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第一部 異世界アーステイル編

15 奇妙な関係性

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 翌日。カジノの一件はギルド側が後処理をしてくれることとなった。
 受付嬢の言っていた冒険者が行方不明になっている原因がこのカジノであったことが判明した訳だし、依頼主が裏で闇に飲まれたモンスターの密売を行っていた証拠も見つかったらしい。
 また無理やりバニーガールとして働かされていた者たちはエインヘリヤルが助け出していたそうで、彼女たちのケアや今後についてもギルドが動いてくれるようだ。

 若干の心残りこそあるものの、一応一件落着って訳だな。
 いや、一つ問題があった。

「なあ、マスター。昨日の答えはまだだろうか」

 昨日エインヘリヤルに伝えられた一言に対しての答えを、俺はまだ返していなかった。
 というか一日経ってもエインヘリヤルは全く持って消える気配は無い。ゲームにおいては一定時間が経過したら勝手に消える仕様だったがどうやらこっちでは違うらしい。

「あー、どう思うって言うのは……どう言う事?」
 
 質問に質問で返すという、人によっては色々と問題の起こりそうなことをしてしまったが、仕方が無いだろう。
 彼女はあくまで召喚獣。俺と彼女の関係はあくまで主従のそれでしかない。

「君は……頼れる召喚獣だよ」

 そう言うしかない。それしか無い。
 しかしそれを聞いた彼女は一瞬表情を緩めたかと思うと、その後少し悲しそうな顔になった。
 ……俺の答えは間違っていたのだろうか?

「私のわがままを聞いてもらって悪かったなマスター。それではまた用があったら呼んでくれ」

 そう言ってエインヘリヤルは姿を消した。
 どうやらこの世界において消えるかどうかは彼女自身の意思でも決められるようだ。
 しかしこう、何と言うか心の奥にモヤモヤが残る。最後に見せた彼女の表情が今でも脳裏にこびりついて離れそうにない。

「……HARUさん、大丈夫?」

 RIZEが心配そうに声をかけてきた。表情に出てしまっていたのだろうか。

「いえ、大丈夫です。それより、結局闇の勢力に直接関わる情報は出て来ませんでしたね」
「そうだね。昨日の依頼主が闇に飲まれたモンスターを取引していた相手に関する情報は今ギルドが調べてくれているみたいだけど、それ以外はさっぱり」
「……となると次の情報源はその取引先ですか」

 この流れだとその取引先もただ単にモンスターの売買を行っているだけな気もするが、それでも情報が無いよりはマシだ。
 とにかく当面はその辺について調べて行くことになるだろう。

「RIZEさん、せっかくですししばらく一緒に行動しませんか?」

 一度乗りかかった船だ。それに闇の勢力に関する情報が欲しいのは俺も同じ。それならしばらく一緒に行動した方が効率が良い。

「うん、HARUさんが良いなら私もその方が助かる」
「それじゃあ決まりですね」

 よし、それじゃあギルドから情報が出るまでいつも通りスキルの特訓を……。

「じゃあHARUさんと一緒の部屋にいた方が良いよね?」

 予想外の言葉がRIZEから飛び出した。

「えっ、な、何故そうなるんです?」
「……? しらばく行動を共にするんでしょ?」

 何の裏も無い屈託なき無垢な表情でRIZEはそう言う。
 だが俺にそれはとって問題しかない。

「行動を共にするってのはそうですけど、流石に同じ部屋に住む必要は無いのでは? それに俺、見た目こそこんなですけど、中身は男なんですよ」
「……えっ? あっ、その、ごめんなさい……私、あなたのこと完全に女の子だと思ってて……。いや、本当に気にしないで。お泊り会とか出来たら良いなって思っただけだから」
「……あぁ、いえこちらこそなんかすみません」

 微妙な空気になってしまった。どうやら彼女の方は俺の事を見た目通り女の子だと思っていたようだ。
 それにそう考えるってことは彼女は見た目通り女の子なのだろう。なおさら一緒の部屋に泊まるなんて駄目だ。

「大丈夫だから気にしないで。ギルドから情報が出たらその時は一緒に依頼を受けよう。それじゃあまたね」

 RIZEはそれだけ言って行ってしまった。
 そうして妙な空気になった場に俺だけが残された。

「……とりあえず、体でも動かすか」

 その空気をどうにかしたいという一心で俺はいつも通り特訓をするために街を出た。



「ふぅ、今日はこんなもんで良いだろ」

 魔法は規模がデカすぎて危険。だから基本は近接戦闘用のスキルを使って行くことになる。
 今日は上級スキルを一通り試してみたが、やはり魔法に比べて周りに被害が出そうなものが圧倒的に少ない。
 これなら最上級スキルでも大丈夫なんじゃないか?
 とか考えていると、遠くの方で何か大きな物が動いているのが見て取れた。

「……何だアレ?」

 一瞬山か何かかと思ったがそれだと動いているのはおかしい。
 そもそもゲームと同じ立地ならこの辺りにはあんなに大きい山はそもそも存在しない。

[報告。強大な魔力を感知しました]
「強大な魔力……闇に飲まれたモンスターか?」
[恐らく違うものかと思われます。魔力に闇の勢力の物と思われる異常性を感じません]

 闇の勢力とは関係ない……それでいて強大な魔力か。しかしなんだってそんなものがあんな場所に……?
 うん、ちょっと待て。よく見れば誰かが走ってきているような……?

[ズーム機能を使用しますか?]
「そういうものもあるのか。よし、使うぞ」

 そう返事するといつものように視界内にウィンドウが出て来て、そこには俺の視界がズームされたものが表示されていた。
 さらに自由に倍率を変えられる機能もあるようだ。

「これは……」

 ズーム機能を使って確認すると、まず荷馬車に乗った人が一人確認出来た。商人だろうか。それとその護衛と思われるのが三人。
 一人は鎧に身を包んでいて両手剣を担いでいる。まあ見てわかる通り戦士だな。もう一人はローブに杖……これもまたわかりやすい魔術師だ。

 最後の一人は……銃?
 え、この世界銃とかあんの?
 ……あ、撃った。
 
 ただ、そこから出たのはただの弾じゃないっぽいな。魔法陣みたいなのが銃口から出ている。
 となるともしかしてあれ、魔法銃じゃないか!?
 え、何それすげえ気になる。

 ……いやいや、そんなことを考えている場合じゃないな。
 恐らく彼らはあの山のような何かから逃げている。となると助けてやる必要がありそうだ。

「ナビ、あそこまでだいたい何メートルくらいだ?」
[……計算の結果、2キロメートル程だと考えられます]

 2キロか。ここから走って行って間に合うかどうか……。
 よし、それなら魔法だ。こういう時にあってよかった遠距離攻撃。

 そうと決まれば早速っと。うーん、距離が遠いから少しでもずれたら大変だ。
 精密に……ここだ!

「ライトニング!」

 雷系下級魔法のライトニングなら光の線のように対象までまっすぐに飛んで行く。
 これなら最初の照準さえズレていなければ対象に命中するはずだ。

 少しして山のような何かに俺の放った魔法が命中した。俺の読み通りほぼズレ無く狙った場所に命中したようだ。
 幸いなことにそれなりに効いたのかそれは動きを止めた。

「よし!」

 とりあえずこれで彼らは無事に街まで逃げ切れるはずだ。
 あとはアレをどうするかだよな……ここで勝手に俺が戦って良い物か……よし、ひとまずこういう時はギルドに報告だな。
 
 そう考えて俺が街へ戻った時、既に街は厳戒態勢を敷いていた。中央国家なだけあって思ったよりも行動が速いようだ。
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