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126.親子の情
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先程まで湯気を立てていた食事はすっかり冷めてしまっていた。
この空間には不釣りあいな程に豪華な料理を見つめながら、アリーチェはそっと両手を擦り合わせた。
陽の光が当たらないせいなのか、部屋を漂う空気は淀んだ冷気を孕んでおり、沈黙が生み出す重苦しさと相俟って、居た堪れない雰囲気を醸し出している。
その空気感はじわじわとアリーチェの体温を奪っていくようだった。
「………そうですね………。理由の一つは、強いて言うのであれば保身の為、でしょうか」
どこか悲しげな物静かな声がそう囁いた。
「………情けないですよね。父を止めたいなどと言っておきながら、いざとなるとこうして及び腰になるのですから。………ですが、父の暴走を阻止するのは私自身が為さなければならないことなのです」
パトリスの口振りは、まるでそれが自分の天命であるかのようなものだった。
きっとパトリスは父王との関係に悩み、自身の存在意義を自問しながら生きてきたのだろう。
彼の言葉からはそんな気持ちが滲んでいるようにアリーチェには感じられた。
「おそらく魔石の魔力が通用しないという事実を知れば、別の方法で口封じをしてきたはずです。………おそらく命を取ることまではしないでしょうが、それでもこうして手足を鎖で繋がれ、幽閉されるくらいでは済まなかったでしょう」
いくら口封じのためとは言っても、こうしてパトリスを幽閉しているというだけでも些か過剰な処罰だと感じるのに、それ以上の方法とは何を示すのだろうと思いながらも、聞くのが恐ろしくて尋ねるのを止めた。
ただ理解できたのは、あの穏やかで優しそうなセヴラン王の本性は、残忍な独裁者であるということだ。
笑顔の裏で、人を陥れ、数多の命を奪い、己の欲するものを手に入れてきたのだろう。
それを目の当たりにし、パトリスは父の暴走を止める決心をしたに違いない。
アリーチェはそんなパトリスに寄り添うように、ひんやりとした石の壁に掌を当てた。
「あの時に、私に出来た最善の方法だったと思います。………時が来れば、必ず私は父を…………」
ガシャン、と重たい金属音が響き、アリーチェはびくりと肩を揺らした。
どうやらパトリスが壁に手を叩きつけたせいで鎖がぶつかった音のようだ。
彼とセヴランとの間には、親子の情などないのだろう。
欲に溺れ、最も近しい人間との信頼関係を失ったセヴランが、何だか哀れに思えた。
この空間には不釣りあいな程に豪華な料理を見つめながら、アリーチェはそっと両手を擦り合わせた。
陽の光が当たらないせいなのか、部屋を漂う空気は淀んだ冷気を孕んでおり、沈黙が生み出す重苦しさと相俟って、居た堪れない雰囲気を醸し出している。
その空気感はじわじわとアリーチェの体温を奪っていくようだった。
「………そうですね………。理由の一つは、強いて言うのであれば保身の為、でしょうか」
どこか悲しげな物静かな声がそう囁いた。
「………情けないですよね。父を止めたいなどと言っておきながら、いざとなるとこうして及び腰になるのですから。………ですが、父の暴走を阻止するのは私自身が為さなければならないことなのです」
パトリスの口振りは、まるでそれが自分の天命であるかのようなものだった。
きっとパトリスは父王との関係に悩み、自身の存在意義を自問しながら生きてきたのだろう。
彼の言葉からはそんな気持ちが滲んでいるようにアリーチェには感じられた。
「おそらく魔石の魔力が通用しないという事実を知れば、別の方法で口封じをしてきたはずです。………おそらく命を取ることまではしないでしょうが、それでもこうして手足を鎖で繋がれ、幽閉されるくらいでは済まなかったでしょう」
いくら口封じのためとは言っても、こうしてパトリスを幽閉しているというだけでも些か過剰な処罰だと感じるのに、それ以上の方法とは何を示すのだろうと思いながらも、聞くのが恐ろしくて尋ねるのを止めた。
ただ理解できたのは、あの穏やかで優しそうなセヴラン王の本性は、残忍な独裁者であるということだ。
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それを目の当たりにし、パトリスは父の暴走を止める決心をしたに違いない。
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「あの時に、私に出来た最善の方法だったと思います。………時が来れば、必ず私は父を…………」
ガシャン、と重たい金属音が響き、アリーチェはびくりと肩を揺らした。
どうやらパトリスが壁に手を叩きつけたせいで鎖がぶつかった音のようだ。
彼とセヴランとの間には、親子の情などないのだろう。
欲に溺れ、最も近しい人間との信頼関係を失ったセヴランが、何だか哀れに思えた。
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