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第一部 異世界アーステイル編

16 いざ防衛戦

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 ひとまずギルドへ行くと、建物内がピリピリした空気で包まれていた。

「おい、マナツカミが出たってのは本当なのか?」
「はい、観測隊からの報告では間違いないと……」

 受付嬢と冒険者の会話が聞こえてくる。しかしマナツカミの名にはどこか聞き覚えが……。

[マナツカミはアーステイルにおけるフィールドレイドボスです]
「ああ、そうか!」

 そうだ。そうだな。そうだったわ。
 そりゃ聞き覚えある訳だ。確かマナツカミは要塞国家の近くにある荒野で稀に発生するレイドボスだったな。うーん、PVE……特にレイドボスなんかはしばらくやっていなかったから忘れていた。
 
 って、だとしてもおかしく無いか?
 その荒野はここからかなり離れた場所だったはず。それともこの世界では生息地が違うってことか?

[マナツカミはゲームと変わらず荒野に生息しているモンスターです。この辺りに出てくることはまずないかと思われます]

 ……となるとアイツがここに居ること自体がイレギュラーということか。

「冒険者の皆さま! 我々冒険者ギルドは今ここに緊急依頼を出します!」

 突然大声でそう言った受付嬢は大きめの依頼書を掲示板へと張りつけた。
 よし、早速見てみよう。
 
 なになに? 依頼内容は……迫りくるマナツカミからのオールアールの防衛か。
 要は撃退を目的とした依頼ってことだな。だがまあ、別に倒してしまっても構わんのだろう。
 ゲームと同じであれば時間こそかかるが俺ほどのプレイヤーならば勝てないことは無いはずだ。

「マナツカミの撃退っつってもよぉ……あれを撃退なんて可能なのか?」
「何弱気になってんだよ。出来無くてもやるしかないんだ。そうでなきゃこの街が滅ぶ。そんでもってここが滅んだらここら一帯の貿易は終わりだ」

 ……思ったよりもギルド内の空気は重苦しい。
 というより、この世界においてはマナツカミのレベルでも相当に強大な存在ということなのか。
 一応中堅プレイヤーが10人以上集まれば倒せる程度のモンスターではあったはずなんだが。
 一つ気になることがあるとすれば、奴は魔力を吸ってエネルギーに変換しているという設定があって魔法攻撃の威力を減少させるってのがあったな。

 ……となると両刀ビルドの俺一人だと倒せるのか怪しくないか?
 近接戦闘と魔法戦闘の両方を使って一人前ってことは魔法が弱体化されたらシンプルに他の職業の劣化版と化すんだが?

 それどころかもしゲームよりも強かったらキツイどころの騒ぎじゃないかもしれない。……いや、弱い心は捨てろ。まずは戦ってみないと何もわからないんだ。
 どちらにしろこのまま放って置いたらこの街は奴に踏みつぶされて終わりなんだからな。さっきの冒険者が言っていたようにここが落とされたら周辺への影響がデカすぎる。

「……ふぅ。よし!」

 気合を入れるために頬を叩き、ギルドを出た。
 


 迎撃のために街の外に出ると既に数十人の冒険者や騎士が準備を進めていた。ギルド内では結構悲観的な空気が強かったが、思ったよりも戦う意志がある奴は多いみたいだ。

「君も戦うのか……?」

 とそんな時に一人の冒険者が声をかけてくる。

「ええ、俺も戦いますよ。この街に消えられると困りますからね」
「そうか。そんな若いのに大した度胸を持っているんだな。しかし辛くなったらすぐに……」
「それは当然っすよ! なんてったって彼女はあのアルバートさんにも勝るんっすから!」

 突然現れた冒険者らしき風貌の男は食い気味にそう高らかと言い放った。確かアルバートの取り巻きの一人だったかな?

「おお、では君があの噂のハルということか! いやぁ君には期待しているぞ。それでは健闘を祈る!」

 そう言って冒険者は離れて行った。どうやら俺の存在は大分知れ渡っているようだ。つよつよ幼女HARUの逸話がもう始まってしまっている訳だ。
 こうなりゃここでさらなる結果を残したいじゃないの。

「この場に集まった勇敢なる者たちよ、私は冒険者のレインだ! 突然だが私に作戦がある! どうか聞いてもらいたい!」

 俺がつよつよ幼女の逸話をどう確固たるものにしていくかを考えていると、突然レインと言う冒険者がそう叫んだ。
 見た目は至って普通の冒険者と言った雰囲気だ。だがよく見ると防具や杖には相当使い込まれた跡がある。恐らくかなりの手練れなのだろう。

 そんな彼が言った作戦。それは魔法や遠距離攻撃を主とした迎撃だった。
 と言うのも、あんなに大きいモンスターを相手にして近接戦闘をまともに行える訳が無い。そう考えての作戦だ。

 実際それは正しい。ゲームにおいて奴は移動するだけで範囲ダメージを与えてくる存在だった。それがこの世界においては脅威だ。
 ダメージを受けるのを前提として回復ごり押しでどうにかなるゲーム内と違って、この世界ではしっかりと怪我をするし体力も消費する。骨折なんてしたら冒険者人生に終わりを迎えることとなる。

