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「ブラント小公爵様が・・・・・・」
アンナは私を余所に顎を押さえて俯いた。
「おかしいですね。私は、その噂を耳にしていません」
アンナはそんなことを呟いた。アンナが噂を知らなかったことがいったい何の関係があるのだろう。
「ブラント小公爵様は、とても嫌な人なんです。彼は・・・・・・。いえ、正確に言えば"夢の中の"彼は、わざと私の噂を流した後にこっそり報告してくるんです。『噂の的になるのはどんな気分?』って」
アンナは顔を歪めた。
「彼は私が辛い思いをするのを楽しんでいたんです。私が泣いたり怒ったりしないか監視までしていて」
そう言うとアンナは自分を抱きしめるように胸の前で腕を組んだ。
「それに、ブラント小公爵が噂を流したら、学年中の噂になるのですが。私はまだ誰からも魔物を使役した悪人とは罵られていません」
そう言われてみるとそうだ。私はヴェルナー以外からこの噂を聞いたことがない。もしかしたら、噂になっているというのはヴェルナーの嘘だったのかしら。
でも、そうなるとなぜそんな嘘を吐いたのか。単純に、これから計画していることをうっかりと言ってしまったのか。あるいは、噂を流す前に意図して私に話したのか。
「噂のことはこの際、どうでもいいです。シュヴァルツのこととは関係ありませんから」
アンナは話を切り捨てて強い眼差しで私を見た。
「それよりも。教えてくれませんか。ライトの魔法で金色の瞳の魔物を退治できない理由を」
「私は試験でライトの魔法を使っていたのですよ? それなのに魔物は私の身体を乗っ取ろうとしてきたのです」
そう言いながら変だと思った。ミニゲームでは、エマのパラメーターが初期状態であっても余裕で倒せたのに。
ーーもしかして、わざと撤退したの?
「もしかしたら、ですよ。夢の中の魔物は、わざと撤退したのではないですか?」
「わざと?」
「だって、おかしいじゃないですか。学園がずっと倒すことのできなかった魔物をただの学生の私が追い払えるなんて」
「でも、何のためにそんなことを」
アンナの言葉の語尾が小さくなって言った。彼女は口元に手を当てて俯いた。
「何か分かりましたか」
「もしかしたら、ですよ?」
アンナの手が震えていた。
「もしかしたら、卒業パーティであの魔物が現れることによって、私を闇の女王にする計画だったとしたら? "エマ・マイヤーを君の前から消してあげる"っていうのは・・・・・・」
そこまで言ってアンナは言葉を詰まらせた。彼女の言いたいことは何となく分かった。
「私をアンナ様の前から消すというのは、殺すという意味ではなかったのですね。アンナ様が闇の女王となれば、西の塔に幽閉されてそこで孤独に暮らさなければなりませんから」
アンナの考えていたであろうことを言葉にすると彼女は頷いた。
「あの魔物は、夢の中でも私を狙っていたのですね」
アンナの顔色がいつも以上に青白く見える。
「何が目的なのでしょう」
その問いに対する答えは持ち合わせていなかった。
少しの沈黙の後、アンナは口を開いた。
「魔物のことでエマさんにお願いすることはもうやめます。でも、シュヴァルツのことで何か分かったことがあれば、すぐに私に知らせて下さい。お願いしますよ」
アンナは、懇願するように。けれど彼女にしては強い口調で言った。
「分かりました」
私は頷くと同時に、図書館前でシュヴァルツを見たことを思い出した。
「そういえば、試験の日の何日か前に、マテウス様が"シュヴァルツ"と呼ぶ猫を見かけましたよ」
そう言うとアンナは目を見開いた。
「マテウス様が? うちのシュヴァルツでしたか?」
「アンナ様のシュヴァルツかどうかは分かりませんが、オスで金の瞳に黒い毛並みの猫でした」
「マテウス様に、聞かなきゃ」
アンナが言い終わる前に扉が開いた。入ってきたのはカリンだった。
「お話の最中に失礼します。警備の都合上二人きりの時間はこれ以上、難しく・・・・・・」
「ごめんなさい。ちょうど今、お話が終わったところです。気にしないで下さい」
「そうでしたか。アンナ様、差し出がましいことかもしれませんが、一度お化粧直しをされた方がよろしいかと」
「ええ。そういたします。エマさん、すみませんが少しの間、席を外します」
アンナはそう言って立ち上がると部屋から出ていった。
