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四章 異世界旅行編 2 トカ国

351 トラブルメーカー と 同行者

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 トンネル中間の休憩場所に入ってから約三十分、馬達の休憩も取れて、ジョキーも荷馬車の点検を終えた。
 一行はアレナリアとヒューケラが建物から戻るのを待った。

ヒューケラお嬢は大丈夫か?」

 戻りが遅いので心配するジョキー。

「大丈夫ですよ。アレナリアはあれでも強いですから」

「そっちじゃなくてだな」

「そっちじゃない?」

 ジョキーが何を言っているのか、今一つ理解できなかったカズだったが、この答えはすぐに分かった。

「やっぱりだ」

 ジョキーが親指を立てて、建物の方に指差す。
 カズは指された方を見ると、アレナリアがヒューケラの手を引っ張り、走って戻って来ていた。
 その後ろからは、ゴツい集団が追い掛けて来ていた。

「は? 何あれ。なんで追われてるの?」

「たぶん、お嬢が原因だ」

 バタバタと走って戻って来たヒューケラはジョキーの後ろに隠れ、アレナリアはカズの横で止まった。

「お嬢、またやったんだろ」

「知りませんわ」

「アレナリア、何があったの?」
 
「ヒューケラがあの人達に向かって、うるさいだの鬱陶しいだのと大声で言ったのよ。で、怒った人達があれ」

「やっぱりじゃないか! お嬢」

 アレナリアの説明を聞き、ジョキーが怒る。

「私しは本当のことしか言ってません」

「本当だとしても、口に出して言うな。しかも大声で。何度も言うか、自分から揉め事を起こすな。一応、お嬢の護衛もするが、オレは主に荷を守り届ける仕事をしてるんだ」

「バルちゃんにやらせれば、あんな連中すぐに降参しますでしょ」

「バルヤールは無闇に争いはしねぇんだ。前にも言っただろ。今回は護衛を雇ったんだから、あんたらに任せる」

「え、あ、はい(ええぇー)」

「こちらに非があるから、暴力沙汰にはしたくないわね。だからお願いねカズ」

「アレナリアお前もか」

「穏便に済ませるなら、奴らが食った飯代でも出すと言えば収まるだろ。毎回大抵はそれですむからな。安心しろ、その金はちゃんと依頼主から出るからよ」

 ジョキーの助言を受け、仕方なしと腹をくくったカズは、謝罪をすることにした。
 ヒューケラはアレナリアを引っ張り、馬車に乗り込んでしまい、ジョキーも自分の荷馬車に戻ってしまった。
 カズが一人馬車の外に居ると、追い掛けてきた集団がすぐそこまで迫っていた。
 どすどすと十数人ものゴツい男衆がカズの前で止まり睨みを利かせる。
 とりあえずは第一声は謝罪だと、カズは口を開く。

「この度はうちのものが失礼をしたようで」

「おうおうッ、おめぇがあのガキの親か?」

「いえ、俺は同行しているものです」

「だったらさっきのガキを出しな。貴族も金持ちも関係ねぇ。目上に対しての口の聞き方と謝罪を教えてやる」

「アタシもそれには同感だ」

 建物から串をくわえて怒りを露にする赤い髪の女性が現れ、男衆の後で立ち止まった。

「誰だおめぇは?」

「誰…だと」

「女は引っ込んでろ」

「なに!」

「おい女! わいら港の運び屋に楯突こってのか」

 一人のゴツい男が女性の真正面に立ち、腰を屈め顔を覗き込む。
 男の身長は2mはあり、女性とは30㎝以上の差がある。
 女性は顔を近付けたいかつい男の後頭部を持ち、そのまま頭突きをした。

「だっ! 痛ってぇ、何しやがる!」

「脂っこい顔を近付けるんじゃねぇ。汗くせぇんだよ」

「第一何が謝罪だ。大の男が集まって、ガキをいびってるだけじゃねぇか」

「なんだと」

 カズと話をしていた男が、今の一連の流れを見て、男衆を掻き分け女性の方に移動した。

「威勢の良い女だな。おれ達はガキだろうと女だろうと、しつけは必要だと言ってるんだ。特に謝罪はな」

「だったらアタシに謝罪してもらおうか」

「はぁ? なんで会ったばかりのお前なんかに、おれ達が謝罪しなきゃならねぇんだ」

「気付いてもねぇのか。さっきテメェらがが店の中で騒いだ時に、アタシの飯を落としたんだ!」

「飯だぁ? そんな事でおれ達の邪魔をするな。見るからに貧乏そうな格好しやがって、おれ達の相手をしくれたら、仲間にしたことは許してやる。それに似合いそうな服だって買ってやるぞ。もちろんスケスケのな」

