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原作のアンナはアイゼン以外の友達はいなかった。それに対して、彼女に悪意や敵意を持って接する人が多かった。アンナのエマに対するヒステリックな言動やわがままが原因の一つだったのだろう。でも、それにしても彼女に対する悪口は凄まじいものがあった。様々な身分の子息令嬢が彼女に対してなら何を言ってもいいと思っているようだった。
でも、もし私が、仮にエマではなくモブキャラの令嬢に転生したら、あんな風にアンナの悪口を言わない。それは、アンナの性格の問題や、偽善などではなく、彼女がケラー公爵家の娘であり、未来の王太子妃だからだ。
学園を卒業した後のことを考えたら、アンナと敵対することに全くもってメリットがない。彼女に嫌われて、親戚や家門の利権や中央政府での人事に影響があっては大変だ。
だから、アンナの悪口を言いふらすくらいなら、彼女へ積極的に近づいて、手のひらで転がした方がいい。
「ごめんなさい、反応に困るような嫌な言い方をしてしまって」
アンナは悲しそうな顔で言った。
「いいえ。夢の中のアンナ様は苦しい思いをされていたんですよね。辛いとは思いますが、お話の続きが聞きたいです」
アンナはこくりと頷いた。
「禁断の園で出会ってから、あの子は頻繁に私のもとに現れる様になりました。あの子は私が独りぼっちの時に。辛くて悲しい時に来てくれて。夢の中の私はあの子にずっと救われていました」
原作では、卒業パーティ直前の段階にぽっと出で現れる魔物だったけれど。アンナとは長い付き合いだったらしい。
「私は、独りぼっちで毎日誰かに悪く言われて辛かった。ハインツ様は私を助けてくださらないのも堪えました。ハインツ様の目にはエマさんしか映っていなかったから。だから、私はますますエマさんに嫉妬して、ついにおかしくなったんです」
アンナの目からぽろぽろと涙が出てきた。慌ててハンカチを差し出すと、アンナは断り、自分のハンカチを使って涙を拭った。
「ごめんなさい。夢の中の話なのに、涙なんか流してしまって」
「いいえ」
夢の中で『3』を体験しているなら、泣いてしまうのは仕方ないだろう。私がアンナの立場ならそんな状況は絶対に堪えられない。
「すみません。話を続けますね。おかしくなった私は、ある日、あの子に言うんです。『エマ・マイヤーを消して』って。あの子はとても悲しそうな目で私を見つめていました。そしてそのまま消えたんです」
アンナは手に持ったハンカチをぐっと握りしめた。
「私はもう二度とあの子に会えないような気がして後悔しました。でも、次の日、あの子は現れてくれました。いつも以上に私を愛おしむ様に見つめたんです。私が撫でてあげたら、あの子の瞳の色がギラリと変わり金色になりました。その時、あの子の声が初めて聞こえたんです。"エマ・マイヤーを君の前から消してあげる。卒業パーティの日を楽しみにしているんだよ"って。私はあの子の声に心底喜びました」
ーー金色に変わった?瞳の魔物は、2体いるのではないの?
「私は、卒業パーティの日にエマさんが死ぬんだと思っていました。"あの子は私のためにやってくれる。卒業パーティにはエマさんは来ない"って」
原作では、卒業パーティ直前にエマは瞳の魔物に襲われる。でも、駆けつけた攻略対象によって何とか難を逃れる。
瞳の魔物はアンナの名前を呼びながら退散した。だから、エマと攻略対象は卒業パーティに行って、アンナの罪を白日の下に晒すのだけど。
今思うと、この展開には違和感しかない。
まず、ラスボス的位置付けであるはずの、瞳の魔物が異常なまでに弱すぎた。
ゲームでは、ミニゲームで瞳の魔物と戦う。これまでの授業や主要キャラとの交流で覚えた魔法を使って戦闘をするのだけど。ゲームバランスがとにかくおかしかった。
1年生の時点で覚えられる"ライト"を5回連打するだけで勝てる。取得条件がやや難しい、上位魔法の"光の矢"を使えば一発で終わった。
だから、ユーザーからは「このミニゲームいる?」とか、「勝利への茶番」とか、「ひどすぎる調整ミス」とか、散々な酷評をされていた。
それに、瞳の魔物が撤退する際にアンナの名前を呼ぶのもおかしい。そんなのアンナを疑って下さいと言っているようなものだ。
「あの、エマさん? 気を悪くされましたか?」
アンナの声で我に返った。
