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老兵は消えず、ただ戦うのみ

第103話 ひろし、作戦開始

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 ジロは急いでどこかに身を隠すと、紫電だけを戦いに出した。

 それを見た美咲が哲夫と和代に言った。

「おじいちゃん、危ないかもしれないから少し離れてて。おばあちゃんも離れて軍神だけ戦わせて」

「分かった美咲ちゃん!」
「分かったわ!」

 美咲は走り出すと紫電の横へ素早くステップしてひざを一突きした。

 ドッ!

 すると和代の零式が一気にジロの紫電に走り込んで、勢いの乗ったタックルを放った。

 「ウォォォオオオ!」
 ドゴォン!!

 ジロの紫電は斧でタックルを防いだが、そこへ美咲が突きを放った。

 ドドッ ドドドッ!

「グゴゴゴ」

 それを遠くから見ていたジロは呟きながら紫電と戦っている美咲に弓を引いた。

「くそ、あのレイピアの騎士は倒しておかねぇとヤベェことになるな」

 ヒュッ!

 スッ

 しかし美咲は何事もなかったかのように矢を避けると、にやりと笑いながら呟いた。

「そこか」

 すると美咲は矢が飛んできた方向とは反対方向へ走って、攻撃力の高いバックソードに持ち替えた。

 それを物陰から見ていたジロは悔しそうに声をあげた。

「くっそ! この角度からじゃ紫電が邪魔で矢が撃てねぇじゃねぇか!」

 美咲は紫電を挟んでジロからの矢を封じると、一気に攻撃に出た。

「いくよ」

 ドスッ ドスッ!

「グガガグガガ」

 紫電は美咲の攻撃を受けて少し怯んだが、背中のジェットエンジンを点火して突っ込んでこようとした。

 するとそれを見た和代の零式がジロの紫電に突っ込んでいった。

「ウォォォオオオオ!」

 ガシッ!

 和代の零式はジロの紫電を抑え込むとジェットエンジンを点火してジロの紫電を受け止めた。

 しかし、ジロの紫電のほうが馬力が高く、和代の零式は少しずつ後退を始めた。

「ッガッ……」

 その時、和代の零式は考えた。

 ーーーーーーーーー
 Kazuyo's order : attack on Shiden
 Kazuyo's order : ……
 Kazuyo's order : escape from Shiden
 (和代の指示・紫電から逃げる)
 ーーーーーーーーー

 和代の零式は背後に誰もいないことを確認すると、なんとジロの紫電から手を離し、横へと逃げた。

 すると全力でジェットエンジンを点火していた紫電は、そのまま一直線に前へ飛んでいった。

 ゴォォォオ……

 ズザァ……

 ジロの紫電は、慌てて足を出して踏み留まろうとしたが、止まりきれずに転倒し、そのまま地面にうつ伏せに倒れた。

 ーーーーーーーーー
 Kazuyo's order : attack on Shiden 
 (和代の指示・紫電に攻撃)
 ーーーーーーーーー

 和代の零式は即座に振り返ると、ジェットエンジンを点火してジロの紫電に襲いかかった。

 ゴォォォォオオ!

 そして素早く斧を振りかぶると、うつ伏せに倒れているジロの紫電の制御ユニットに叩きつけた。

「ウォォォオオオオ!」

 ドガッ!

「グガガグガガ」

 それを見た美咲が言った。

「やった! 零式が制御ユニットを壊した!」

 しかし、その瞬間、

 ヒュッ ドガッ!

 なんと、ジロが放った矢が和代の零式の制御ユニットを射抜いぬいた。

「あ、軍神さん! 大変!!」

「……ガッ、ガガガッ」

 和代の零式のHPは一気に10分の1になり、動けなくなった。

「機械の魔力を手に入れし者よ、我はその力を従わせる者……」

 和代が慌てて零式を呼び戻そうと詠唱を始めた。

「ウォォォオオオオ!」

 ドガン! ドガン! ドガン!

 すると突然零式が紫電に斧で猛攻もうこうを始めた。

「グゴゴグゴゴゴ」

 紫電はボロボロと部品を落としながら零式の攻撃を斧で受けた。

「……その激しい力の根源に命を下す。その絶大なる力を今鎮めよ!」

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 和代が詠唱を終えると、零式は地面の中へと下がっていった。