「「「だはっはっは」」」

「「「がっはははっ」」」

 その場に居た男衆が大声で笑う。

「うわぁ(さっきまで悪い事した子供を叱って礼儀を教える、って言ってたのに。この態度ないわぁ)」

 男衆の態度を見る限り、お詫びをする気にならなくなったカズ。
 粗野な男衆に笑われている女性が、くわえていた串を吹き飛ばすと、大口を開けて笑っている一人にぷすりと刺さった。

「痛ってー!」

「女、女とうるせぇんだ!」

 女性が言い終えると同時に、回し蹴りが蟀谷こめかみに直撃、その男は脳震盪のうしんとうを起こし気絶。
 それを合図とし、男衆が女性に襲い掛かる。

 カズはその隙に分析しようとするが、一瞬女性の視線を感じやめた。

 大振りの拳を軽く避けて、次々と男衆を倒していく赤い髪の女性。
 それを見てた三人の男が動いた。
 二人は自身の腕に付けている腕輪に触れて魔力を込める、すると次の瞬間短剣が現れた。
 二人が武器持ったのを確かめると、もう一人の男がポケットからカプセルを取り出し、女性に向けて投げようとする。 
 振りかぶったところで、その手をカズが掴む。

「な!」

「素手相手にそれはダメでしょ。ただでさえ女性一人に対して、男が大勢で」

 三人が武器を取り出すと同時に、カズはそれ【鑑定】をしていた。
 腕輪は魔力を込めると武器が出るアイテム『短剣の腕輪』そのまんまの名前。
 取り出したマジックカプセルの中は、光魔法のフラッシュ込められていた。
 短剣を持つ二人は、対象をカズに変えて攻撃する。
 迫る短剣を避け、掴んでいた男の手を離すカズ。
 男は持っていたカプセルを、カズの足元目掛けて投げる。
 それと同時に、三人の男は自身の腕で目を覆い隠した。
 カプセルが地面にぶつかり割れて、フラッシュの強い光でカズの視界を奪うと三人の男は思っていた。
 が、投げたカプセルはカズが掴み、そのままアイテムボックスに回収。
 自身で視界を遮っていた三人の男は、何が起きたか分かってはいなかった。
 起きるはずの目眩めくらましが起きず、一方では仲間が女性に次々と気絶させられていく。
 そして残ったのは自分達三人だけ。

「あとはお前達だけだ」

 女性は掛かってこいと、揃えた指を自分の方に二、三度曲げて挑発する。

「く、くそ!」

 一人素手の男は女性の挑発に乗り、やけになって大振りに殴り掛かる。
 当然のごとく避けられ、鳩尾みぞおちに一発入りあっけなく終了。
 残りの二人はカズを狙い、短剣で斬り掛かる。

「丸腰相手に武器を持った二人は卑怯でしょ」

「うるせえ!」

「元はと言えば、てめぇんとこのガキが悪いんだろが!」

「暴言を吐いたかも知れないけど、ここまでやる事ないでしょ。注意はしとくから、短剣それしまってやめにしない? おっと、危ないなぁ」

 二人が振る短剣を避けながら、やめるように説得するカズ。

「これだけやられて、引き下がれるか!」

「てめぇだけでも!」

 自分達以外の仲間が倒されたことで、引くという選択肢はなかった。
 その言葉を聞いたカズは、女性と同じ様に短剣を避けて懐に入り、あごに一発入れて二人を気絶させた。

「ほぅ。おい、お前」

「な、何ですか? (俺関係ないんですけど)」

「話を聞いて確信した。この連中を焚き付けたのは、お前んとこのガキなんだろ」

「たぶん。俺は見てないので詳しくは」

「だったら責任とってくれねぇかなぁ」

「え!」

「なぁに、別に金なんか要求しねぇ。アタシを馬車に乗っけてってくれりゃそれでいい。歩きで向かうのは面倒でよぉ」

「と言われても、見ず知らずの人を乗っけ…」

「いいですわよ。野蛮な男達をなんとかしてくれたお礼です」

 突如黒塗りの馬車の扉を開け、ヒューケラが許可を出す。

「ただし、そちらの馬車ですけど」

 ヒューケラはカズ達の馬車を指差す。

「は!? ちょ、勝手に…」

「アタシはそれで構わねぇ」

 カズの意見を聞かずに、話が勝手に進む。

「なら決まりです。ジョキー行きますわよ」

「よろしく頼むぜ」

 カズの背中をバンと叩き、後方から馬車に乗り込む女性。
 諦めたカズも馬車に乗り出発する。
 中間の休憩場所を出発してすぐ、女性が話し掛ける。

「見ず知らずのアタシが乗ったのにも関わらず、このむすめは目を覚まさんな」

「彼女はビワです。最近寝不足だったので、静かに寝かせてやってください」

「乗せてもらってる身だ、別に文句はない。ここで話して起こしたら悪い、そっちに移ろう」

 女性はビワを起こさないように、馬車の手綱を持ち操作するカズの横に移動した。
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