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仮想空間でセカンドライフ

第15話 ひろし、新しい街へ行く

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 おじいさんが西へ向かってゆっくりと運転していると、後を追ってきた怪しげなワゴン車が加速してきて横に並んだ。

 そして車体の横にあるスライドドアを開けると、中の一人がアカネに叫んだ。

「おい、アカネ! フレンド切りやがって! てめぇは許さねぇぞ!」

 なんと声の主はアカネが試合を脱落した時に文句を言ってきた男だった。

 アカネはその声に動揺することもなく男に答えた。

「おい、お前が先にフレンド切るって言ったんだろ? 頭大丈夫か?」

「はぁ!? そんなのイベントが終わってからに決まってるだろ! ちょっと車止めろ!」

 ワゴン車は軽トラに幅寄せをしてきたので、おじいさんは危険だと判断して安全に軽トラを停車させた。

 するとワゴン車からTo The Topのメンバーが降りてきた。

 降りてきたメンバーは、アカネに文句を言った魔法使いと片手剣の騎士、そして弓使い2人と武闘家の合計5人だった。

 それを見たアカネは荷台から飛び降りると、おじいさんたちに言った。

「ほんとゴメン! あたしの問題に巻き込んじゃって。ちょっと待ってて」

 アカネがそう言った瞬間、片手剣の騎士が盾を前にしながら突進してきた。

「アカネ! 調子に乗るなよ!」

「へっ。さっそく来たな! よっと!」

 ブワッ!

 アカネは突進してきた騎士の盾を素早く両手で掴むと、盾ごと騎士を巴投ともえなげで投げ捨てた。

「えいっ!!!」

 ズザァアア!
「ぐわぁっ!」

 するとそれを見ためぐが即座に魔法の詠唱をした。

「聖なる雷を司る者たちよ。あの者に裁きの雷を!」

 パーン!

 めぐの雷が片手剣の騎士を直撃すると、騎士は悔しそうな表情を浮かべながら静かに消滅していった。

「めぐ、ナイス!」

 アカネは親指を立てて笑顔になると、めぐは慌ててアカネに声をかけた。

「アカネあぶない! うしろ!」

 めぐの声にアカネが振り返ると、弓使い2人がアカネを狙っていた。

「覚悟しろ、アカネ!」
「逃さねぇぜ!」

「やばっ!」

 ヒュッ……、ドッ!
 シャァッ……、ガンッ!

