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第一部 異世界アーステイル編

14 悪徳違法カジノ

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 あの後、一緒にギルドまで行ってエインヘリヤルを冒険者として登録させた後、早速件の依頼を受けることにした。
 受付嬢は最近冒険者が行方不明になっているから気を付けてくれって言っていたが、ひとまず今回の依頼は関係無いだろうし大丈夫だろう。一応注意はしておくけどね。

 ということで依頼主と打ち合わせをすることになったのだが……。

「それで、貴方が私の依頼を受けてくれると言う冒険者ですね?」
「ああ、そうだ」
「それで……そちらのお二方は?」

 依頼主は不思議そうな顔でこっちを見てくる。そりゃまあ依頼の打ち合わせに幼女が二人いたら気にもなるよな。

「マス……彼女たちは私のパーティメンバーだ」
「パーティメンバー……ですか。しかし今回の依頼は出来れば成人済みの方のみでお願いしたいのですがね……」

 まあそうなるよな。仕方ない。今回はエインヘリヤル一人に任せるとしよう。

「いえ、俺たちは今回は参加しませんのでご心配なさらず」
「そうですか……わかりました」

 それなら良かったといった表情で依頼主は話を続けた。

「実は私の所持するカジノで良くない噂がありましてね。運営の中に闇に飲まれたモンスターを密売している者がいると言うのですよ。私としてもそのような噂があると困るのでね。それにもし本当だとしたら一大事です。そこで冒険者の方にどうにか対処してもらいたいのですよ」
「そういうことか。大体わかった」

 エインヘリヤルは依頼主の話を聞くなりノータイムで承諾した。
 その、もう少し考えたりはしないんだろうか。せめて俺に聞くとかさ。いやまあ依頼を受けたいって言ったのは俺だけども。

「おお、流石でございます。それほどの装備を持つ冒険者、さぞ腕の立つ方なのでございましょうな。それでは早速我がカジノへ案内いたします」

 依頼主はそう言うと早速エインヘルヤルを連れて自分のカジノへと向かったようだ。
 さて、ここからは基本的に彼女に行動してもらうことになるな。だがこちらも何もしないわけでは無い。

(エインヘリヤル、聞こえるか?)
『ああ、ばっちり聞こえるぞ』

 召喚獣とその召喚主は魔力的なパスで繋がっているらしく、脳内で会話することが出来るようだ。
 だからここからはそれを使って彼女に指示をしていくことになる。
 さらに彼女の視覚、聴覚を共有することも出来るようで、最低限状況を把握するための情報は得られるようだ。

「HARU、状況はどう?」
「今のところは特に問題は無しです。このまま彼女に依頼をこなしてもらいましょう」

 一応隣にはRIZEもいる。彼女には今何が起こっているかは直接は伝えられないが、それでもいざと言う時のためにいてくれた方が良い。

 そんな感じでしばらくすると、二人が無事にカジノに着いたようだった。流石にこんな真昼間の街中で問題が起こることは無かったようだ。
 さて、こっから本格的に依頼内容が始まる。気を引き締めないとな。



「どうぞ、ここが私のカジノです」

 依頼主が連れてきたのは街の外れにあるカジノだった。
 規模としては大きくも無く小さくも無くと言ったところか。

『エインヘリヤル、その辺りに何か異常はあるか?』

 マスターの声が脳内に聞こえてくる。異常……か。
 ひとまず魔力探知を行ってみるとしよう。

 魔力探知スキルを発動させると、カジノの奥の方に魔力反応を発見した。
 ……それもそこそこ強力なものだ。マスターに伝えておこう。

(カジノの奥に魔力反応がある。それもそこらのモンスターに比べたら強力なものだった)
『となると、そいつがかなり怪しいな。ひとまずは依頼主に従って探索してみてくれ』
(了解した)

 マスターもやはり怪しいと思ったようだ。
 とは言えまずはカジノについて知る必要がある。マスターの言う通りまずは依頼主に従って情報を集めねば。

 依頼主に連れられてカジノに入ると、煌びやかな装飾を行われた室内に出迎えられた。
 知識としては知っているカジノと言う存在。実際にこの目で見ると中々に興味深いものだな。

『うぉっ……』
(む、どうしたマスター?)

 突然マスターの声が流れてくる。しかしそこに何かしらの意図は見えない。

『い、いや何でもない……何でもないんだ……』

 妙な感じがするが、それでもマスター本人が何でもないと言うのならそうなのだろう。
 それにしてもあのバニーガールと言うのはどうなんだろうか。頭に獣の耳飾りをしているうえに、やたらと露出の多い服装だ。
 それに一体何の意味が……。

 そういえばさっきマスターが妙な声を上げた時もちょうどあのバニーガールとやらを見ていたような……。
 どういうことだ……?
 わからない。わからないが、何故か妙に胸の奥が変な感じになる。帰ったらマスターに聞いてみるとしよう。

「どうでしょう、何か私のカジノについて気になることでもありますかな?」
「あ、ああそうだな……」

 そうだ、今は依頼をこなすことが最優先だな。

(マスターは気になることは何かあるか? 私は先ほどの魔力反応が気になるのだが)
『俺もそれが一番気になる。ただ、今ここで聞いて良いものか……とりあえずそれとなくカジノの奥を確認させてもらえないか聞いてみてくれ』
(わかったぞマスター)

「建物の規模に対して室内がやや狭いようだが……まだ奥に何かあったりするのか?」
「ああ、それはですね……お得意様に向けたVIPルームがございまして……そこは他のお客様からは隔離した特別な空間となっているのです」
「理解した。それならそこも確認させてもらえるか?」
「どうぞどうぞ。さあ、こちらです」

『何が起こるかわからない。くれぐれも気を付けてくれよ』
(ああ、わかっている)

 カジノの奥の事を聞いた時、依頼主はほんの少しだけ取り乱していた。必ず何かあるはずだ。

「こちらです」
「……ここがVIPルームとやらか?」

 依頼主に案内された部屋……というより空間かこれは。そこは知識として知るVIPルームとは大きく違っていた。
 もっとも直接見聞きした訳ではないためにこういったVIPルームも存在するのかもしれないな。

(マスターはどう思う?)
『俺もそう言った知識が多い訳じゃ無いけど、流石にそこがVIPルームだとは思えないな』
(やはりそうか。となると依頼主も含めて何かを隠しているのか……?)

