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仮想空間でセカンドライフ

第14話 ひろし、部屋をもらう

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 おじいさんたちはデータセンターから歩いて海の見える丘までやって来ると、「G区画」と書かれた看板を見つけた。

 看板の後ろの土地には、かすかに光るラインが描かれていて区画が分かれていた。

 このG区画はまだ入居者が少なく、建っている家は数件ほどだったが、とても景色の良い場所だった。

 するとイリューシュはG区画の一番高い場所を指差しながら、笑顔でみんなに言った。

「あの丘の上を買いました」

 それを聞いたアカネ、めぐ、おじいさんは驚いた。

「ええっ! あそこ絶対高いよ!」
「すごい、景色良さそう!」
「いやぁ、すばらしいところですね」

「ふふふ。まだ誰も購入していなかったので一目惚れで買ってしまいました。さぁ、行きましょう」

 イリューシュはそう言うと、笑顔で購入した土地へと向かった。

 ◆

 みんなで丘の上に行くと、そこは1区画のみの一際大ひときわ、おおきい見晴らしの良い一等地だった。

 それを見たアカネが大声をあげた。

「うわっ、やっぱ最高の場所だよ! やばいな!」

 すると、めぐも笑顔で言った。

「海がとってもきれい。景色いいー!」

 おじいさんもウンウンと頷いた。

 イリューシュが購入した土地の端には画面が浮いていて、イリューシュが画面をタッチして認証すると、画面には家の画像が何種類も表示された。

「みなさん、どんな家がいいですか?」

 イリューシュが画面に表示された家の画像をスクロールしながら尋ねると、めぐとアカネが答えた。

「いえいえ、イリューシュさんの好きな家を選んでください!」

「そうそう、ウチら居候いそうろうだし」

 するとイリューシュが笑顔で答えた。

「では、一番大きい家にしましょう。ふふふ」

 イリューシュは画面の中の「価格1億8千万プクナ」と書かれた家の購入ボタン押すと、土地の上に巨大な豪邸が現れた。

「「わーーー!」」

 みんなが驚くと、イリューシュは満足そうに豪邸を眺めて、みんなに言った。

「では、さっそく入ってみましょう」

「やったー! 豪邸だ!」
「セレブ!」
「大きなお屋敷ですね……」

 おじいさんたちはイリューシュの後についていった。

 ◆

 みんなが中に入ると、両脇に階段がある大広間に出た。

 部屋の真ん中には大きなテーブルと沢山の椅子、そして大きなソファや暖炉だんろ、さらに武器や防具を飾るスペースもあった。

「すげー! 王様とかが住むとこだよ!」

 アカネはクルクルと回りながらはしゃいだ。

 めぐはテーブルの上に置いてある家の間取り図を見つけると、思わず大きな声を出して驚いた。

「え、この家13LLDKだって! あ、おじいちゃん、一階に和室もあるよ!」

 めぐは大広間の横にあるふすまを指差すと、おじいさんは嬉しそうに答えた。

「それは素晴らしいですね。イリューシュさん、見させてもらっても良ろしいでしょうか?」

「もちろんです、ひろしさん。良かったら、ひろしさんのお部屋にしてくださいね」

「ほんとうですか!?」

「ええ。部屋はたくさんありますので」

「これはこれは、ありがとうございます」

 おじいさんは深々と頭を下げてふすまを開けると、目を丸くして驚いた。

 美しい青畳あおだたみが並ぶ12畳の部屋に、低いテーブルと座布団、床の間に生け花と書が飾られた本格的な和室だった。

「あぁ、素晴らしい。夢のようだ」

 イリューシュは喜ぶおじいさんを見て笑顔になると、はしゃいでいるアカネとめぐに言った。

「アカネさん、めぐさん。どうぞ好きな部屋を見つけて、ご自分の部屋にしてくださいね」

「やったー、ありがとうございます!」
「いいんですか? ありがとうございます!」