 と言うより、そもそも潰されたらその時点で終わりだろう。下手に近づくこと自体がリスクだ。
 だから魔法や遠距離攻撃を主体とする。まったくもって理にかなっている作戦だな。
 
「だがよぉ、今この場に魔術師や弓使いってどれだけいるんだ?」

 一人の冒険者がそう言う。その疑問を抱くのは当たり前だろうな。
 ギルド内での会話や雰囲気からして、あのマナツカミがそう簡単に倒せるものでは無いのは火を見るよりも確定的に明らか。
 ただでさえ今のこの場にいる者自体がそれほど多くは無いのに、その中でさらに遠距離攻撃が可能な者となるとその数は限られてくるだろう。

「それでもやるしかないんだ。闇雲に突っ込むよりもまだ可能性はある。ひとまず、この場にいる遠距離攻撃が出来る者たちを集めよう」

 レインはそう言い、装備品から遠距離攻撃が可能そうな人を探し集め始めた。中には自分から言い出す者もいて、作戦への適任者が集まるのにそう時間はかからなかった。
 もちろん俺も参加している。バトルマジシャンとして魔法攻撃を使わない手は無いからな。

「これで全員か……本当に良く集まってくれた。感謝する」

 この場に集まったのは10人ちょっとだった。だいたい魔術師が3分の2程で、残りが弓使いや魔法銃らしきものの使い手。
 ただ、レインの表情は少し暗い。恐らく奴を撃退するためにはまだ人数が足りないのだろう。
 
 ……というか他のプレイヤーはいないのか。集められた人を見てもトップナインのメンバーは見受けられない。
 せめてこの街にいるのがわかってるRIZEだけでも……そうだ、メッセージ機能があったな。

「ナビ、RIZEにメッセージを伝えられるか?」
[可能です]
「よし、それじゃあ……」

 オールアールでレイドが発生していることと、もしこの場にいるのなら今どこの辺りにいるのかをメッセージとして送った。
 そして十数秒後、RIZEから返信が来た。
 どうやら彼女はこの場にいるらしい。ただ、二人共身長が低いのが災いして見つけられずにいたようだ。

 だが今なら魔術師の塊があるからそれを目印にすれば良いな。
 そう言う旨の返信を送ると、すぐに合流することが出来た。

「HARUさん……良かった会えた」
「RIZEさんも来ていたんですね」
「うん、けどマナツカミだなんてね。こんな場所に出るなんて考えても無かった」

 やはり彼女も異常性には気付いていたようだ。とは言え今考えたところでだから何だって話ではあるが。
 あとついでにレインの作戦について伝えておいた。彼女の基本戦法はデバフを使ったうえでアサシンのように影から奇襲することを前提としているため遠距離攻撃は出来ない。それでも一応情報は共有しておいた方が良いだろう。

「それじゃあHARUはどうするの?」
「俺は魔法が使えるので作戦に加わります」
「そうなんだ……気を付けてね」
「はい。RIZEさんの方もお気をつけて」

 そう言ってRIZEと別れ、魔術師の集まりの中に加わる。作戦についても詳しく聞いておかないといけないしな。

「作戦は単純だ。出来る限りの攻撃を奴に与え、撃退する。それだけだ」

 レインによって告げられたそれは作戦と言うにはあまりにも雑過ぎた。しかしシンプルなのは良いことでもある。
 マナツカミに近づかずに撃退できるのならそれに越したことは無い。というより別にマナツカミで無くとも近づかずに倒せるのならば反撃も受けないしそれに越したことは無い。

 問題は火力が足りるのかということだった。

「私たちだけで行けるのか?」

 そう思ったのは当然俺だけでは無く、この場に大量にいた。
 ならここは俺がその不安を払拭してやろうじゃないか。

「俺がいるから問題ないですよ」

 うん、大分強めに出ちゃった。

「アンタは……確か噂のハルって冒険者か。アイアンからいきなりシルバーに上がったからってあまり調子に乗らない方が良い。あのマナツカミってのはシルバーランクが数十人束になってようやく追い返せるかどうかってレベルなんだ。こういうのはあれだが……アンタ一人に何が出来るってんだ?」

 ああ、うんそうだね。普通に考えてそうなるよな。
 だが俺はまだ本気を出していないんだなこれが。それにシルバーランクが数十人集まれば倒せるって情報も凄いありがたい。 
 つまり俺の上級魔法なら問題なく倒せるってことだ。

「俺の上級魔法なら倒せます」
「上級魔法……だって?」

 俺の言葉に反応するようにレインが口を挟んできた。

「君、上級魔法が使えるのか!?」
「はい、使えます……けど」

 あまりの勢いに少し尻込みしてしまう。さっきまでの霊性沈着な雰囲気はどこへやら。彼は完全に取り乱しているようだった。

「それじゃあ、『たかなしありす』という名に覚えは無いか!?」
「ッ!? い、いえ……」

 突然のことに一瞬思考が停止してしまった。
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