「ありがとう軍神さん! ゆっくり休んで!」

「……ッガッ」

 零式は和代のほうを向いて答えると、地面の中へ消えていった。

 すると、突然バイクのモービルに乗ったジロが美咲たちの横を走り抜けた。

「紫電! こいつらが追いかけてこないように引き留めておけよ!!」

 ジロはそう言うと、中央本陣へ向かって逃げ去った。

 それを見た美咲は笑いながら言った。

「あっちは、もっと強い味方がいるのに……」

 ジロの紫電は体中をショートさせながら立ち上がると、両手を広げて立ちふさがった。

 それを見た和代はジロの紫電の近くにやってきて言った。

「あなた可哀想に……、置いてかれてしまったのね……。大丈夫よ、もう攻撃しないわ」

「グゴゴ、ゴ」

 ジロの紫電は固まったまま声を出すと、そのまま和代を見つめて動かなくなった。

 そして、しばらくすると地面の中へと下がっていった。

「さっきの人、やられたみたいだね」

 美咲が和代に言うと、ジロの紫電は地面の中へと消えていった。

 ◆

 その頃、おじいさんたちの分隊も副隊長の黒ちゃんが連絡を受け、みんなに出撃の号令を出していた。

「北西の山を制圧したようです。我々も出撃しましょう!」

「「おー!」」

 するとアカネが黒ちゃんに言った。

「それにしても、ウチら少なくない? 弓部隊に3人行ってるし、イリューシュさん居ないし」

「うむ。そこで作戦を考えた」

「「おお」」

「あの山に登ろう」

 黒ちゃんは通路の横につらなっている山を指差した。


 ー おじいさんたちが担当する通路 ー

 通路の入り口を守っていた敵の騎士たちは謎の石にHPを減らされていた。

 ガン!

「いって! なんだ?」

 ガン!

「え、何? 落石?」

 ガン! ガン!

「ちょ、けっこうHP減るんだけど」

 ガン! ガン! ガン!

「なんなの? 敵?」

「いや、石だぞコレ」

「石? 横の山が崩れそうとか?」

 ガツン!

「いって! おい、チョット見に行こうぜ」

「そうだな、けっこうHP減るしな」

 入り口付近に居た5人の騎士たちは回復薬を飲みながら横の山に登っていった。


「おい、結構険しいなこの山」

「ああ。あっちの平らなほうから回るか」

「そうだな」

 5人が平らな道に回ると、道の真ん中にアカネと大熊笹が立っていた。

「おい、道着どうぎのジジイと女の子だ。なんだ、修行か?」

「「ぶははははは」」

 山を登ってきた騎士たちはアカネと大熊笹に近づいてきて言った。

「おい、お前ら。山の上から石投げてないよなぁ」

「え? 石? そんなもん投げないよ。あたしたちが投げるのは……」

 ババッ!

 するとアカネと大熊笹は一瞬にして前の2人のふところに入った。

「やぁあ!」
「はい、よいしょ!」

 ズダン!
 バタン!

「うわっ!」
「いてっ!」

 そこへ岩陰に隠れていた黒ちゃんが、鬼の形相ぎょうそうで炎をまとわせた両手剣を振り上げた。

「ぬおおぉぉぉおおお!」

 ガキン! ガキン! ガキン!

「くそ! なんだこいつら!」

 1人が消滅すると、他の騎士たちも突っ込んできた。

「てめえら、調子乗るなよ! 俺たちはブッ!!」

 ゴキッ!!

 その時、岩の上から飛び降りたタマシリの飛び蹴りが騎士の頭を直撃した。

「ぁあぁあい! ああい! あぁぁあい!」

 ドガッ! ドガッ! ドガッ!

「く、くそう!」

 タマシリがキックの嵐を食らわせると、騎士はたまらず消滅していった。

 すると残りの騎士たちが剣を構えて突っ込んで来た。

「こいつらぁ!!」

「はい、目潰めつぶしっ!!」

 ブワッ

「あぁぁ、目がぁ、目がぁあああ!」

 そこへ黒ちゃんとタマシリが走り込んだ。

「ぬぉぉおおおぉぉお!」
「あぁぁああぁあいい!」

 ドカッ バキッ ドスッ ガンガン ゴキッ スカッ ズガン ズブッ ペチッ ドゴォ

 さらにそこへ、めぐが雷の魔法を放った。

「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」

 ガガーーン!!!

 ヒュゥゥウウ……

 騎士たちは全員消滅していった。

「「やったー!」」

 アカネは飛び上がって喜ぶと、ガッツポーズをして黒ちゃんに言った。

「作戦成功だな黒ちゃん!」

「お、おう! 上手く行って良かった。あいつらはリスポーンしたら仲間に連絡するはずだ。そうすれば、きっとこの山の上にやってくる。すぐに第2作戦に移行しよう」

「「おー!!」」

 アカネはアイテムを操作して柔術衣からミニスカロック女子になった。

 めぐは魔法の杖を仕舞しまうと化粧ポーチを出現させ、アカネにササッと化粧をした。

「アカネ、なかなかお化粧も似合うかも」

「まじで? ありがと。化粧なんて初めてしたよ」

「そうなの? いい感じだよ。ねぇ黒ちゃんさん」

「え、ああ! アカネ、その、可愛くなったぞ」

「まじか! ……って、なんで黒ちゃんが照れてんだよ」

「あ、え、いや」

「「ははははは」」

 おじいさんたちは笑い合うと、第2作戦に移行した。
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