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あの日の記憶

第38話 ひろし、寝坊する

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 その頃、おばあさんたちは船で行ける火山島とういう島で「溶岩キノコ」を集め終え、ワンタイで小籠包と豆花トウファを楽しんでいた。

 マユは豆花トウファを食べながら満足そうに話した。

「あんまり溶岩キノコ集められなかったけど、これで攻撃強化薬が作れるね。攻撃強化薬はピンデチなら絶対売れるよ!」

 それを聞いたおばあさんも嬉しそうに答えた。

「そうね! ピンデチでは他に売っているお店も無いわよ」

「ほんとに!? うちらのお店が独占? じゃあ沢山売れたら、船で世界中の美味しいものを食べに行こう!」

「そうね!」
「いいね」
「ぅん」

 一緒にいたアルマジロも嬉しそうにした。

 するとメイがマユとナミに言った。

「うちら来年卒業なのに、フレア・ウィルスのせいで何もできなかったけどさぁ、みんなでこのゲーム始めて良かったよね」

 マユはうなずいて答えた。

「だよね。一応、外出OKになったけど卒業旅行もまだ行きづらいよね」

 ナミもウンと頷いた。

 すると、マユがおばあさんに尋ねた。

「洋子ちゃんは卒業旅行どこか行った?」

「えぇっと、どこだったかしら。『あさかぜ』で東京へ行ったのは覚えてるわ」

「あさかぜ?」

「ええ、国鉄こくてつ寝台特急しんだいとっきゅうよ」

「こくてつ?」

「はっ! あ、あらやだ、間違えちゃったわ。し、新幹線よ」

「あぁ~、新幹線ね。あたしたちも新幹線で大阪のUJS行きたいよね」

「だよね。でも夜行バスで予算ギリじゃない?」

「「はははは」」

 おばあさんは少しあせったが、みんなと旅行の話で盛り上がった。


 その頃、おじいさんたちはG区画の家で「肉だけバーベキュー」をしていた。

 めぐは肉を焼きながら嬉しそうに呟いた。

「はぁ~、いくら食べても太らないのにお肉の味するんだよね。最高」

 するとアカネは一番乗りで肉にかぶりついた。

「いただきまーす!」

 ガブッ!

 それを見たみんなも美味しそうに肉を食べ始めた。

 アカネは肉を食べながら気になっていたことを黒ちゃんに聞いた。

「そういえば黒ちゃん、最近ずっとウチらと一緒にいるけど、To The Topは大丈夫なの?」

「ああ。To The Top、辞めたんだ」

「「「えーーー!」」」

「ていうか、リーダーが辞めるってアリなのかよ」

「まぁ、この世界は契約でチームになるわけでは無いからな」

「そっか、それで気分転換で髪型変えたかったんだ」

「う、うむ」

「なんだよ黒ちゃん、女子かよ。で、何で辞めたの?」

「なんだか疲れてしまってな。仕事でも後輩たちに指示したり大変なのに、ゲームの中も同じようで」

「やっぱり大人は大変そうだな。ていうか配達の仕事って、そんなに後輩いるのか?」

「え、いや、交通機動隊の白バイ隊員なんだ」

「「「えーーー!」」」

 みんなが驚くとイリューシュが感心しながら言った。

「どうりでモトラジェットの運転がお上手だったんですね」

「はい。モトラジェットは、ほとんどオートバイですから。ですがイリューシュさんも速かったですね」

「あ、ええ。祖父の家にちょっとしたコースがありまして、よくスポーツバイクで遊んでいたんです。ふふふ」

 みんなは黒ちゃんにも驚きだが、ちょっとしたコースがあるイリューシュの祖父の家にも驚いた。

 こうして楽しい時間はあっという間に過ぎ、明日のレースを楽しみに全員ログアウトしていった。


 おじいさんは現実世界に戻ってくると、おばあさんはまだVRグラスをかけていた。

「ははは。おばあさん楽しんでるなぁ」

 おじいさんは台所へ行って、得意のお好み焼きを作り始めた。


 ー 翌朝 ー

 おじいさんは昨夜、遅い時間に帰ったおばあさんと深夜までお喋りしていたので、なんと寝坊してしまった。

「あぁ、いかんいかん」

 おじいさんは庭の掃除や庭の水やりなど、朝の仕事を急いで終わらせた。

 そして、昨日作ったお好み焼きの残りを電子レンジで温めて食べ始めた。

 すると、おばあさんの声がした。

「あなた、ごめんなさい。わたしはお先にゲーム行きますね」

「あぁ、いってらっしゃい。楽しんでなぁ」

「はい、いってきます」

 おばあさんはVRグラスをかけた。

 おじいさんは、お好み焼きを食べながらつぶやいた。

「話に夢中になって寝坊するなんて何十年ぶりだろうか。ははは」

 おじいさんは少し嬉しそうにつぶやくと、急いでお好み焼きを食べ終えた。

「さて、早く行かないと」

 おじいさんは居間のソファに座ってVRグラスをかけた。


 おじいさんは時計台の前に出現すると、三輪自転車を出現させて飛び乗り、G区画の家まで飛ばした。

 すると、みんなが外に出て待っているのが見えた。

「あぁ、みなさん、すみません!」

 おじいさんは急いでみんなの前までやって来ると、めぐがおじいさんに言った。

「ぜんぜん大丈夫だよ、おじいちゃん。もし何かあったらアプリで連絡してくれればいいから」

「あぁ、その手がありましたね」

 おじいさんは手をポンと叩くと笑顔になった。

 おじいさんたちは一緒に村の外まで出ると、軽トラに乗ってメンテナンス中のコーシャタへ向かった。


 ー コーシャタ ー

 おじいさんたちがコーシャタの近くまで来ると、モトラジェット・レースの受付テントが見えてきた。

 コーシャタ自体は半透明の巨大なドームに覆われていて、「メンテナンス中」の文字が浮かんでいた。

 おじいさんはサーキットの受付テントの前で軽トラを止めると、アカネは荷台から飛び降りて一番乗りで走っていった。

 そしてエントリーの受付を済ませると、さっそく外に置いてあるモトラジェットにまたがった。

「一番乗りで行ってくる!」

 アカネはスタートラインにモトラジェットを進めると、軽トラから降りたみんなに手を振って準備した。

「アカネー! がんばれー!」
「あかねさん、頑張ってください」
「お気をつけて」
「慎重にな!」

「わかったー!!」

 アカネがみんなに返事をすると、空中に「スタンバイ」の文字が浮かんでカウントダウンが始まった。

 3、2、1、Go!

 ファァァアア!

「おっしゃーー!」

 アカネはアクセルを全開にすると、矢のようにスタートしていった。

 空中に浮かぶ大画面にはアカネの映像が映し出され、スピードも表示されていた。

 それを見ためぐは心配そうに言った。

「え? アカネずっと全開じゃ……」

 すると黒ちゃんが答えた。

「そのようです。しかし、次のゆるやかな左カーブは減速すると思いますが……」

 コースは緩やかな左カーブにさしかかった。

 しかしアカネは全開のままカーブに入った。

「うおおお! カーブも気合いだーーー! おりゃーーあ、あれーーー!」

 アカネは叫びながら華麗かれいににコースアウトしていった。

 空中の大画面には「失格」の文字が表示さ、それを見ためぐは笑いながら言った。

「さすがに気合いでバイクは曲がらないよね」

「「ははははは」」

 みんなは笑いながらアカネが戻るのを待った。
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