「違うんです。気になることがあって」
「気になること?」
「それを話す前に、今はアンナ様の夢のお話を全て聞きたいです」
そう言うとアンナは「分かりました」と言って話を続けた。
でも、もし私が、仮にエマではなくモブキャラの令嬢に転生したら、あんな風にアンナの悪口を言わない。それは、アンナの性格の問題や、偽善などではなく、彼女がケラー公爵家の娘であり、未来の王太子妃だからだ。
学園を卒業した後のことを考えたら、アンナと敵対することに全くもってメリットがない。彼女に嫌われて、親戚や家門の利権や中央政府での人事に影響があっては大変だ。
だから、アンナの悪口を言いふらすくらいなら、彼女へ積極的に近づいて、手のひらで転がした方がいい。
「ごめんなさい、反応に困るような嫌な言い方をしてしまって」
アンナは悲しそうな顔で言った。
「いいえ。夢の中のアンナ様は苦しい思いをされていたんですよね。辛いとは思いますが、お話の続きが聞きたいです」
アンナはこくりと頷いた。
「禁断の園で出会ってから、あの子は頻繁に私のもとに現れる様になりました。あの子は私が独りぼっちの時に。辛くて悲しい時に来てくれて。夢の中の私はあの子にずっと救われていました」
原作では、卒業パーティ直前の段階にぽっと出で現れる魔物だったけれど。アンナとは長い付き合いだったらしい。
「私は、独りぼっちで毎日誰かに悪く言われて辛かった。ハインツ様は私を助けてくださらないのも堪えました。ハインツ様の目にはエマさんしか映っていなかったから。だから、私はますますエマさんに嫉妬して、ついにおかしくなったんです」
アンナの目からぽろぽろと涙が出てきた。慌ててハンカチを差し出すと、アンナは断り、自分のハンカチを使って涙を拭った。
「ごめんなさい。夢の中の話なのに、涙なんか流してしまって」
「いいえ」
夢の中で『3』を体験しているなら、泣いてしまうのは仕方ないだろう。私がアンナの立場ならそんな状況は絶対に堪えられない。
「すみません。話を続けますね。おかしくなった私は、ある日、あの子に言うんです。『エマ・マイヤーを消して』って。あの子はとても悲しそうな目で私を見つめていました。そしてそのまま消えたんです」
アンナは手に持ったハンカチをぐっと握りしめた。
「私はもう二度とあの子に会えないような気がして後悔しました。でも、次の日、あの子は現れてくれました。いつも以上に私を愛おしむ様に見つめたんです。私が撫でてあげたら、あの子の瞳の色がギラリと変わり金色になりました。その時、あの子の声が初めて聞こえたんです。"エマ・マイヤーを君の前から消してあげる。卒業パーティの日を楽しみにしているんだよ"って。私はあの子の声に心底喜びました」
ーー金色に変わった?瞳の魔物は、2体いるのではないの?
「私は、卒業パーティの日にエマさんが死ぬんだと思っていました。"あの子は私のためにやってくれる。卒業パーティにはエマさんは来ない"って」
原作では、卒業パーティ直前にエマは瞳の魔物に襲われる。でも、駆けつけた攻略対象によって何とか難を逃れる。
瞳の魔物はアンナの名前を呼びながら退散した。だから、エマと攻略対象は卒業パーティに行って、アンナの罪を白日の下に晒すのだけど。
今思うと、この展開には違和感しかない。
まず、ラスボス的位置付けであるはずの、瞳の魔物が異常なまでに弱すぎた。
ゲームでは、ミニゲームで瞳の魔物と戦う。これまでの授業や主要キャラとの交流で覚えた魔法を使って戦闘をするのだけど。ゲームバランスがとにかくおかしかった。
1年生の時点で覚えられる"ライト"を5回連打するだけで勝てる。取得条件がやや難しい、上位魔法の"光の矢"を使えば一発で終わった。
だから、ユーザーからは「このミニゲームいる?」とか、「勝利への茶番」とか、「ひどすぎる調整ミス」とか、散々な酷評をされていた。
それに、瞳の魔物が撤退する際にアンナの名前を呼ぶのもおかしい。そんなのアンナを疑って下さいと言っているようなものだ。
「あの、エマさん? 気を悪くされましたか?」
アンナの声で我に返った。
「違うんです。気になることがあって」
「気になること?」
「それを話す前に、今はアンナ様の夢のお話を全て聞きたいです」
そう言うとアンナは「分かりました」と言って話を続けた。
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