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「卒業パーティの日に、私はハインツ様にエスコートされて会場に行きました。エスコートとは言っても、会場に着いたらハインツ様は私をおいてどこかにいってしまわれたのですが」
 アンナは悲しそうに自嘲していた。

 ハインリヒルートでは、彼はエマを助けると、アンナをパーティ会場へと連れて行った。ゲームの中では、"一目に付く場所に連れて行くことでアンナを逃げられないようにするため"と言っていたけど。"美しく着飾ったアンナを見たかった"という何とも変態的な理由もあったことを小説版で述べられていた。

「パーティ会場のテラスで、独りでいたら、アイゼン様に声をかけられました。その時、アイゼン様は留学を終えて国に帰っていたはずなんですけど。理由は分かりませんが、彼女はパーティ会場にいたのです。そして、アイゼン様は私に言いました。"瞳の魔物をどこに隠したんですか。あれはこの国に住まう長い"。・・・・・・そこまで言ってアイゼン様は私の後ろを凝視して身体を震わせました。私が振り返ったら、そこにはあの子がいて・・・・・・。あの子は、今まで見たこともないような恐ろしい目でアイゼン様を睨みつけていたんです」
 アンナの手がぶるぶると震えていた。夢の中での恐怖が蘇ったのだろう。

「アイゼン様は、あの子を見つめながら異様な叫び声をあげてテラスから飛び降りようとしました。私は必死になって闇魔法を使ってアイゼン様を眠らせました」
「それって」
 まるで、あの日の図書館での出来事のようだった。
「そうです。夢と同じようなことが図書館でも起こったのです」
「じゃあ、あの日、『私に振り返らないで』と仰ったのはやっぱり・・・・・・」
 アンナは頷いた。
「エマさんの後ろに金色の瞳をしたあの子がいました」
 ーーあの日、あの場所には、2体の瞳の魔物がいた?

 私の疑問を余所にアンナは話を続ける。
「夢の話に戻りますね。アイゼン様を眠らせたところで、強い光が起こりました。私はその光に目を潰されて、見えなくなってしまうのですが。どうやらその光はエマさんが起こしたものだったようです。あの子はその光を恐れて逃げていったらしいのですが。私はその場でこれまでの悪事と、魔物を使役した罪で闇の女王となりました。私の夢の話は、これでおしまいです」

 アンナは暗い顔をして俯いた。まるで、仲良くなる前のアンナに戻ったみたいだ。

「あの、アンナ様」
「何でしょう」
「どうして夢の話をされたのですか」
 私にとって有益な情報ではあったけれど。なぜアンナがこの話をしたのか、分からない。

「シュヴァルツが・・・・・・。試験の日、シュヴァルツが、私を庇ってあの子に襲われたんです」
 そう言ってアンナは嗚咽を漏らした。
「シュヴァルツが? 試験の日にアンナ様が襲われたという噂は本当だったのですか?」
 アンナは泣きじゃくりながらも頷いた。
「あの子は、金色の瞳をしていたんです。現実であの子と会ったのはあの時が初めてだったけれど・・・・・・。あの子は優しいあの子じゃないって。夢の中でアイゼン様を襲ったあの子なのだと一目で分かりました。私が逃げても逃げてもあの子は追いかけて来て・・・・・・。逃げる途中でシュヴァルツに出会いました」
「シュヴァルツはそこでアンナ様を庇ったと?」
 アンナは頷いた。
「それで、シュヴァルツはどうなったんです?」
「シュヴァルツは果敢にもあの子に挑みました。血を出して傷だらけになりながら私を助けてくれて。あの子をどこかに追いやってくれたんです。私が先生方に助けていただいた時にはシュヴァルツはいなくなっていました。それ以来、消息不明で」
 そこまで言うとアンナはまた泣きじゃくった。私はアンナの背中を撫でた。そうしていると、アンナは少しずつ落ち着き出した。

「シュヴァルツは私にとっては友であり、兄のような存在なんです」
「大切な猫なんですね」
 アンナは頷いた。
「シュヴァルツは勇猛な子ですから、逃げるなんてことはしません。きっと今もあの子と戦っているはずです。だから、エマさん、力を貸して下さい」
 アンナの目は真剣だった。
「夢の中みたいに、あの子を倒してはくれませんか」
「それはきっと、無理ですよ」
 残酷だけど、私はそうはっきりと答えた。
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