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四章 異世界旅行編 2 トカ国

350 フェアリーよりもお姉さま

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 トンネル内は右側通行で緩やかな下り坂、道は平たく整備され、60センチ程の中央分離帯が作られている。
 天井や壁に加工された水晶が埋め込まれており、それが明るく光りトンネル内を照らす。

 トンネルに入ってから一時間、ヒューケラは飽きもせずアレナリアに話し掛けている。

「アレナリアお姉さまは、オリーブ王国から来たんですか。帝国と比べたら、魔法技術が遅れている国だと聞いてます」

「帝国がどれ程のものか知らないけど、それほど変わらないんじゃないの? 消耗品のアイテムも、カードからカプセルに変わっただけでしょ」

「使い捨てのカプセルなんて、ジョキーは使ってませんわよ」

「へぇ~。なら何を使ってるの?」

 横から話に割り込み聞くレラ。

「それはジョキーに聞かないとわかりませんわ。わたくし、冒険者に詳しいわけではありませんから。それよりも、もっとお姉さまのお話聞かせてください」

「もうずっと話してるじゃない。少し休ませて」

「あちし寝るから、少し静かにしてねぇ~」

 レラはふかふかの椅子に横になる。

「ちょっとレラ、私達は一応護衛の依頼でここに居るのよ」

「あちし護衛なんてできないも~ん」

「護衛はジョキーとバルちゃんが居るから大丈夫ですわ」

「バルちゃん? ああ、バルヤールね。だったらなんのために指名までして依頼を出したの?」

「もちろんお姉さまやレラさんと、お話をするためです」

 頭痛がしそうな気がして、アレナリアは額を押さえながら話を続けた。

「依頼主はヒューケラの父親だったかしら?」

「書類上ではそうです。お姉さま達のパーティーを雇うように頼んだのは、わたくしです」

「それで、肝心の依頼主は、一緒に乗ってないのだけど?」

「お父様はまだお仕事があるので、ホタテ街に残ってます。今回は本来荷物だけを先に運ぶ予定だったのですが、お姉さま達を雇うため、わたくしは先に出発すると言ったんです。もちろん反対はされましたが、お姉さまと一緒に居るために、そこは押しきりました」

「それだけのために!? (この子少し怖いわね)」

 ヒューケラのその強引さにアレナリアは若干引く。

「はい。あの勇敢なお姉さまの姿を見てわたくしは……はぁ~ん素敵です」

 自分が助けられた時の事を思い出し、ヒューケラの気持ちは更に高ぶり、アレナリアに詰め寄る。
 
「ち、近い近い! 休みたいからもう少し離れて」

「ええ~良いではないですか。よろしければ、わたくしの膝枕でお休みになっても構いませんわよ」

「え、遠慮させてもらうわ(子守りって大変なのね)」

 アレナリアは背もたれに体を預けると、どっと疲れを感じた。

「──ば、構いませんか?」

「え、ええ(私ってカズにこんな事してたの? 今までごめんなさいカズ……あでも、私とカズの関係と、ヒューケラこの子との関係とじゃ、全然違うわよね。だって私とカズは両思いだから。私これだけがんばってるんだから、今度カズに甘えても受け入れてくれるわよね。うまくいけばそのまま……うふふ)」

「アレナリアお姉さま!」

「え! な、なに?」

 にやけ顔になりそうなのを抑え、涎が垂れてるわけでもないのに口元を拭う。

「どうされました?」

「なんでもないわ」

「では失礼します!」

 正面に座っていたヒューケラが、アレナリアの隣に移り横になる。
 ヒューケラの頭はアレナリアの膝の上。

「ちょ、何を!」

 急なことでアレナリアは驚き、ヒューケラの頭を退けようとする。

「なにをするんですか? お姉さまが良いと言ったではないですか」

「私が? 何を言っ……」

 ここでアレナリアは少し前までのやり取りを思い返す。
 アレナリアの脳内では、ほんの少し前の会話が再生され始めた。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「ち、近い近い! 休みたいからもう少し離れて」

「ええ~良いではないですか。よろしければ、わたくしの膝枕でお休みになっても構いませんわよ」

「え、遠慮させてもらうわ」

「では、わたくしがお姉さまに膝枕をしてもらうのであれば、構いませんか?」

「え、ええ」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「ぁぁ……(私、ええ。って言ってる)」

 両手で頭を抱えるアレナリアの膝の上で、猫のようにごろごろと喉を鳴らし(実際には鳴らしてないが)喜んぶヒューケラ。
 それに対して、アレナリアは話の最中さなか一瞬妄想の世界に入ってしまい、から返事をしたことを後悔する。
 自分もカズに対して、似たようなことをしていたのにも関わらず、まだそれに気付かない。
 この場にカズが居たら、きっとツッコミを入れていたに違いない。
 いや、絶対にツッコミを入れていただろう。
 というか、レラはなぜつっこまないか? 答えは簡単、既に寝ているからだ。

