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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
663 第五迷宮の探索 3 バラされて悪目立ち
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Cランクの三人組冒険者パーティーの証言によると、四十二階層に上がり行き止まりになっている通路を引き返していると、後方から物音がしたので振り返ると、通路を塞ぐ程の大きな影が迫って来た。
遭遇したCランクの三人組冒険者パーティーは恐怖し、戦うことなく四十一階層まで引き返し、メモリー・ストーンで一階層に戻り迷宮を脱出した。
この事をBランスの冒険者に聞くと、四十一階層から四十四階層では死霊系のモンスターが稀に出現する事があり、遭遇した冒険者のレベルが35以下だと、その死霊系モンスターに恐怖心を煽られ、ありもしないものを見させられた、という見解だった。
最新情報誌の見出しに期待して読んだ記事だったが、とんだ期待外れだった。
一応見間違いではないかも知れないので、頭の片隅で覚えておくようにはした。
古い情報誌も置かれているが、隠し部屋で見た第五迷宮の攻略85の情報誌はない。
というより迷宮内の通路や罠の場所が掲載された情報誌が一冊もない。
ギルドに置いてあるのだから無断で持ち出されたとは考え難いが、柄の悪い冒険者を見掛けたので、持っていかれたのかも知れないと頭を過る。
だがすぐ疑うのはよくないと、訂正する。
そろそろ観光客も減った頃だろうかと、情報誌を書棚に戻してギルドを出ようとしたところで、トントンと肩を叩かれた。
特に親しい知り合いもいないので、誰かと間違えているのではと思い、顔を見せればそれに気付くだろうと振り返る。
「っほ…よかった」
カズの視線に入ったのは、冒険者ではなく受付に居る筈の女性職員のプルーン。
「な、何かな(嫌な予感がする)」
「あ、失礼しました。少しお時間よろしいですか」
「今から迷宮に入るので、悪いがまた今度(早く出よう)」
「待って下さい!」
「ッ!」
立ち去ろうとしたカズの腕を取り、プルーンは無理矢理引き止める。
「少しだけでいいんです! カズさんが来たら連れて来るように言われてるんです! お願いします来てください。でないとまた怒られてしまうんです。これで断られて、カズさんが来なくなってしまったら、減給されるかも知れないん…うあぁぁ~ん」
プルーンが泣き出す程の必死な説得と行動で、カズは悪目立ちする。
周囲からの視線が二人に集まり、それは段々と多くなる。
「どこに連れて行こうって…(俺が何したって…なんなんだよ)」
「バナショウさん…サブ・ギルドマスターから言われてるんです。うあぁぁ~ん……だってレオラ皇女様専属のAランク冒険者なんて聞かされたら、わたしはどうしていいのか…お願いだから一緒に来てよぉぉ~」
「ちょッ!」
見た目から装備もろくすぽしてない、低ランク冒険者のフリをして目立たないようにしていたのに、一言二言どころかレオラ専属のAランク冒険者だと大声でバラしてくれた。
ギルドの女性職員を泣かせてる、くらいの視線だったのが、この街の冒険者ギルドで、SSランクで帝国守護者の称号を持つ、第六皇女レオラの専属冒険者だと、その場で一気に広まり、周囲から様々な言葉が聞こえてきた。
このギルドでかつて起こった事を知ってる冒険者達は「あの恐ろしいレオラ皇女の!」と言い、都市伝説的な噂話でしか知らない若い冒険者達は「レオラ皇女ってあのレオラ皇女様なの!?」「その専属冒険者!」「ウソ!?」等と、口々に好き放題聞こえるような小声で言っている。
この状況にカズは居た堪れず「分かった。会えばいいんだろ」と、縋り付くプルーンを宥める。
会いたくはないが、この状況を納めるには会うしかないと、プルーンにサブ・ギルドマスターの所に案内するように言う。
冒険者の間を縫ってプルーンの跡を追い、職員専用の通路を通り階段を上がる。
上層階の一室に着くまでに、すれ違うギルド職員達の、あれは誰? という視線が痛かった。
ちょっと迷宮の情報誌を見て時間を潰そうと思っただけだったのに、何故サブ・ギルドマスターと会う事になるなんてと、プルーンの後を付いて行くカズの足取りは重い。
双塔の街の冒険者ギルドにもエレベーターはあったが、プルーンが階段を上って行ったので、一階二階上がるだけかとカズは思った。
しかし六階建ての冒険者ギルドを、エレベーターがあるのに関わらず、わざわざ階段で五階まで一段一段上がって行った。
観察していると他のギルド職員も何故か階段を使い、誰一人としてエレベーターを使ってはいない。
この冒険者ギルドではエレベーターを使うのに、権限がいるのだろうか? と、考えてしまう。
四階までは職員が廊下を行き来していたのに、五階に上がると誰一人としてギルド職員は居らずとても静かで、プルーンの足音がよく響く。
