冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(13)

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「テオ様…………」

昨夜、あんな事を言って別れてしまった手前、何だか気まずい気がして、リディアは気づかれないようにそっと顔を背けた。

「もしかして、お邪魔でしたか?」

視界の隅で、テオが少し困ったような笑顔を浮かべるのが見えた。

「いえ…………」

また素っ気ない返事をすると、隣にいたアンナがそれを取り繕うように満面の笑みを浮かべた。

「邪魔だなんて、とんでもないです。私、初めての舞踏会で………この雰囲気に圧倒されてしまって、リディアさんに緊張を解して貰っていたんです。………そう言えば、私ダンテ様に報告しておかなければならないことがあるのでした。少し席を外しますね」

唐突にそんな事を言い出すと、アンナはドレスの裾を翻し、エドアルドとクラリーチェの様子を見守っているダンテの方へと向かった。
当然その場には、テオとリディアが取り残される形になった。

「………そのドレス、とてもお似合いです。深い緑色もシンプルなデザインも、リディア嬢の凛々しい雰囲気に良く合っていますね」

どこか恥ずかしそうに、テオがはにかんだ笑顔を向けてくれた。
家族以外の異性から、そんな言葉を向けられたのは生まれて初めてで、元々混乱気味だったリディアの頭の中は雑駁としていた。
どう答えていいのか分からずに、リディアは押し黙ったまま目を伏せた。

その時偶然にも舞踏会の開会を知らせる音楽が流れ始め、自ずとそちらに意識が向いた事で、ほんの少し冷静さが戻ってきた気がした。
じっとテオに視線を合わせると、リディアはゆっくりと口を開いた。

「…………ありがとう、ございます」

聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声を絞り出すと、一瞬テオは驚いたように目を見開いた後、リディアに向かって破顔した。

リディアはその笑顔の眩しさに、思わずはっと息を呑んだ。

それと同時に、テオの笑顔をしっかりと目を向けたのが初めてだったという事に気がついた。
勿論、彼の笑顔を目にしたことは何度もある。
だが、それは『見て』いただけできちんと向かい合っていなかった。

周囲に才能を認められ、それでも慢心することなく努力し続けたテオ。
そういった他人からの評価に踊らされ、リディア自身はテオ・スカリオーネという人間を見ようとせず、彼自身を知ろうとせずに彼に反発していただけなのだと思い至る。

自分が、テオの事をどう思っているのか。

クラリーチェが問いかけてきた意味が、その答えが、漸く理解わかってきた気がした。
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