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アンナは俯いてしまった。
「そう、ですか」
溢れ出る涙をハンカチで抑えるだけで、それ以上、何も言わなかった。
ーー本当に・・・・・・。控え目な性格だとしても限度があるわ。
シュヴァルツのことが本当に大切なら。救いたいと本気で思うなら、黙っている場合ではないでしょうに。私がそう返答した理由を尋ねるなり、気を変えるように説得するなり、やることはいくらでもあるはずだ。
「そんなに落ち込まないで下さい。私はあの魔物を倒すことはできませんが、情報を差し上げることはできます。だから、それを下に、シュヴァルツを救う方法を考えて下さい」
私があの猫のために奔走してあげる義理はないけれど。瞳の魔物についてとても有益な情報をくれたから。だから、今度は私がアンナのために私の知る情報を与えようと思う。
「情報って、何ですか」
アンナは私を見た。
「アンナ様が"あの子"と呼ぶ、瞳の魔物について。私があの魔物と出遭って体験したことと、知っていることについてお話します」
私はこれまでに、瞳の魔物と3回、遭ったことを話した。1回目と3回目は金色の瞳をした恐ろしい魔物で私の身体を乗っ取ろうとしたこと。そして、2回目の黒い瞳の魔物は何もしてこなかったこと。さらに、ヴェルナーが言っていた話もした。黒色の瞳の魔物は初代闇の女王の作った魔法の産物でアンナを守っていることを。
「あの子は、初代当主様の作ったものだったのですね」
アンナが呟いた。
「実は、怖かったんです。夢の中であの子が豹変してしまったのは私のせいだったのではないかって。私が醜い願望を持ったから、あの子に悪い影響を与えてしまったのではないかと。今も心のどこかでエマさんを妬んでいるからあの子が暴れたのではないかと。試験の日からそんな考えが頭の中でぐるぐる回っていて・・・・・・」
アンナは手で涙を拭った。
「でも、違ったのですね。あの子は、・・・・・・初代当主様は、図書館であの金色の瞳の魔物から私を守ってくれていた。あの子が消えてなくなっていなくて本当に良かった」
"消えてなくなっていなくて"というアンナの言い方に少し違和感を覚えた。
「もしかして現実では、黒い瞳の魔物に出会っていないのですか」
「ええ。私が夢の中のような辛い思いをしていなかったから、私を慰めに来なかったのでしょう」
「じゃあ、誰が・・・・・・」
アンナが黒色の瞳の魔物と接触していないのなら、"アンナが黒色の瞳の魔物を従えて悪事を働いている"という噂は誰が言い出したことなんだろう。
「どうかされましたか?」
「いえ、その・・・・・・」
私は悩んだ末に噂のことを話した。アンナはとても驚いていた。
「誰がそんなことを」
「分かりません」
怪しいのはアイリスだ。彼女は転生者で、ハインリヒを狙っている。アンナを貶めるために彼女がそんな話を言いふらしてもおかしくはないけれど。でも、彼女がそんなことをするかしら?
アイリスは"エマ"のポストに着こうとしていた。そして、ハインリヒルートをなぞるように行動していた。アイリスというキャラクターのバックボーンや人間性を無視してシナリオに忠実に。そんな彼女が、シナリオ展開にないことをするとは思えない。
他に噂を流しそうな人を想像したけど思いつかない。下世話な噂話をする人は何人か思い当たるけど、そういう人たちは大抵は弱小貴族の令嬢令息たちだ。彼らが学園側がひた隠しにしてきた瞳の魔物のことを知っているはずがない。その上、アンナと瞳の魔物を関連付けることができる人物となると。
「そもそも」
アンナの声で思考が中断される。
「そもそも、その噂をエマさんは誰から聞いたんですか」
「ブラント小公爵様です」
そう言ってはっとした。
ーーヴェルナーを何故、疑わなかったのだろう。
彼はアンナと瞳の魔物を関連させられる情報を持っている。そして、彼には、それを噂として流すメリットがある。
ヴェルナーは野心家だ。彼は常日頃から学園を卒業した後のことを考えて行動していたと小説版に書いてあった。卒業後、アンナが正式に王太子妃となったら、ケラー家の勢いは当然に増すだろう。だから、ブラント家の勢力を落とさないためにアンナを早い段階から失脚させようとしていたとしたら?