アンナは私を余所に顎を押さえて俯いた。
「おかしいですね。私は、その噂を耳にしていません」
アンナはそんなことを呟いた。アンナが噂を知らなかったことがいったい何の関係があるのだろう。
「ブラント小公爵様は、とても嫌な人なんです。彼は・・・・・・。いえ、正確に言えば"夢の中の"彼は、わざと私の噂を流した後にこっそり報告してくるんです。『噂の的になるのはどんな気分?』って」
アンナは顔を歪めた。
「彼は私が辛い思いをするのを楽しんでいたんです。私が泣いたり怒ったりしないか監視までしていて」
そう言うとアンナは自分を抱きしめるように胸の前で腕を組んだ。
「それに、ブラント小公爵が噂を流したら、学年中の噂になるのですが。私はまだ誰からも魔物を使役した悪人とは罵られていません」
そう言われてみるとそうだ。私はヴェルナー以外からこの噂を聞いたことがない。もしかしたら、噂になっているというのはヴェルナーの嘘だったのかしら。
でも、そうなるとなぜそんな嘘を吐いたのか。単純に、これから計画していることをうっかりと言ってしまったのか。あるいは、噂を流す前に意図して私に話したのか。
「噂のことはこの際、どうでもいいです。シュヴァルツのこととは関係ありませんから」
アンナは話を切り捨てて強い眼差しで私を見た。
「それよりも。教えてくれませんか。ライトの魔法で金色の瞳の魔物を退治できない理由を」
「私は試験でライトの魔法を使っていたのですよ? それなのに魔物は私の身体を乗っ取ろうとしてきたのです」
そう言いながら変だと思った。ミニゲームでは、エマのパラメーターが初期状態であっても余裕で倒せたのに。
ーーもしかして、わざと撤退したの?
「もしかしたら、ですよ。夢の中の魔物は、わざと撤退したのではないですか?」
「わざと?」
「だって、おかしいじゃないですか。学園がずっと倒すことのできなかった魔物をただの学生の私が追い払えるなんて」
「でも、何のためにそんなことを」
アンナの言葉の語尾が小さくなって言った。彼女は口元に手を当てて俯いた。
「何か分かりましたか」
「もしかしたら、ですよ?」
アンナの手が震えていた。
「もしかしたら、卒業パーティであの魔物が現れることによって、私を闇の女王にする計画だったとしたら? "エマ・マイヤーを君の前から消してあげる"っていうのは・・・・・・」
そこまで言ってアンナは言葉を詰まらせた。彼女の言いたいことは何となく分かった。
「私をアンナ様の前から消すというのは、殺すという意味ではなかったのですね。アンナ様が闇の女王となれば、西の塔に幽閉されてそこで孤独に暮らさなければなりませんから」
アンナの考えていたであろうことを言葉にすると彼女は頷いた。
「あの魔物は、夢の中でも私を狙っていたのですね」
アンナの顔色がいつも以上に青白く見える。
「何が目的なのでしょう」
その問いに対する答えは持ち合わせていなかった。
少しの沈黙の後、アンナは口を開いた。
「魔物のことでエマさんにお願いすることはもうやめます。でも、シュヴァルツのことで何か分かったことがあれば、すぐに私に知らせて下さい。お願いしますよ」
アンナは、懇願するように。けれど彼女にしては強い口調で言った。
「分かりました」
私は頷くと同時に、図書館前でシュヴァルツを見たことを思い出した。
「そういえば、試験の日の何日か前に、マテウス様が"シュヴァルツ"と呼ぶ猫を見かけましたよ」
そう言うとアンナは目を見開いた。
「マテウス様が? うちのシュヴァルツでしたか?」
「アンナ様のシュヴァルツかどうかは分かりませんが、オスで金の瞳に黒い毛並みの猫でした」
「マテウス様に、聞かなきゃ」
アンナが言い終わる前に扉が開いた。入ってきたのはカリンだった。
「お話の最中に失礼します。警備の都合上二人きりの時間はこれ以上、難しく・・・・・・」
「ごめんなさい。ちょうど今、お話が終わったところです。気にしないで下さい」
「そうでしたか。アンナ様、差し出がましいことかもしれませんが、一度お化粧直しをされた方がよろしいかと」
「ええ。そういたします。エマさん、すみませんが少しの間、席を外します」
アンナはそう言って立ち上がると部屋から出ていった。
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