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あの日の記憶

第39話 ひろし、協力する

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 ー 外部セキュリティ会社、ギーカブル社内 ー

 真理とエンジニアのヤマちゃんは大掛かりなハッキングの準備を終えていた。

「真理さん、準備できたよ。もういつでもイケる」

「長かったわ。3年かけてイグラァと黒のメンバーをだまし続けて、やっと苦労が実を結ぶわね」

「真理さん、ずっとこの日を待ってたよ」

「そうね。……ところで、ほかのハッキングメンバーは?」

「あ、オンラインで繋げるね」

 すると、真理のパソコンに2名のハッカーがボイスチャットで接続された。

「あなたたち、よろしくね。今日の細かい行動を説明するわ。いいかしら」

「はい」「はい」

「今やってるコーシャタのメンテナンスには、うちの会社も関わっているわ。まずヤマちゃんが、うちの回線を利用してハッキングし、コーシャタ内での戦闘を可能にする」

「はい」「はい」

「そうしたら黒のメンバーたちを送り込んで街を攻撃させるから、トラブルを起こしてる間にメイン・サーバーをハッキングして」

「はい」「はい」

「運営は黒のメンバーによるトラブル解消に人手を取られて手薄になるはず。なにしろ、コーシャタはお得意さんの店ばかりだからね」

 真理はそう言うと、黒のメンバーリストを二人に送信して続けた。

「ハッキングが完了したら、この黒のメンバーたちのIDを照合して、ひもづいているクレジットカード番号を抜き出して」

「はい」「はい」

「あとは、ヤマちゃんが集めたセキュリティコードと暗証番号を合わせて、闇サイトで暗号資産を買えるだけ買うわ」

「はい」「はい」

「報酬は手に入れた暗号資産の20%ずつ。質問は?」

「ありません」「大丈夫です」

「なら、始めるわよ」

「はい」「はい」

 マリはハッキングを開始させると、黒のメンバー全員にメッセージを送った。

 ーーーーーーーーーー
 時は来たわ。今日は私たちの革命の日よ。

 3分後にコーシャタをハッキングして戦闘できるようにする。

 昨日送っておいたプロキシを経由してログインしてちょうだい。

 弱小プレイヤーにびを売っているこの街を破壊して、私たちの強さを見せつけるのよ。

 この仕事が終わればハッキングも完了して「黒が支配する世界」になっているはず。

 いい知らせを待っているわね。
 ーーーーーーーーーー

「来たか」
「はっはー、待ってたぜ。ぶっ潰してやる」
「キター! ライブ配信したら絶対視聴者増えるでしょ」

 黒のメンバーは各々おのおの準備を始めた。

 その頃、ハッキングを開始したヤマちゃんはニヤリと笑って真理に報告した。

「真理さん、もうコーシャタ戦闘可能になったよ。あと、あの2人も順調にやってる」

「さすがだわ」

「この間ハッキングした時にシステムを把握したからね。あとウィルス入りのエロDMを開けた部長がいてさ」

「ふふっ。どの部長か察しが付くわ」

「真っ昼間に正面切ってハッキング。これは歴史に残るハッキング・ショーになるよ。くくく」

 ヤマちゃんはパソコンのキーボードを打ちならが薄ら笑みを浮かべた。

 するとその時、イグラァから真里に電話がかかってきた。

 それに気づいた真里は真剣な表情を作って話に出た。

「もしもし!」

『あ、もしもし真里ちゃん!? 今大変な事が……』

「はい、いま全力でハッキングに対抗しています! ギーカブルからの回線は絶対に確保しておいてください!」

『わ、わかった! 真理ちゃん頼んだよ!』

「はい!」

 真里は電話を切るとゆっくりと足を組み替えて笑みを浮かべた。


 ー 株式会社イグラア ー

 社長室に社員の一人が飛び込んできた。

「社長! ハッカーがメインサーバーに侵入しました」

「なんだと!」

「現在、コーシャタのバックアップ作業中で人が足りず、さらにメンテナンス中のコーシャタに多数の侵入者が入り込み、その対応に人員を取られています!」

「それはまずいぞ! 外部セキュリティ会社はどうなっている!?」

「ギーカブルも全力でハッキングに対抗しているとの事です!」

「くっ、人手が足りんか! まずはコーシャタの侵入者のアクセスを遮断しゃだんしろ」

「社長、それが……」

「どうした」

「現在、コーシャタの取引先が我が社のサーバに接続して売上を集計中なのですが、侵入者はなぜかその専用回線からアクセスしていて……」

「なんだと!?」

「いま全ての回線を遮断すれば、コーシャタの取引先の売上情報が全て消滅する可能性があります。そうなれば……」

「くっ……。莫大な損失と、信用の失墜……」

 すると、専務の大谷が駆け込んできた。

「社長! コーシャタの侵入者が破壊活動を始めました」

「破壊活動だと!?」

「はい。このままでは取引先の商品データにも被害が及びます」

「……これは計画的なハッキングだな」

「はい。今のところエンジニアたちが全力で商品を保護していますが、ハッキングにも対処しなければならず人が足りません」

「くっ!」

 ガンッ

 社長は机を叩いた。

 すると大谷が、少し表情を崩して社長に言った。

「社長。ログインしてコーシャタへ行きましょう。我々が侵入者を倒して排除すればエンジニアたちの助けになります」

「……そうか! その手があったか。行こう大谷くん! 侵入者たちに私のカッチカチを見せてやろうではないか!」

「承知しました! まずはエンジニア以外で手のいている者を集めてコーシャタへ出発させます」

「頼んだぞ! 私はエージェントたちを集める」

 ーーーーーーーーーーーーーーーー
【【【緊急連絡】】】

 専務・大谷:見ての通り、不正侵入者がコーシャタを攻撃してます。皆さんを力を貸してください。

 専務・大谷:エンジニア以外でバトルに自信があるプレイヤーは名乗り出てください。

 専務・大谷:ただしメンテナンス作業中のエリアに入ります。倒された場合、正常にリスポーンできない可能性があります。

 専務・大谷:つまりセーブデータが不正に上書きされ、消える場合があります。

 営業・山下:行けます。
 経理・三枝:大丈夫です。
 受付・山本:行きます

 営業・太田:ぶん殴ってやります
 経理・石田:行けます!

 専務・大谷:では、第一陣は出発お願いします。人事部の塚本にプレイヤーIDを申請してください
 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 こうして社員の5人はログインすると、メンテナンス中のコーシャタへ転移していった。


 その頃、イリューシュにもメッセージが送られて来た。

『緊急招集。エージェントはコーシャタ東入口へ集合。人手が欲しい。信頼できるフレンドがいたら連れてきてくれ』

 それを見たイリューシュがみんなに言った。

「みなさん。わたし行かなくてはならなくなりました。ごめんなさい」

 するとアカネが尋ねた。

「ええ!? どうしたんすか?」

「この世界で、何か大変なことが起きているみたいなのです」

「「えええ!」」

 みんなが驚くと黒ちゃんがイリューシュに話した。

「イリューシュさん。わたしに手伝える事があれば言ってください。船酔いの借りがありますので」

「黒ちゃんさん、本心で言わせてください。手伝って欲しいです。人手が足りないようです」

「もちろんです!」

 するとアカネとめぐ、そしておじいさんも言った。

「あたしだって手伝うよ!」
「わたしも!」
「わたしも行かせてください」

 イリューシュは笑顔になって答えた。

「みなさん、ありがとうございます! ではコーシャタの東入口に急ぎましょう!」

「「「はい!」」」

 おじいさんたちは軽トラを出現させると、全員乗り込んで東入口へと急いだ。
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