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Act・14

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「蒼子。いるの?」
 
 晴海は芝生広場に座って、海を渡る風に髪をなびかせ、空の青と海の青を見つめていた。

「蒼子。いるの?」

 晴海は何度も何度も、蒼子がいない自分の左肩を見つめて呟いていた。

「またね」と言ってくれていた蒼子は、まだここにいるのだろうか。

「蒼子。いるの? ねぇ......。まだ、いるの?」



 蒼子の49日が近付いた頃、晴海は蒼子の家を訪ねた。

「まぁ、晴海君」

 蒼子の母が出迎えてくれた。

「夜分にすみません。ご両親にお願いがあってきました。蒼子はまだいますか?」

「お願い? なんでしょう? まぁいいわ。上がってちょうだい。蒼子はまだいるわよ。明後日が納骨なの。晴海君も来てね。蒼子も喜ぶわ」

 母親の目にうっすらと涙が光った。

「はい。お言葉に甘えて伺わせていただきます。失礼します」

 晴海は靴を脱ぎ、仏間に入った。仏壇には、きらびやかな布に包まれた、蒼子の遺骨が納められた箱が安置されていた。

「蒼子。来たよ。今日もいい風が吹いてた。空が抜けるように青かった」

 晴海は遺骨に向かって話しかけた。

「晴海君の眼差しは、蒼子にそっくりね」

 蒼子の母親がお茶を持って現れた。

「生前蒼子は、君のことを『魂の片割れ』と呼んでたね」

 父親が、仏壇に飾られた蒼子の遺影を見つめた。

「いつも同じものを見てましたから」

 晴海は照れくさそうに、父親に近付いた。

「お願いって何かしら?」

 母親が、お茶を差し出しながら晴海に尋ねた。

「突然ですが、蒼子の遺骨を、ほんの一欠片、いただけないでしょうか?」

 晴海は両親を見つめた。

「遺骨を?」

 二人は驚いて晴海を見つめた。

「お願いします」

 晴海は畳に額がつくくらい、低くこうべを垂れた。

「いいですよ。君だったら、蒼子も喜ぶ」

 父親は立ち上がると、仏壇から遺骨を下ろしてきた。

(小さな箱だなぁ。これが蒼子の身体なんだ。でも、本当に蒼子が行きたい場所は......)

 晴海は小指の先ほどの遺骨をもらい、それを白いハンカチに丁寧に包んだ。

「ありがとうございました」

 晴海はもう一度、深々と頭を下げた。



 翌朝は抜けるような快晴だった。

「蒼子。絶好の日和ひよりだ。行こう」

 晴海はM美術館へ向かった。いつも二人で眺めていた場所に着くと、F灘を見下ろした。

「蒼子が一番好きな場所だね」

 しゃがみ込むと、しばしその風景を見下ろしていた。

「さて......っと」

 晴海は美術館を出て、周囲をうろうろした。なるべくF灘が一望できる場所を探し回った。

「ここにしよう」

 晴海は持ってきたスコップで地面を掘ると、丁寧に白いハンカチを広げた。

 小さな蒼子の欠片が現れた。晴海は掘った穴の中へ、それをそっと置いた。

 晴海は湧いてくる涙を、袖口で何度も何度もぬぐった。

「本当は君をロケットペンダントに収めて、ずっとずっと抱きしめていたい。でも、それをしちゃ、いけないんだ」

 晴海は目元が真っ赤になるほど強く袖口で拭くと、空を見上げた。

「僕らの次の『魂の片割れ』と出会う日まで......そこで待ってて」

 春海は呟いたのち、スコップで小さな蒼子の欠片に土をかけると、植え直した草の上にこぶし大の石を置き、それにそっとキスをした。


「またね......」
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みんなの感想(1件)

あまくに みか

何回読んでもこのお話特に2話が好きです!

解除
1 / 5

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