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仮想空間でセカンドライフ

第13話 ひろし、最大のピンチ

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 カフェでみんなで話していると、おじいさんは、なんとなくカフェに貼ってある広告が気になった。

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 ついに新区画、分譲開始!

 ピンデチに、G区画とH区画を追加しました。

 夢のマイホーム、
 チームの集合場所、
 夢は無限に広がります!

 最小区画150万プクナ~
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 おじいさんが広告を読んでいると、イリューシュが話しかけてきた。

「ひろしさん、広告が気になりますか? 実はわたし、先日からピンデチに拠点を移して土地を見に来ていて……」

「そうなんですか。ゲームの世界でも土地が買えるんですね」

「そうなんです。わたしイークラトの町という所にチームの家があったのですが、チームをやめてしまって……」

「そうでしたか……。ところで良い場所は見つかりましたか?」

「はい、お陰様で。明日、G区画の土地を契約する予定なんです」

「それはそれは。イリューシュさん、家ができたら是非遊ぜひ、あそびに行かせてください」

 すると、それを聞いていたアカネも言った。

「あたしも行きたい!」

 めぐもアカネに続いた。

「わたしも! でもイリューシュさんうらやましいなぁ。家が買えるだけのプクナ持ってるなんて。わたしも家ほしいなぁ」

 イリューシュは笑顔で答えた。

「わたしは長い間このゲームをやっているのでプクナが余ってしまっているんです。ふふふ」

 するとイリューシュは少し考えて、みんなに話した。

「もし、みなさんが良ければなんですけど……、一緒にチームで住みませんか?」

「え! あたし住む!」
「わたしも住みたいです!」
「わたしもよろしいでしょうか」

 全員即答した。

「ふふふ、良かった。みなさんとだったら一緒に住みたいな、って思って。では明日ご案内しますね」

 それを聞いたアカネはガッツポーズをして言った。

「やったー! 新しいチームだ! To The Topのチームの家、なんか雰囲気悪くてさぁ。変なオッサンがセクハラ発言してくるし」

「「ははははは」」

 みんなはしばらくカフェでお喋りをすると、また明日会う約束をして、ログアウトしていった。


 おじいさんはVRグラスを外すと、すでに夜9時を過ぎていた。

「あぁ、もうこんな時間か。しまったしまった」

 おじいさんはテーブルの上にラップがかけられて置いてあった夕飯を見つけると、電子レンジに入れて温め始めた。

 「おばあさんは先に寝室で寝ているみたいだな……」

 ピピピピ!

 おじいさんは電子レンジで温めた夕飯を取り出すとテーブルについた。

「いただきます」

 そして夕食を食べはじめると、思わず笑顔になって今日の事を思い出した。

「あぁ、今日は楽しい一日だったなぁ」

 おじいさんは試合で壁を壊したことや、めぐやイリューシュの試合、カフェで楽しくお喋りした事を思い出した。

「あんなに緊張したり楽しく笑ったのは何年ぶりだろうか。明日も楽しみだなぁ」

 その時トイレに起きてきたおばあさんは、遠目にニヤニヤしているおじいさんを見つけて、少し気味悪がった。


 ー 翌朝 ー

 おじいさんは朝食を済ませて家と庭の掃除を終えると、軽トラで街へ出かけて、おばあさんに頼まれた物を買って帰ってきた。

「おばあさん、頼まれたものを買ってきたよ。あとは何かやることあるかい」

「大丈夫ですよ。ゲームやりたいんでしょう?」

「ははは。この歳になってすまんな」

「いいんですよ。あんな楽しそうにしてるんですもの」

 おじいさんは少し急いで荷物を片付けると、約束の時間より少し早かったが、ソファに座ってVRグラスをかけた。

 しかし……。視界には時計台が一瞬映ったが、すぐに真っ暗になってしまった。

「おや、どうしたんだろう」

 おじいさんは、もう一度VRグラスをかけてみたが、やはり真っ暗のままだった。

「あぁ。壊れてしまったのか……」

 おじいさんは、がっくりと肩を落とした。

「あなた、どうしたの?」

「ゲームが壊れてしまったみたいなんだ」

「あら……」

「あぁ、残念だなぁ……」

 するとおばあさんはタンスの引き出しを引っ張り出して、中からヘソクリを取り出した。

「あなた、これ」

「えっ、お金かい? おばあさん、いいよ。大丈夫だよ」

「大丈夫って言ったって、家の中に元気ない人が居るほうがいやよ」

「おばあさん……」

「はい、早く受け取って」

「……ありがとう」

 おじいさんはおばあさんからお金を受け取ると、深々と頭を下げて軽トラで街の家電量販店へ向かった。

 ◆

 おじいさんは家電量販店に到着すると、店員に詳しくゲームの話をしてザ・フラウのプリインストール版VR-GigBoxを購入した。

 そして安全運転をしながら急いで帰ってくると、おばあさんにお礼をしてVRグラスをかけ、少し申し訳無さそうにゲームの世界へ入っていった。

「はじめまして! わたしはあなたのパートナーです。わたしの名前を決めてね!」

「あ、節子さん」

「節子でいいかな?」

「あ、そうか、また最初からか」

 おじいさんは、最初にやったことを思い出して再び時計台にやってきた。

「あぁ、やっと来れた」

 するとおじいさんを探していたアカネがおじいさんを見つけた。

「あ、じぃちゃん! ……だよな?」

「あ、アカネさん!」

「じいちゃん、服違うし、フレンド切れちゃってるんだけど」

「あ、実はゲームが壊れて、もう一台買ったんです」

「ええっ!?」

「いやぁ……、すみません」

「え、あ、えっと、ちょっとそこで待っててよ。みんな呼んでくるから!」

 アカネはそう言うと、みんなを呼びに行った。

 ◆

 しばらくすると、アカネはイリューシュとめぐを連れてきた。

 イリューシュは少し戸惑っているおじいさんに挨拶をすると笑顔で尋ねた。

「ひろしさん、データは移行がまだなんですね」

「いこう?」

「ひろしさん、わたしと一緒に来てもらえますか? ふふふ」

 イリューシュはおじいさんとみんなを連れて、すぐ近くのデータセンターへ入った。

 そしてセンターに並んでいる端末の前に行き、タッチパネルを指さしながらおじいさんに説明を始めた。

「この端末で前のデータを引き継げるんです、右上の『データ移行』というところを押してください」

「わかりました」

 おじいさんは端末の「データ移行」を押した。

 すると画面には、「瞳の虹彩データを照合します。目を開いてお待ち下さい。VRグラスを外さないでください」と表示された。

「ええと、目を開いて……」

 おじいさんが目を開いていると端末から音声案内が流れた。

『瞳の虹彩の照合が終わりました。データを移行します』

 ……ポーン♪

『データ移行が完了しました。おかえりなさい、ひろしさん』

 おじいさんのデータは移行され、入賞バッジの付いた小豆色のジャージ姿になった。

「おじいちゃん、お帰り!」

 めぐがそう言うと、おじいさんは満面の笑顔になって答えた。

「ただいま。ははは」

 その様子を見ていたイリューシュはウンウンとうなずくと、みんなに言った。

「では、ひろしさんのデータも戻りましたし、昨日お話していたG区画へ行きましょうか」

「行こう!」
「はい!」
「よろしくおねがいします」

 こうしてみんなはイリューシュが購入した土地を見に行ったのだった。
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