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老兵は消えず、ただ戦うのみ

第104話 防衛隊長、胸を撫で下ろす

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 めぐとアカネは山の中で待機して、敵が来るのを待っていた。

「なぁ、めぐ。そんなに簡単に引っかかるのかなぁ」

「んー、でも作戦は悪くないんじゃないかなぁ……」

「あ! 来たよ」

「ほんとだ! 準備しなきゃ」

 アカネとめぐは山の道を歩きだした。

 すると、そこへ敵の騎士たちが20人ほどやってきた。

 騎士たちの1人がアカネとめぐを見つけると、ニヤニヤしながら話しかけてきた。

「ねぇ、きみたちさぁ、道着どうぎの親子と目がイっちゃってる両手剣の騎士を見なかった?」

 めぐはそれを聞いて答えた。

「え!? あの弱い人たちですか? わたしが魔法でがけの下の道に落としましたよ」

「なんだって!!」

「見てみますか? あの崖の下です」

「ま……、魔法で吹き飛ばしたのか?」

「はい、雷魔法で一撃で。ねぇアカネ」

「そーだぞー、このめぐさんは、つよいんだぞー」

 それを聞いた敵の騎士たちは驚いて、倒したことを確認するために崖の方へ向かった。

 それの様子を見て、めぐは騎士たちに言った。

「その崖の下を見てみれば分かりますよ。もう瀕死ひんしですから」

「え、きみたちカワイイのに凄いね、ていうか、何でここに居るの?」

「この子が転移魔法使えないので、シャームから歩いてバリードレの町に向かってたら迷ってしまって……」

「ええ? じゃあ俺がモービルで送っていきますよ。へへへ。ちょっと待っててもらっていいかな。一応、敵を確認するからさ」

 敵の騎士たちは崖の下を覗くと、崖の下の通路に倒れている大熊笹と黒ちゃんを見つけた。

 大熊笹と黒ちゃんは起き上がろうとしていたが地面をうように動いていた。

「おい、本当に瀕死だぞ! はははは!」

 すると騎士たちは全員集まってきて崖から下を見下ろして喜んだ。

「「おお!!」」

 しかしその時、敵の騎士の1人が言った。

「あれ、瀕死? HP減ったら瀕死の状態になったっけ、このゲーム?」

 それを聞いためぐは慌ててアカネに言った。

「そうだアカネ! アカネのアレをみんなに見せてあげたら良いんじゃないかな!」

「うん、そうだね!」

 すると敵の騎士たちはアカネに集まってきた。

「アレ? 何を見せてくれるの?」
「アレって……?」

 すると、アカネは両手いっぱいの砂を見せた。

「「??」」

「とうっ! 目潰めつぶし!」

 ブワッ

 アカネとめぐは騎士たち全員に目潰しの砂を投げつけた。

「「うわぁあああ」」

「えいっ! 抜群に滑る油!!」

 ぬるぅぅう

「なんだこれ! 足が!」
「すべっ、すべる!」
「うわぁぁ」

 するとめぐとアカネは素早く騎士たちの後ろへ回った。

「あとは、押、す、だ、けっ!」

 ドン ドン ドン ドン ドン……

 めぐとアカネが騎士たちを次々と押していくと、敵の騎士たちは滑りながら崖の下に落ちていった。

「うわ! 滑る!」
「目がぁ、目がァァ!」
「何も見えない!」

「「うわぁぁあぁぁあああ!!!」」

 ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ……

 敵の騎士たちは落下ダメージで大きくHPを減らした。

 それを上から見ていたアカネはめぐに言った。

「あいつら本当にだまされたなぁ。このゲーム瀕死とか無いのにな」

「ほんとだよね。でも、ちょっと危なかったけどね」

 すると通路で倒れていた黒ちゃんと大熊笹は起き上がり、おじいさんとタマシリも一緒に敵の騎士たちに次々とトドメを刺していった。

 ドガン! シャァァアア……ガン!

「はい、よいしょ! はい、こちらも! では、あなたも!」

 ズバン! ズバン! ドガン!

「ぁああぁぁああぁいっ!!」

 ドスッ! ドカッ! バシッ!

「「うわぁぁーーー」」

 敵の騎士たちは全員消滅していった。

「「やったー!!」」

 めぐとアカネは抱き合って喜ぶと、山道を走って降りていった。


 ブゥゥウンン!

