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127.拒否

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それから程なくして、先程食事を運んできた衛兵たちが、食器を下げにやってきた。
衛兵の気配を察知したパトリスはいち早く口を噤み、様子を伺っているようだった。

「アリーチェ王女………。全く手を付けてないではありませんか。食事が、御口に合いませんでしたか?」

アリーチェの部屋に入ってきた衛兵が、出されたままの食事を見つめると、驚いたように呟いた。

「………食欲が、ないのです」

それは、誤魔化しや嘘などではなく、事実だった。
自分が信じていた者に裏切られ、驚くべき事実が次々と明かされ、挙げ句の果てにこのように幽閉されてなお、平然と食事を摂れるほど、流石に肝は座っていない。
空腹だとは思うが、食事をしたいという欲求など皆無になるのは、仕方のないことだろう。

「………国王陛下が心配なさいますので、どうか一口だけでも…………」
「食べたくありません」

衛兵の懇願を、アリーチェはぴしゃりと遮り、そっぽを向く。
小さな溜息が聞こえてきて、それから視界の隅に、恨めしそうにこちらを見つめる衛兵が映った。

衛兵には悪い気がしたが、彼とて全てを知った上でセヴランに仕えているのだから、アリーチェにとっては敵に違いなかった。

それにセヴランが心配しようが、それはアリーチェにとっては関係のないことで、正直なところ、どうでも良かった。
それに、セヴランとて好きでアリーチェを気にかけている訳ではないだろう。
セヴランがアリーチェを丁重に扱うのは、彼が望むものを手に入れるための道具になり得る存在だからだろう。
セヴランにとってはアリーチェも、他のものもその程度のものなのだ。

そう考えると、セヴランの言いなりになるのは悔しい気がして、少しでも良いから困らせてやりたいという、どす黒い感情が沸々と湧き出してくる。

「………………」

微動だにしないアリーチェに、衛兵は深い溜息を零すと、渋々食器を手にし、部屋を後にした。

壁の向こうで、同じように扉のしまる音がした。
そして、パトリスの部屋から出てきた衛兵は、パトリスの方をじっと見つめてから、徐に口を開いた。

「………王太子殿下も、あのような振る舞いさえしなければよなったものを………」

嘲りと、ほんの少しの落胆を孕んだ声が、小さくそう呟いた気がした。
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