上 下
13 / 14

Act・13

しおりを挟む
 蒼子は聞こえているのか、いないのか、もうわからない状態になった。医師と看護師も待機し、最期の最期まで延命治療にトライしていたが、「死亡診断書」を携帯していた。

 蒼子の周りには、両親や親族も集まっていた。

 ぱっと見、場違いな他人の晴海が、最優先で蒼子の右手を握りしめていた。左手は両親が握っていた。蒼子がふっと意識を取り戻したように、目を開けた。

「みんな......来てくれたんだぁ~」

「蒼子ぉ~」

 従妹たちやクラスメイトが涙声で名前を呼んだ。

「ありがとう。......今まで......」

 蒼子の目から涙がこぼれた。

「蒼子」

 父親が声をかけた。

「お父さん。......ごめんなさい」

  父親は嗚咽を漏らした。

「晴海君。いるの?」

「いるよ。蒼子」

 晴海は蒼子の細い手を握った。

「......大好きよ」

「僕もだよ!」

「忘れないで......。あの空を......見上げているときのあなたを......。そこには......私が......いる......」

 晴海は涙をこらえて、握りしめた蒼子の手にキスをし続けた。

「もう、『またね』って言ってくれないの?」

 晴海の涙声に、蒼子は大きく息を吸い込んでいったん止めると、天井に貼られた真っ青な空の写真を、うつろな眼差しで見つめた。

 やがて、ゆっくりと深く息を吐きながら、小さなえくぼを作って弱々しく微笑むと......。

 ............息が止まり............。

              ..................逝った..................。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

その伯爵令嬢は、冷酷非道の皇帝陛下に叶わぬ恋をした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:27

限りなく狂愛に近い恋 ヤンデレ短編

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:25

独りぼっちのお姫様は、謎の魔法使いさんだけがお話し相手

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:191

音無集★オトナ詩集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

どうぞ不倫してください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,902pt お気に入り:545

悪夢がやっと覚めた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:76

処理中です...