 するとその時、弓部隊のイリューシュと元自衛官の大槻と木下、そして司令官を乗せたモービルがやってきた。

 山口はモービルから降りると、みんなに敬礼して話し始めた。

「ご苦労さまです! 今、遠くから戦いを見させて頂きました。だいぶ敵が減りましたので、しばらく待機して頂いても良いでしょうか」

 すると黒ちゃんが一歩踏み出し、敬礼して答えた。

「了解しました。タイミングを合わせて総攻撃を仕掛けるのですね」

「はい、その通りです。それにしても、その慣れた敬礼姿けいれいすがた、あなたは……」

「交通機動隊の白バイ隊員です」

「おお! もしやバイクのモービルをお持ちでしょうか」

「はい」

「申し訳ないのですが、北の通路の加勢かせいに向かってもらえないでしょうか。いま北の通路のサクラ隊が押されているのです」

「なんと!」

「他の通路の分隊にも声を掛けて何名か向かってもらっているのですが、お願いできますでしょうか」

「お任せください!」

 黒ちゃんは急いでオフロードバイクのモービルを出現させると、ちょうど下に降りてきたアカネが黒ちゃんに尋ねた。

「あれ、黒ちゃんどっか行くの?」

「ああ、北の通路に応援に行くんだ」

 するとアカネが笑顔で言った。

「じゃあ、あたしも連れてってよ」

「え!?」

「なんかさぁ、なまっちゃって。待ってるのも飽きちゃったし」

「お、おう、だが……」

 すると、それを見ていたイリューシュがアカネと黒ちゃんに言った。

「わたしたちが通路を守りますから、2人で行ってきてください」

「うっす! 行ってきます隊長!」
「は、はい」

 黒ちゃんはオフロードバイクのモービルにまたがると、アカネはシートの後に飛び乗った。

「アカネ、しっかりつかまってろよ。中央本陣を突っ切って北の通路にショートカットするからな」

「まじか黒ちゃん! 男だな!」

「いくぞ!」

 バィィィイイイ……、ブゥァァアアアアア!

 黒ちゃんはロケットスタートを決めると、通路の奥へと一気に走り去った。

 それを見た総司令の山口は呟いた。

「敵本陣を突っ切って近道とは……、命知らずなのか、それとも……」


 バィィイイ……、バィィイイイイン!

 黒ちゃんはオフロードバイクを全開で加速させると、通路を守る防衛隊長たちのグループを一気に突破した。

 突破された防衛隊長は慌てて叫んだ。

「通路が突破された!! あいつを止めろ!!」

 黒ちゃんは敵本陣の中央に進むと、周りから騎士たちが走り寄ってきた。

 そして、黒ちゃんのバイクを見つけた敵のリーダー、ベンドレが大声をあげた。

「おまえら何やってるんだ! あいつらを倒せ!!」

 バィィイイイイ、ズザァァァァ!!

 黒ちゃんはバイクを横に傾けると、そのままアクセルを吹かして後輪をスライドさせながらベンドレに迫った。

 バィイイ、バィイイ、バィィイイイイ!

「なんだぁ? やるのかぁ?」

 ベンドレはうすら笑いを浮かべながら立ち上がると、両手剣を構えながら威嚇いかくした。

「調子に乗るなよ!!」

 ベンドレが両手剣を振りかぶって走り込んだ瞬間、

「はい、バナナの皮」

 ポト

 ズルッ……、ズデーン!

 ベンドレはすっ転んだ。

「なっ! あっ!」

 慌てるベンドレに、アカネは笑顔で親指を立てて言った。

「ナイス、ずっコケ!! またねー!」

 バィィイイイ!!

 黒ちゃんとアカネはそのまま北の通路へと走り去った。


 中央本陣を突破されたベンドレは立ち上がるとバナナの皮を拾い上げて地面に投げつけた。

「くそっ! なんだあいつらは! あいつらが出てきた通路に騎士たちを向かわせろ!」

「「はい!!」」

 ベンドレはおじいさんたちが居る通路に騎士を増援することにした。

「おい、防衛隊長! また通路を突破されたら、分かってるだろうな!!」

「は、はい! すみませんベンドレ様!」 

 防衛隊長は慌ててベンドレに頭を下げると、増援された騎士たちに大声で指示を出した。

「おい、おまえら! 通路の敵を殲滅せんめつするぞ!」

「「おおー!!」」

「行けぇーー!!」

 ダダダダダダダダ

 増援ぞうえんされた騎士たちは通路を外へ向かって真っ直ぐに走り出した。

 ◆

 増援ぞうえんされた騎士たちは通路の中程なかほどまでやって来たが、誰も居ない事に気づいた。

「お、おい。誰も居ないぞ」

「もしかして、あの本陣ほんじんを突っ切った奴らが最後の生き残りなんじゃないか?」

「たしかに。それで必死に本陣を突破して仲間の所へ行ったのかもしれない」

「なるほど、それなら合点がてんがいくな」

 そこへ、防衛隊長が追いついてきた。

「防衛隊長! 誰もいません! さっき突破したのが最後の生き残りだったようです」

 それを聞いた防衛隊長が笑いながら言った。

「はっはー! そういう事か。だから必死にバイクで逃げていったんだな。ったく、ビビらせやがって」

 防衛隊長は胸を撫で下ろした。
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