「あ、確かトンネル内に休憩出来る場所があるって聞いたんだけど」

「ありますわ。中間地点にある休憩場所で、馬車の点検をするので停まります。その場所までは、あと半分弱と言ったところでしょうか」

 ヒューケラは膝を曲げ仰向けになり、アレナリアの見上げて会話する。

「疲れるから、そろそろ退いてくれる?」

「まだ嫌です。せめて休憩場所に着くまでは、このままでいたいです」

「それは長過ぎるわ(あと四、五十分もこのままは勘弁してほしいわ。カズなら良いけど)」

「でしたら三十分」

「それでも長い」

「でしたら二十分。いえ、十五分でいいですから、お願いします。お姉さまぁ~」

「わ、分かったわよ。十五分だけだからね」

「はい」

 ヒューケラは仰向けから横を向きになり、アレナリアの足の感触を堪能する。
 子供のする事だと、アレナリアは耐える。

 一方で後ろから付いてく馬車では、改良した馬車の微かな揺れで、ビワがうとうとし始めていた。
 少し前から眠そうに目がとろんとしていたのをカズは気付き、寝るようにと言ったのだが、自分だけ寝ては護衛をしているアレナリアとレラに申し訳ないと、無理して起きていた。
 だが、そよそよと吹く風に揺らめく蝋燭の火のように、ふらふらとするビワを見ると、無理矢理にでも寝かせるべきだとカズは思った。

「ビワ。トンネルはまだまだ抜けないから、横になって寝た方がいい。レラの服を作ってて寝不足なんでしょ」

「大丈夫…です」

 話していても、ビワの視点は定まっていないように思えた。

「ダメ。いいから横になって寝る!」

 カズに怒られたビワの耳と尻尾は、一瞬ビクッとして強張り、すぐ元のように力なくぺたりと垂れた。

「はい……」

 カズはアイテムボックスから、枕と毛布を出しビワに渡した。
 受け取ったビワは、カズに言われた通り横になると、すぐに眠ってしまった。
 自分ばかり、と考えるビワだったが、この時既にレラは夢の中。

 トンネルに入ってから二時間弱、中間地点の休憩場所に立ち寄る一行。
 途中通過した一ヶ所目の休憩場所は、一般的な馬車が二十台は停められればいい広さだったが、この中間地点の休憩場所は、五十台以上が停められる広さがある。
 しかも食事をしたり、馬車を整備する場所が設けられていた。
 しかもそれぞれどちら側にもある。
 更には上方向に地中を貫き、魔力を使用した昇降機で山脈の上に出れ、貴族や豪商の観光場所になっているというから驚き。
 休憩場所に着くと、ヒューケラが自慢するようにアレナリアとレラに話しながら馬車から降りてきた。

「ここはどこぞのサービスエリアかよ。 休憩場所じゃなくて、完全な目的地じゃん」

 カズは馬車から降りるなり、つい口に出しツッコミを入れてしまった。(別に誰に対してというのではなく)

「当たり前じゃない。こんな所でもないと、今でもずっと運搬用の馬車しか通らないわよ。そんなこともわからないの?」

「そ、そうですか……(話し掛けていた来てと思ったら、それかよ)」

「さぁお姉さま、あちらで甘いものでも頂きましょう」

 アレナリアの手を引っ張り、食事が出来る建物内に入っていくヒューケラ。
 それを見てアクビをするレラ。

「ふぁ~、よく喋る子ね。うるさくてあんまし寝れなかった」

「結局寝てたのか」

「あちしと友達になりたくて探してたって言ってたのに、アレナリアしか眼中にないみたいなんだもん」

「構って欲しいのか?」

「全然。アレナリアみたいに質問攻めは嫌だから。それよりビワは?」

「寝てる」

「珍しいね」

「レラの服を作るのに寝不足だったみたいだから、ちょっと無理に寝かせた」

「無理に?」

「ああ、ちょっとな(起きたら謝らないと)」

「ならあちしもそっちに移って、ビワと一緒に寝ようかな。高級な馬車よりも慣れた所の方がゆっくり寝れるし。ヒューケラにはうまく言っといてねぇ」

 スタスタと早足で歩き、ビワが寝ている馬車に乗り込もうとするレラ。

「ちょ、おい。こっちに移るなら、自分でヒューケラに言ってくれ。俺が毛嫌いされてるの分かるだろ」

「ええー」

「ええー、じゃないよ。レラが居なくなってたら、余計面倒になるだろ。アレナリアが居るんだから、次の街に付くまでレラはそっちに乗っててくれ。頼むよ」

 騒がしい子供は嫌だと言わんばかりの顔をするレラを説得して、元の高級な馬車に戻ってもらった。
 ジョキーは護衛の任も負っていたが、ヒューケラが一応の冒険者を雇ったということで、休憩場所ここでは荷馬車の点検に集中することにした。
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