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兆す14歳→15歳
57.僕は悪役令息なのかも知れない
しおりを挟む「ラズ様ご指示を」
いつの間にか立ち上がっていたエリアスが静かに問う。
「アッシュとエリアスは僕と一緒に来て。レオは生徒の避難誘導を」
「ラズ?!」
レオが取り乱した声を上げ、僕の腕をつかむ。
蒼色の瞳は縋るように僕を見つめている。指示に不服というよりも、ショックを受けているようだ。
違うんだ。君が戦力にならないと言う訳じゃない。君にしか出来ない、あることをして欲しいんだ。
その陰りかけている蒼穹へ説得するため言葉を紡ぐ。
「レオは王子様なんだよ」
「わかってるよッ! でも俺はラズと一緒にいきたいッ!」
「違うの。僕にとっての王子様なの」
僕からレオの腕を両手でぐっと掴みかえす。
蒼色をこぼれんばかりに見開くレオの動きが止まった。
「君の笑顔は真夏の太陽みたいに皆を眩しく照らしつけるくらい、人を引きつける魅力的なものなんだ。
君の華やかな笑顔に、生徒たちはきっとこの悲惨な事態に希望の光を見るはずだ。
だから、眩しいくらいかっこいい僕の王子様である君に生徒たちの避難誘導をしてもらいたい!」
被害者を最小限に抑えるためにも、恐慌状態の生徒達を落ち着かせ、先導し安全な場所に誘導しなければならない。
そのためには、王族としてだけでなく、生徒達に日頃から慕われるレオの持つ類まれなカリスマ性が必要不可欠だ。
今日1日一緒に過ごしただけで嫌というほどその事実を痛感した。
レオはぎゅうっと眉根を寄せた後、僕の言葉を反芻し、思案するように俯いた。
剣を握る手が小刻みに震えている。
レオは瘴気に耐性が無い。
一瞬の油断が命取りとなる今回のエロ魔物戦闘への参加は、戦闘未経験者であるレオは危険だ。
第二王子という尊い立場である彼が、魔物相手に処女喪失してしまう最悪な事態が心配なんだ。
大好きな婚約者候補の性癖は守りたい!
一人だけ戦闘不参加なんて、戦力外通告のようなもの。
簡単に納得いかないのは理解できる。
でも!
「絵本に出てくる王子様のような僕が憧れる君にしか出来ないことだと思ってる!」
数秒沈黙が訪れる。
生徒たちの悲鳴や魔物の叫び声が響き渡る中、レオは渋々といった様子でぎこち無く頷いた。
「……わかった」
「ありがとう。レオ」
「せめて……私の剣をラズに渡したい」
そう言うとレオは刃が剥き出しな剣の柄を差し出す。僕も受け取るため手を出した瞬間。
剣を持っていない方の手が伸び、腕を取られぐいっと引っ張られた。
突然のことに、勢いがついてしまい、足がふらつきレオの胸の中にぽすんと飛び込むことに。
⸺剣を持っているのに危ないよ!
むう、と顔を上げると、ふっと影がさし、レオの長いまつ毛が頬を撫でて擽ったい。
ちゅっと音がし、柔らかくって熱いものが触れた。
「お互い無事に戻ったら、続きをさせてね」
「…………」
熱を吹き込むように耳元で囁き、甘く微笑むレオは、固まる僕に無理矢理剣を握らせた。
長い足で駆け出す背中を目だけで追いながら、未だに顔へ残っている熱にそっと手を当てる。
頬というか、唇の端ぎりぎりだ。
……キスって柔らかくて熱いんだ。
神様に額へキスされた時は、冷たかったのに甘くて……とっても柔らかかった。
「⸺っ!」
神様からのキスを確かめるように思い出すと、一緒に甘い切なさがじわりじわり胸へ滲んでいく。
なぜか息を一瞬するのが難しくなるくらい、胸がきゅうっと苦しくなった。
あぁ、どうしよう。
頭の中が神様の柔らかく微笑んだ姿で囚われたように埋め尽くされる。
さっきキスされた相手はレオなのに、神様のその笑顔を思い出せて嬉しいとか思ってしまう。
あまつさえ、神様にならまたキスされたい、とか。
……僕は、多情な悪役令息なんじゃないだろうか。
「ラズっ?!」
「ラズさま!!」
顔色の悪いアッシュに両肩を持たれ、とても力いっぱい揺さぶられる。
ちょっと泣きそうなお顔なのはどうしたんだろう。
エリアスなんて呪詛みたいにぶつくさ呟きながら、僕の頬をハンカチで勝手に拭いた。
「俺はたった今、討伐すべき対象ができたから、……速やかにあの魔物を倒そうな」
「奇遇ですね。私もです……。あんな可愛いお顔させた罪を償わせてやります」
「同感だ」
レオが、凛々しく避難誘導の声を上げながら向かった先を、睨めつきながら禍々しい気合を入れる2人だ。
僕も頬へキスされた衝撃にぽやんとしていないで、えろ魔物を討伐しなければ!
気合を入れるため、レオから受け取った剣を握りなおし、軽く真横にひと振りする。
ひゅっと想像以上に軽快な音がし、その剣の振り易さに剣身へ目が留まった。
夕日のオレンジ色を反射しながらゆらり、白銀に輝く細長い剣身はミスリル鋼製だろう。
長剣のわりにそう重くはない。
レオの身長に合わせて作られているからか、僕には剣身が若干長い。
けど、かろうじて両腕で振り抜くことは可能だな。
また、僕の手には太すぎる柄には、紺碧色の石がはめ込まれていた。
レオの瞳のような濃い夏空を思わせる色。
自分の容姿大好きなレオらしく「貰った短剣とお揃いだな」とふっと口元が綻ぶ。
「……アッシュは隣、エリアスは背中から触手をぶった斬ってあいつの動きを止め、僕をあの場所に飛ばして」
触手で数人の生徒を弄ぶドドメ色のもやを吹き出し続ける魔物を見つめながら、端的に指示を飛ばす。
2人がエゲツなく強いことは知っているが、あの魔物にどこまで対抗可能か不明だ。
瘴気による影響も。
最悪、わざと捕まり触手のえろ技に耐えながら丸呑みされ、体内部から聖力を放つ方法も覚悟する。
人外相手しかも触手責め公開処女喪失の恐怖で足が竦みそうになる。
まさかのR18異世界転生属性までも追加はタスク過多。
だが、2人を見ると、すでに剣を構え鋭く研ぎ澄まされた眼光で魔物を捉えている。
その姿に頼もしさを覚え、全身の震えを抑えつけるように僕も剣を力いっぱいぎゅっと握る。
「断固R18えろ展開! 行くよっ!!」
僕の声を合図に3人同時に地面を蹴り、より濃いドドメ色したもやを目指し飛び出した。
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