
「あ、ごめん……目立たないって、小さいからって意味なの」
 
 サリアの言葉に納得いったのか、スライムは「なるほど」と短く漏らす。

「それで、この子はいいとしてさ、他のオーガたちはどうする? この場所にほとんど人は来ないけど、来たら来たらで面倒なことになると思うよ? 食材なんかはどうする? きっと沢山食べるよ?」
「そうだよね……でも、追い返すのも可哀想じゃない? 皆ゼロスを慕ってここに来て……それに私もなんだかワクワクしてる部分もあるの。友達が増えたみたいで、嬉しい。だから皆のことも守ってあげたいな」

 サリアは苦笑いを浮かべながら続ける。

「あんたが優しいのは知ってる。だからこれからどうするべきか。一緒に考えないと」
「うん。問題点は多いけど、でも皆で楽しく暮らすのもいいよね」
「リナ殿」
「どうしたの、ゼロス?」

 ゼロスがやや神妙な顔つきで私の前に立つ。

「こいつらを連れて、どこか実践訓練に行きたいのですが……どこかモンスターと戦える場所はないでしょうか?」
「流石にそれはダメよ……ここで暮らしていかなくていいなら、勝手にしたらいいと思うけど」
「それは……嫌です。ここを離れたくはありません」

 大層顔色を青くするゼロス。
 そんなにここにいたいのか……
 
 ゼロスが来たことでトラブルも増えたような気もするけど、でも、以前よりここは活気に溢れ出した。
 それはきっと、子供たちにしてもいいことだと思う。
 私も今は皆がいることが楽しい。
 だからなんとかしてあげたいけど……なんとかならないかな。

 なので私はクマに相談することにした。
 クマは物知りだから、もしかしたらいい解決策を提案してくれるかもしれない。

「クマ。ちょっといい」
「なんだい、リナ様」

 近くにいたクマがフワフワ飛んでこちらに近づいて来る。

「オーガの皆が、実践訓練をしたいって言ってるんだけど……なにかいい方法があるかな? 大勢でここから出たら、人間の皆に怖がられるだろうし、戦いになったら大変だしさ」

 と言うか、よくここに来るまでに戦闘に巻き込まれなかったものだなと、今更ながらその奇跡的ともいえる確率に驚く私。

「そうだね……『クリエイト』で、何か創るのはどうだろう? 今のリナ様なら色んなことができるんだ。きっとそれらを解消することだって、可能なはずさ」
「『クリエイト』か……何かを創って……」

 『クリエイト』で何ができるのか、私は深く思案をする。
 そこからあることに思いつくのに、そう時間はかからなかった。
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