「今です!」
「何だッ!?」

 依頼主が叫んだと同時に足元の床が開き、中から檻が上がって来た。

『どうした! 何があった!?』
(……どうやら嵌められたようだ)

 我としたことが、少し警戒が甘かったか。

「貴方がこの空間について感づいた時にはひやひやしましたが、こうなってしまえばこちらのものです」

(だそうだぞマスター)
『ああ、こんなことなら俺がもっと気を付けていれば……!』
(いやマスターは悪くない。我の警戒が薄かったせいだ)

「ふーむ、かなり落ち着いているようですが……これならどうでしょうか」

 依頼主がそう言うと檻の時と同じように床が開いて、中からまた別の檻が出てきた。

「こいつは……」

 檻の中にある魔力反応。それはさっき魔力探知によって補足したものと同じだった。

『闇に飲まれたモンスター……か!』
(どうやらここに件の怪物が居たこと自体は正しかったようだな)

「さあ、これを見て恐れなさい! 闇に飲まれしミノタウロスを見て恐怖するのです!」
「ミノタウロスねぇ……」
「な、なんですかその態度は……! くっ、良いでしょう……そこまで舐めた態度をとったことを後悔しなさい……!」

 依頼主はそう言うとモンスターの入っている檻の扉を開けた。
 ……おいおい、そんなことして良いのか?
 と思ったが、檻から出てきた奴は近くにいる依頼主を襲う素振りは一切見せなかった。まるで完全に従えさせられているようだ。

「コレは調教済みなのですよ。なので私たち運営を襲うことは絶対にありません。そうでも無ければこんな危ないものを博打に使うことなんて出来ませんからね」
「博打だって?」
「ええ、捕らえた冒険者とこの怪物を戦わせるのです。そしてそれを客に見せ、賭けさせる。ああ、なんと刺激的なゲームなのでしょう!」

(聞いたかマスター)
『ああ、聞いた。あまり想像したくはない光景だけどな。正直最悪過ぎる。悪趣味の塊だな』

「貴方もその一人になるのですよ? ……ですが、一つ取引をしましょう」
「取引だって? この状態でまともな取引が出来るとでも?」
「だからこそです。こちら側に圧倒的に有利な状況で取引を進める。それこそが私の求める最高の取引なのです」
「何ともまあ質の悪い話だ」

『おい、アイツの話には乗るなよ?』
(心配はいらない。どうせまともな取引では無いだろうしな。引き受ける訳が無い)

「見たところ、貴方は相当な恵体の持ち主ですね。それを有効活用したくはありませんか?」
「何が言いたい?」

 ジロジロと私の全身を舐めるように見てくる。理由はよくわからないが、あまり気分のいいものでは無いな。

「簡単なことです。私のカジノにバニーとしてその身を献上しなさい。そうそう、裏オプションとしてお得意様にその身を捧げることにもなりますがね」
「はっ、お断りだ。誰がするかそんなこと」

 この身はマスターのためのものだ。他の者に捧げる気なんか無いっての。

「はあ、それでは仕方がありません。状況も読み取れない低能は痛みでわからせるしかないようですね!」
 
 依頼主野郎がそう叫ぶと、我のいる檻へと闇に飲まれたミノタウロスが走ってきた。
 
『エインヘリヤル、今俺たちもそっちに向かっている! 到着するまで耐えてくれ!』
(その心配は無いぞマスター)

 闇に飲まれていようとミノタウロスはミノタウロスだ。我の敵では無い。
 魔力を練り、光の剣を生み出してヤツへと向けて構える。

「かかってこい雑魚が! この剣の錆にしてくれるわ!」



 こうなるんだったらもっと近くで待機しておくべきだった。
 なんでわざわざ遠くで様子を見ていたんだ俺は!?

 そうやって自分の考えの浅さにうんざりしていると、街の外れの方で大きな爆発が起こった。
 位置的にも状況的にも恐らくカジノで起こったものだろう。

「待っていろ、今行くからな!」

 そうして急いでカジノに行くと……大変なことになっていた。

「おお、マスターか。ちょっとやりすぎたかもしれないが、まあ誤差だろう」
「……これ、君一人でやったのか?」

 カジノ……いやカジノであっただろう建物の瓦礫の上にエインヘリヤルは座っていた。

「あの程度、我の敵では無いさ」

 確かにゲームにおいてエインヘリヤルは優秀な召喚獣だった。それは知っている。しかしあくまで高い攻撃力と範囲攻撃を持つお助けキャラのような物でしか無かった。それがまさかここまでだったとは……。
 いや、そうか。ここはゲームでは無いんだ。この世界において、彼女は高いステータスを持った一人の戦士なんだ。

「そうだマスター」
「どうした?」
「一つ気になることがあるんだ」

 そう言うとエインヘリヤルは瓦礫の山から下りて来て俺の前にやってきた。

「マスターは我の事を……その、どう思っているんだ?」

 ……それは全く想像もしていない一言だった。
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