わざわざ階段を使い五階まで上り、やっと足を止めた部屋の扉には、執務室書かれていた。
扉を軽く数度叩き「プルーンです。先日報告した冒険者の方をお連れしました」と、執務室の中に居ると思われる人物に、部屋の外から声を掛ける。
それ程大きな声を出しているわけでもなかったので、部屋の中に居ると思われる人物に聞こえているのだろうかと思った直後、低い男性の声で「入れ」と入室の許可が出た。
「失礼します」
プルーンが一言発すると執務室の扉を開けて入り、続けてカズも同じく「失礼します」と言い入室する。
部屋の中は思ったよりも狭く、八畳程の広さのテーブルが一台と、その両側に二人掛けの椅子が二脚。
その奥に執務机と椅子があり、そこには頬に大きな傷のある一人の強面の中年男性が椅子に座り、執務机に置かれている書類に目を通していた。
「急に申し訳ありません。例の冒険者が来ていましたので、こちらに来ていただきました」
「ご苦労。時間的にまだ受付は混むから、プルーンは仕事に戻りなさい」
「はい。失礼します」
サブ・ギルドマスターに言われ、プルーンはカズを置いて一階の受付に戻って行った。
急に連れて来られ、初対面の強面サブ・ギルドマスターと二人っきりにされたカズの心中は……帰りたい。
「いきなりで驚かれたろう。先ずは自己紹介をしよう。オレは双塔の街の冒険者ギルドで、ギルドマスターの補佐をしているバナショウ」
「初めまして。カズと申します」
「レオラ様の専属冒険者らしいが、なんというか覇気が足りないな。プルーンの言っていた通り、装備なしのその格好では、Aランクには見えない」
「よく言われます。それで連れて来られた理由はなんですか?」
「大した理由はない。あのレオラ様が専属の冒険者を付けたと聞いていたんで、一目見てみたかった」
「それだけですか?」
「あとは先日レオラ様から連絡が来て、カズという冒険者が行くからよろしくと」
「俺に何かやらせろとかでは? (レオラの事だから、自分がやらかした事の後始末をさせようとかじゃないだろうな)」
「そういった事は一切ない。何か必要なら、手を貸してやってくれと頼まれてる」
「そうですか(さすがに考えすぎか)」
「でだ、四十階層辺りで現れる、特殊なモンスターを探してると聞いたが、間違いはないか?」
「間違いはないです(プルーンから聞いたのかな)」
「だとすると、目的は巨人化…いや、巨大化だったか? まあ、どちらでもいいが、そのアイテムを探してるであってるか?」
「実際の効果は聞いただけなので詳しくはわかりませんが、確かに大きくなるアイテムを探してるのは間違いないです(もしかして、ギルドも必要としてるのか? 開拓時に使ってたみたいだし)」
「なるほど、レオラ様からは私用としか伺ってない。だとすると間違いはないようだ」
遭遇したCランクの三人組冒険者パーティーは恐怖し、戦うことなく四十一階層まで引き返し、メモリー・ストーンで一階層に戻り迷宮を脱出した。
この事をBランスの冒険者に聞くと、四十一階層から四十四階層では死霊系のモンスターが稀に出現する事があり、遭遇した冒険者のレベルが35以下だと、その死霊系モンスターに恐怖心を煽られ、ありもしないものを見させられた、という見解だった。
最新情報誌の見出しに期待して読んだ記事だったが、とんだ期待外れだった。
一応見間違いではないかも知れないので、頭の片隅で覚えておくようにはした。
古い情報誌も置かれているが、隠し部屋で見た第五迷宮の攻略85の情報誌はない。
というより迷宮内の通路や罠の場所が掲載された情報誌が一冊もない。
ギルドに置いてあるのだから無断で持ち出されたとは考え難いが、柄の悪い冒険者を見掛けたので、持っていかれたのかも知れないと頭を過る。
だがすぐ疑うのはよくないと、訂正する。
そろそろ観光客も減った頃だろうかと、情報誌を書棚に戻してギルドを出ようとしたところで、トントンと肩を叩かれた。
特に親しい知り合いもいないので、誰かと間違えているのではと思い、顔を見せればそれに気付くだろうと振り返る。
「っほ…よかった」
カズの視線に入ったのは、冒険者ではなく受付に居る筈の女性職員のプルーン。
「な、何かな(嫌な予感がする)」
「あ、失礼しました。少しお時間よろしいですか」
「今から迷宮に入るので、悪いがまた今度(早く出よう)」
「待って下さい!」
「ッ!」
立ち去ろうとしたカズの腕を取り、プルーンは無理矢理引き止める。
「少しだけでいいんです! カズさんが来たら連れて来るように言われてるんです! お願いします来てください。でないとまた怒られてしまうんです。これで断られて、カズさんが来なくなってしまったら、減給されるかも知れないん…うあぁぁ~ん」
プルーンが泣き出す程の必死な説得と行動で、カズは悪目立ちする。
周囲からの視線が二人に集まり、それは段々と多くなる。
「どこに連れて行こうって…(俺が何したって…なんなんだよ)」
「バナショウさん…サブ・ギルドマスターから言われてるんです。うあぁぁ~ん……だってレオラ皇女様専属のAランク冒険者なんて聞かされたら、わたしはどうしていいのか…お願いだから一緒に来てよぉぉ~」