 しかしイリューシュの矢と、おじいさんの石が弓使い2人の頭と胸に命中して大ダメージを与え、2人を消滅させた。

「ひろしさん、ナイスです」
「当たって良かったです。ははは」

 イリューシュとおじいさんは顔を見合わせて笑い合うと、アカネも喜んで跳びはねた。

 残った武闘家は走り出してワゴン車に乗り込むと、なんとワゴン車を走らせて逃げていった。

 それを見た魔法使いは絶望の表情を浮かべて叫んだ。

「おい、どこ行くんだよ! 待てよ!! 置いてくなよ!!」

 取り残されてしまった魔法使いは走り去ってゆくワゴン車を見つめると、愕然がくぜんとして杖を仕舞しまい、戦闘をやめてしまった。

『11ポイントのステータスポイントを獲得しました』

 魔法使いは振り返ると、アカネに向かって少しこわがりながら言った。

「おい、お、おれは正しい事をしてんだ。だ、だってお前がチームを大事にしないのが悪いんだからな」

 それを聞いたアカネは素直に頭を下げた。

「たしかに、イベントを自分の都合で抜けたのも、フレンド切ってポイント減らしたのも悪かった」

 しかし、アカネは頭を上げて続けた。

「でもさぁ、嫌いなヤツがいるチームを大事にしろって強制されるのは嫌だね」

 ブーーーン

 すると突然、転移魔法で両手剣の騎士が現れた。

 その両手剣の騎士はベテランクラスでイリューシュと戦った漆黒しっこくの剣士だった。

「リーダー!」

 魔法使いは一気に表情を明るくすると漆黒の剣士に叫んだ。

 なんと漆黒の剣士はTo The Topのリーダーだった。

 イリューシュは漆黒の剣士に気づくと笑顔で挨拶をした。

「昨日は素晴らしい試合をありがとうございました」

 すると漆黒の剣士は剣を前に立てて敬意を表し、会釈えしゃくをした。

 アカネに文句を言った魔法使いは漆黒の剣士に駆け寄ると大声で言った。

「こいつです! ウチらを裏切ったアカネです! やっちゃってください、早く!」

 それを聞いた漆黒の剣士は両手剣を構えると、なんとアカネではなく、文句を言った魔法使いの首元に突きつけた。

「え……、リ、リーダー?」

「なぜ、お前がリーダーの私に指図をする?」

「え、いや、その……」

「お前はワゴン車でまだレベルの低いメンバーを勝手に連れ出し、私の許可なくバトルさせようとした。お前は降格だ。今すぐ去れ!」

「……す、すす、すみません!」

 ダダダダダダダ……

 魔法使いは逃げるようにその場から去っていった。


 漆黒の剣士はゆっくりと両手剣を納めると振り返ってアカネに言った。

「アカネ。今回の件は試合に集中しすぎてメンバー内のめ事に気づかなかった私の責任だ。すまなかった」

 それを聞いたアカネはリーダーの予想外な言葉に驚きながら答えた。

「な、なんだよリーダー。あんたカッコイイこと言うじゃん。あんたみたいな男は好きだぜ」

 すると漆黒の剣士はしばらく固まってから言った。

「あ……いや、その……、好きとか……。ええと」

 漆黒の剣士は突然両手両足をぎこちなく出しながら数歩歩くと、慌てて転移魔法で去って行った。

「なんだよ、あいつどうしたんだ?」

 アカネがそう言うとイリューシュは笑いながら答えた。

「ふふふ。『好き』という言葉は、Likeのつもりで言ってもLoveに聞こえる時がありますからね」

「らっ、Love? はぁああ?」

 アカネは顔を赤くしながら恥ずかしがった。

「「ははははは」」

 みんなは恥ずかしがるアカネを見て笑い合うと、再び軽トラに乗ってコーシャタの街を目指した。

 ◆

 軽トラが走り出すと、めぐは嬉しそうにアカネに尋ねた。

「ねぇアカネ。実際のところ、さっきのリーダーさんみたいな人って好みなの?」

「え? いや、まぁ、ああいうさぁ、強くて思いやりがある男はカッコイイよな」

「そうよね。信用できるもんね」

「だろ? あいつにはフレンド申請もう一回送ってもいいかなぁ」

 アカネはそう言うと漆黒の剣士へフレンド申請を送った。すると瞬時に受理された。

「え、秒でフレンド承認されたんだけど」

 めぐは一瞬でフレンド承認された事に驚いているアカネを見ると、ニヤリと笑いながら尋ねた。

「アカネ、あのひと気になってるんでしょ?」

「な、なんだよ! 気になってるっていうか、え、ええと、っていうか、めぐはどうなんだよ。どういう感じの人が好みなんだよ」

「え、わたし? うーん、やっぱり優しい人かなぁ。いつでも静かにわたしを見守ってくれるような……」

「まぁ、たしかに優しいにしたことは無いよな」

 そんな事を話していると、進行方向に大きな街が見えてきた。

 するとアカネは荷台から身を乗り出してめぐに言った。

「あれ、コーシャタの街じゃないか?」

 めぐも遠目にコーシャタの街を見ると少し首をかしげながら答えた。

「あの街……、なんか、新宿に似てるような……」

 それを聞いたアカネは驚いた。

「え、新宿!? 行ってみたい! あたし東京って柔道の試合で体育館にしか行ったこと無いんだよね」

「そうなの!? 試合の後とか都内に遊びに行けなかったの?」

「それがさぁ、地元からバスで直行で体育館。で、終わったら即バスで帰るだけ」

「えぇ……。それじゃ、つまらないね」

「そうなんだよ! スイーツのひとつも食べたかったよ!」

「だよねー」

 荷台で二人が盛り上がっていると、軽トラはコーシャタの街へ到着した。
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