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兆す15歳→16歳
58.勇者では無く、悪役令息(仮)でラスボスです
しおりを挟む「ヴァアアアアーー!!」
アッシュ、エリアスと魔物に向かい走り出した途端、魔物の赤い目が一層光り出す。
ご丁寧に何故か方向転換までして、僕達まで突進するようにグジュグジュの体を這いずってきた。
「えっ?! こっちきてる?!」
「ラズ様お尻!! 守ってくださいね! アッシュさま!触手に囚われた邪魔な少年は私が!」
「わかった! 俺はラズを!」
驚きでつい足がもつれそうになるが、阿吽の呼吸でエリアスに背中を支えられ、アッシュには腕を引かれ持ちこたえる。
2人が目配せし、頷き合うと同時に動き出す。
無数のうねる触手が何故か僕の眼前に迫りくる。
けれど、その触手をアッシュが軽く剣で一閃する。
こちらに届くことなく、無数の触手は一気に地面に斬り伏せられた。
「ぅぐはぉっ!」
次はうめき声とともに耳元を掠める鋭い風音。
エリアスの放った風の刃が少年に巻き付いていた触手を遠慮なく切り離していた。
数メートルの高さからボロ布のように頭からべしゃりと力なく地面へ落ちていく少年だ。
いや! もっと優しく救助……
「ラズっ!!」
余裕のないアッシュの声に反射で前を向く。
先程よりもおびただしい数の触手が、上から下、左右の全方向から僕を狙っていた。
触手の先端が手の平のように開き、モップ状の突起がびっしり並んだタイプが真っ直ぐ僕へ向かって来たのを見てしまう。
「ひえ!」
エロ目的しか無い触手の形状に、貞操危機の恐怖でつい悲鳴が漏れでる。
ぶわ、と肌を焼くような高温の熱気が隣からすると、アッシュがぞっとする程低い声で詠唱をした。
真っ赤に燃えさかる炎が触手たちを焼き尽くし、爆風が僕達を襲う。風圧で僕の眼鏡があっさり飛ぶほどだ。
焦げた触手の残骸がボトボトとばら撒くように地面へ落ちていき、煤焦げた匂いが鼻に触れる。
しかし、間髪入れず風音や剣で切り裂く音が。
「油断するな! えろ魔物はラズを狙っている!」
「しかも快楽堕ち目的ですよ!」
降り注ぐように僕へ伸びる触手をアッシュは見えない速さで剣を振り抜き捌く。
無残にも斬られた触手を懲りずに再生しながら、ベチョベチョの液体を撒き散らし這う魔物。
一度も視線を外してこない赤い目は、獲物を狙うように不気味に輝き僕へ向けられている。
「はっ、俺達が一斉に攻撃をしかける。鬱陶しい触手の消えた瞬間にラズはあいつのもとへ」
「今なら魔物の動きが鈍いですからッ!」
そう言う2人は息も上がり、眉をぎゅっと寄せ苦しそうな表情だ。頬も紅潮し汗も滴り落ちる。
謎に色っぽい姿に、ドキっとしてしまったよ。
いやいや、瘴気の濃い中、戦えない僕を守るように激しい戦闘をしたせいだ。
濡れ場状態で色気垂れ流しな2人ともだが、体力の限界が迫っている。早く決着をつけないと。
いつの間にか僕らの周囲を覆うドドメ色は視界を霞ませるほどさらに濃くなっていた。
「わかった」
僕が頷くと、ぶわっと周囲の魔力が一気に高まっていく。
魔力を持たない僕が感知できるほど濃い魔力に、皮膚をピリリと刺されているみたいだ。
早くなっていく鼓動を感じながら、【聖女のカケラ】スキルを使い剣身に純白の聖力を薄く纏わせた。
ほわんと純白に輝く剣を構えた時。
「ヴァァア?!」
語尾を引き上げた雄叫びをあげる魔物。
わかりやすく動揺している魔物の反応で確信する。
純白の聖力は対魔物に有効だ、と。
「エリアス、アッシュお願い!」
「任せろ!」「御意!」
襲い来る触手へ、隣から伸びる火柱と背後からすさまじい数の風の刃が同時に放たれた。
灼熱の炎は爆風を巻き起こし、風の刃が薙ぎ払うように飛び交い、焦げた触手を散らしていく。
「いまだッ」「行けっ」
アッシュが小さく身を屈める。その広い背中を助走をつけて思いっきりダンっと蹴りあげた。
完璧なタイミングで繰り出されたエリアスの風魔法でふわりと体が高く宙に浮き、魔物に向かって飛び掛かる。
魔物の真上まで、飛び上がった瞬間、即座に両手で純白に輝く剣を振り上げた。
危険を察知したように魔物は荒ぶりながら伸ばした触手を剣身にきつく巻きつける。
だが、触手が剣身に触れると、時間をかけどろりと液体のように溶けていく。
慄くように動きを止めた触手。
その間にもエリアスやアッシュが攻撃をし、新たに触手を生やす隙を与えない。
魔物の赤い目が殺気を僕に飛ばす。
攻撃の合間にやっと生えた触手を剣に向かい怒涛の勢いで伸ばす魔物。
魔物が必死に生やした全ての触手が純粋な白に輝く剣身へ届く。
刹那。
放るように剣を握る両手をぱっと離す。
光りを失った剣は蠢く触手へゆっくりと呑まれていく。
「ゔぁ?」
間の抜けた魔物の咆哮。
「僕は勇者じゃないから。正々堂々戦わないよ」
僕は唇にふ、と笑みをのせ重力のままに落ちる。
「悪役令息(仮)でラスボスなんだ」
そして、がら空きの本体左側ドドメ色した核を目掛け拳を思いっきり突き出す。
ぶちゅん、ともう2度と感じたくない気色悪い感触を我慢しながら聖力を注ぎ込んだ。
純白の眩い光りが視界を灼く。
光りや音すら清廉な白に溶けたように。
ほんの一瞬の出来事。
ふと気が付くと、僕は地面にぼんやりと立ち尽くし、魔物の残骸すら跡形も無くなっていた。
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