上 下
17 / 57
啓子が啓子を着る!

橘花宮妃の部屋

しおりを挟む
 わたしが好きな悪役令嬢の運命といえば、国外に追放されたり身分を剥奪されて平民や奴隷にされたりとロクな目に合っていない。酷い場合には処刑されるが、そういった場合には相応に悪い事をしている場合があった。ただ、どこかの国の国王夫人のように革命軍によって処刑される話は絶対ダメだと聞いたことがあった。それは場合によっては皇帝陛下に対し不敬罪になるかもしれないからだという。

 そんな悪役令嬢が主人公に再会する場合、憐れんでなのか、はたまたざまーみろとばかりに軽蔑の眼差しを向ける事だろう。悪役はその行いにふさわしい運命があるということのようだ。一方、人形の啓子からすればわたしは悪役令嬢に相当するといえた。もっとも、人形の啓子の恋路ロマンスの邪魔をした覚えなんかなかったけど。それにしても今更、使用人メイドのわたしを呼んでどうするのだろうか不思議に思っていた。

 その日は、哲彦は軍務で前線に近い師団本部に出張していた。哲彦は時代の最先端の陸軍航空隊参謀の一人で、思わしくない戦況を打開すべく苦労していたようだ。もっとも、そのころには皇帝陛下の体調が思わしくなく、場合によっては皇太子殿下への禅譲がなされる可能性があったという。その場合には皇太子殿下に女子しかお子さんがいないので、哲彦が皇帝継承権第一位になり皇太子に指名されるので、軍務を退役する予定だったという。そんな夫が不在のなかでわたしに何の用があるのだろう?

 わたしは宮殿の三階にある橘花宮妃の部屋の隣の部屋に通された。この三階は宮夫婦とその付き人以外の立ち入りが厳重に禁止されているので、わたしが入るのは初めてだった。この宮殿の他の部屋は陸軍省が使用した際に豪華な調度品や壁の装飾は邪魔だとして全て撤去されてしまい、質素な趣になっていたけど、ここだけはかつての皇帝陛下の隠居場所に相応しい優雅な部屋だった。そこに通された時、奥から人形たちがやって来た。啓子なの? と思ったがそれはお付きの女官のようだった。そうやら妃に仕えるのも人形のようだった。わたしは何が起ころうとしているのかとドキドキしていた。

 「啓子奥様であられますわね。本当に啓子殿下とよく似ておられる」

 わたしは何の事なのかその時分からなかった。すると人形の女官は思わぬことを言い出した。

 「奥様の身体を計測いたしますので、いま着ている服を脱いでください」

 わたしは何にも説明されないのに、そのような事を言われ唖然としてしまった。でも、ここでは使用人は命令に従うしかないので着ていたメイド服を脱ぐしかなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今度こそ穏やかに暮らしたいのに!どうして執着してくるのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,362pt お気に入り:3,405

知的障害女子あるある。

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:2

魔王やめて人間始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,727

元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:901

気づいたら異世界転移してました ~異世界(?)で自分だけの村作る~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:10

ショタゴンクエスト!! 始まりの異世界

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:102

帝国の曙

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

処理中です...