「ちょッ!」
見た目から装備もろくすぽしてない、低ランク冒険者のフリをして目立たないようにしていたのに、一言二言どころかレオラ専属のAランク冒険者だと大声でバラしてくれた。
ギルドの女性職員を泣かせてる、くらいの視線だったのが、この街の冒険者ギルドで、SSランクで帝国守護者の称号を持つ、第六皇女レオラの専属冒険者だと、その場で一気に広まり、周囲から様々な言葉が聞こえてきた。
このギルドでかつて起こった事を知ってる冒険者達は「あの恐ろしいレオラ皇女の!」と言い、都市伝説的な噂話でしか知らない若い冒険者達は「レオラ皇女ってあのレオラ皇女様なの!?」「その専属冒険者!」「ウソ!?」等と、口々に好き放題聞こえるような小声で言っている。
この状況にカズは居た堪れず「分かった。会えばいいんだろ」と、縋り付くプルーンを宥める。
会いたくはないが、この状況を納めるには会うしかないと、プルーンにサブ・ギルドマスターの所に案内するように言う。
冒険者の間を縫ってプルーンの跡を追い、職員専用の通路を通り階段を上がる。
上層階の一室に着くまでに、すれ違うギルド職員達の、あれは誰? という視線が痛かった。
ちょっと迷宮の情報誌を見て時間を潰そうと思っただけだったのに、何故サブ・ギルドマスターと会う事になるなんてと、プルーンの後を付いて行くカズの足取りは重い。
双塔の街の冒険者ギルドにもエレベーターはあったが、プルーンが階段を上って行ったので、一階二階上がるだけかとカズは思った。
しかし六階建ての冒険者ギルドを、エレベーターがあるのに関わらず、わざわざ階段で五階まで一段一段上がって行った。
観察していると他のギルド職員も何故か階段を使い、誰一人としてエレベーターを使ってはいない。
この冒険者ギルドではエレベーターを使うのに、権限がいるのだろうか? と、考えてしまう。
四階までは職員が廊下を行き来していたのに、五階に上がると誰一人としてギルド職員は居らずとても静かで、プルーンの足音がよく響く。
わざわざ階段を使い五階まで上り、やっと足を止めた部屋の扉には、執務室書かれていた。
扉を軽く数度叩き「プルーンです。先日報告した冒険者の方をお連れしました」と、執務室の中に居ると思われる人物に、部屋の外から声を掛ける。
それ程大きな声を出しているわけでもなかったので、部屋の中に居ると思われる人物に聞こえているのだろうかと思った直後、低い男性の声で「入れ」と入室の許可が出た。
「失礼します」
プルーンが一言発すると執務室の扉を開けて入り、続けてカズも同じく「失礼します」と言い入室する。
部屋の中は思ったよりも狭く、八畳程の広さのテーブルが一台と、その両側に二人掛けの椅子が二脚。
その奥に執務机と椅子があり、そこには頬に大きな傷のある一人の強面の中年男性が椅子に座り、執務机に置かれている書類に目を通していた。
「急に申し訳ありません。例の冒険者が来ていましたので、こちらに来ていただきました」
「ご苦労。時間的にまだ受付は混むから、プルーンは仕事に戻りなさい」
「はい。失礼します」
サブ・ギルドマスターに言われ、プルーンはカズを置いて一階の受付に戻って行った。
急に連れて来られ、初対面の強面サブ・ギルドマスターと二人っきりにされたカズの心中は……帰りたい。
「いきなりで驚かれたろう。先ずは自己紹介をしよう。オレは双塔の街の冒険者ギルドで、ギルドマスターの補佐をしているバナショウ」
「初めまして。カズと申します」
「レオラ様の専属冒険者らしいが、なんというか覇気が足りないな。プルーンの言っていた通り、装備なしのその格好では、Aランクには見えない」
「よく言われます。それで連れて来られた理由はなんですか?」
「大した理由はない。あのレオラ様が専属の冒険者を付けたと聞いていたんで、一目見てみたかった」
「それだけですか?」
「あとは先日レオラ様から連絡が来て、カズという冒険者が行くからよろしくと」
「俺に何かやらせろとかでは? (レオラの事だから、自分がやらかした事の後始末をさせようとかじゃないだろうな)」
「そういった事は一切ない。何か必要なら、手を貸してやってくれと頼まれてる」
「そうですか(さすがに考えすぎか)」
「でだ、四十階層辺りで現れる、特殊なモンスターを探してると聞いたが、間違いはないか?」
「間違いはないです(プルーンから聞いたのかな)」
「だとすると、目的は巨人化…いや、巨大化だったか? まあ、どちらでもいいが、そのアイテムを探してるであってるか?」
「実際の効果は聞いただけなので詳しくはわかりませんが、確かに大きくなるアイテムを探してるのは間違いないです(もしかして、ギルドも必要としてるのか? 開拓時に使ってたみたいだし)」
「なるほど、レオラ様からは私用としか伺ってない。だとすると間違いはないようだ」
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