"ヴェルナーならやりかねない"
その一言で片付けられるはずなのに。
でも、私は愕然としていて、どういうわけか胸が苦しくなった。
「そう、ですか」
溢れ出る涙をハンカチで抑えるだけで、それ以上、何も言わなかった。
ーー本当に・・・・・・。控え目な性格だとしても限度があるわ。
シュヴァルツのことが本当に大切なら。救いたいと本気で思うなら、黙っている場合ではないでしょうに。私がそう返答した理由を尋ねるなり、気を変えるように説得するなり、やることはいくらでもあるはずだ。
「そんなに落ち込まないで下さい。私はあの魔物を倒すことはできませんが、情報を差し上げることはできます。だから、それを下に、シュヴァルツを救う方法を考えて下さい」
私があの猫のために奔走してあげる義理はないけれど。瞳の魔物についてとても有益な情報をくれたから。だから、今度は私がアンナのために私の知る情報を与えようと思う。
「情報って、何ですか」
アンナは私を見た。
「アンナ様が"あの子"と呼ぶ、瞳の魔物について。私があの魔物と出遭って体験したことと、知っていることについてお話します」
私はこれまでに、瞳の魔物と3回、遭ったことを話した。1回目と3回目は金色の瞳をした恐ろしい魔物で私の身体を乗っ取ろうとしたこと。そして、2回目の黒い瞳の魔物は何もしてこなかったこと。さらに、ヴェルナーが言っていた話もした。黒色の瞳の魔物は初代闇の女王の作った魔法の産物でアンナを守っていることを。
「あの子は、初代当主様の作ったものだったのですね」
アンナが呟いた。
「実は、怖かったんです。夢の中であの子が豹変してしまったのは私のせいだったのではないかって。私が醜い願望を持ったから、あの子に悪い影響を与えてしまったのではないかと。今も心のどこかでエマさんを妬んでいるからあの子が暴れたのではないかと。試験の日からそんな考えが頭の中でぐるぐる回っていて・・・・・・」
アンナは手で涙を拭った。
「でも、違ったのですね。あの子は、・・・・・・初代当主様は、図書館であの金色の瞳の魔物から私を守ってくれていた。あの子が消えてなくなっていなくて本当に良かった」
"消えてなくなっていなくて"というアンナの言い方に少し違和感を覚えた。
「もしかして現実では、黒い瞳の魔物に出会っていないのですか」
「ええ。私が夢の中のような辛い思いをしていなかったから、私を慰めに来なかったのでしょう」
「じゃあ、誰が・・・・・・」
アンナが黒色の瞳の魔物と接触していないのなら、"アンナが黒色の瞳の魔物を従えて悪事を働いている"という噂は誰が言い出したことなんだろう。
「どうかされましたか?」
「いえ、その・・・・・・」
私は悩んだ末に噂のことを話した。アンナはとても驚いていた。
「誰がそんなことを」
「分かりません」
怪しいのはアイリスだ。彼女は転生者で、ハインリヒを狙っている。アンナを貶めるために彼女がそんな話を言いふらしてもおかしくはないけれど。でも、彼女がそんなことをするかしら?
アイリスは"エマ"のポストに着こうとしていた。そして、ハインリヒルートをなぞるように行動していた。アイリスというキャラクターのバックボーンや人間性を無視してシナリオに忠実に。そんな彼女が、シナリオ展開にないことをするとは思えない。
他に噂を流しそうな人を想像したけど思いつかない。下世話な噂話をする人は何人か思い当たるけど、そういう人たちは大抵は弱小貴族の令嬢令息たちだ。彼らが学園側がひた隠しにしてきた瞳の魔物のことを知っているはずがない。その上、アンナと瞳の魔物を関連付けることができる人物となると。
「そもそも」
アンナの声で思考が中断される。
「そもそも、その噂をエマさんは誰から聞いたんですか」
「ブラント小公爵様です」
そう言ってはっとした。
ーーヴェルナーを何故、疑わなかったのだろう。
彼はアンナと瞳の魔物を関連させられる情報を持っている。そして、彼には、それを噂として流すメリットがある。
ヴェルナーは野心家だ。彼は常日頃から学園を卒業した後のことを考えて行動していたと小説版に書いてあった。卒業後、アンナが正式に王太子妃となったら、ケラー家の勢いは当然に増すだろう。だから、ブラント家の勢力を落とさないためにアンナを早い段階から失脚させようとしていたとしたら?
"ヴェルナーならやりかねない"
その一言で片付けられるはずなのに。
でも、私は愕然としていて、どういうわけか胸が苦しくなった。
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