 めぐとアカネは競うように家の中の部屋を見て回った。

 するとおじいさんは和室から戻ってきてイリューシュに話した。

「イリューシュさん。こんなにしていただいて、お礼の言葉もありません。大変恐縮です……」

「いえいえ、ひろしさん。わたしは今とても幸せなんです。みなさんみたいな人たちに会えて」

 イリューシュは家の中を走り回っているアカネとめぐを笑顔で見ながら続けた。

「真っすぐで正直なめぐさん、勝つことよりも気持ちを大切にするアカネさん、そして思いやりのあるひろしさん。ふふふ」

「いえいえ、わたしなんか……」

 おじいさんは恐縮しながら頭を掻いた。

 するとアカネが二階の階段から顔を出して大声で言った。

「イリューシュさん、あたし屋根裏部屋やねうらべやもらいます!」

 めぐも階段に顔を出して言った。

「わたしは二階の突き当りの部屋をいただきます!」

「はい、ご自由に使ってくださいね!」

 イリューシュは2人に答えると、ふと思い付いてみんなに言った。

「みなさん、コーシャタの街へ買い物に行きませんか? 家具やカーテン、服も売っているんですよ」

 アカネはそれを聞くと嬉しそうにイリューシュに答えた。

「ほんとですか! 柔道着とかあったりして。ははは」

「ありますよ、たぶん」

「え、まじで!?」

 すると、めぐもイリューシュに尋ねた。

「イリューシュさん、もしかしてガーリー系ブランドのお店とか……」

「あ、はい。コーシャタには現実世界のお店が出店しているんですよ」

「え、すごい!」

 おじいさんも話に参加した。

「イリューシュさん、では急須きゅうす湯呑ゆのみやお茶も売っていたりは……」

「あら、ひろしさん。それは必ず売ってますよ」

「ほんとうですか!」

 めぐとアカネとおじいさんは、目をキラキラさせながらイリューシュを見た。

「ふふふ。ではコーシャタの街へいきましょう」

「「はいっ!」」

 こうして、全員でコーシャタの街へ遊びに行く事になった。

 ◆

 イリューシュは家の外へ出ると、何かを思い出したかのように全員に尋ねた。

「あの、どなたか運転免許を持っていらっしゃいませんか?」

 すると、おじいさんが答えた。

「わたし、持っています」

「あ、良かったです。モービルが使えますね!」

「モー……?」

「ふふふ。現実世界で運転免許証を持っているとゲームの中でも車を運転できるんです」

 イリューシュはそう言うと、おじいさんたちを連れて家の外にある画面へ行き、モービルと呼ばれる移動用の乗り物を表示させた。

 画面には高級セダンやスポーツカー、ワゴン車などがあったが、ページの端に軽トラもあった。

 おじいさんは軽トラを見つけると思わず指を差して言った。

「ははは。わたしの車と同じものもありますね」

 それを聞いたイリューシュは迷わず軽トラの購入ボタン押した。

「乗り慣れた車が良いですものね。ふふふ」

 ボンッ!

 すると家の前に軽トラが現れた。

「やったー、車だ! これ、うしろ乗れるね!」

 アカネは声をあげると軽トラの荷台に飛び乗った。

 めぐも嬉しそうに荷台に乗り込み、助手席にはイリューシュが乗った。

 しかし、おじいさんは少し驚いてイリューシュに尋ねた。

「あの、この車で良かったのでしょうか……。もっと、ちゃんと人が乗れる車のほうが……」

「ふふふ。うしろのお二人も楽しそうですし、それに万が一荷台から落ちても、この世界ならHPが減るだけですから」

「あぁ、なるほど。ははは」

 おじいさんはそう言うと運転席に乗り込み、イリューシュは窓を開けて荷台の二人に言った。

「出発しますよー!」

「「はーい!」」

 こうして一行いっこうは、おじいさんの運転でコーシャタの街へ向かった。

 軽トラは海沿いの道を抜けてピンデチの村の外へ出ると、それを待っていたかのように一台の怪しげなワゴン車が軽トラの後を追った。
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