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第三章

135ー覚悟

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「私からご説明致しましょう」

 ユリウスが一歩前へ出ました。

「ティシュトリア家魔導師のユリウス・ウェールズと申します。ああ、殿下。お掛けになられて下さい。解呪直後です。ふらつきがあるやも知れませんので」

 ディーユ殿下は素直にお掛けになりました。少しお辛そうです。陛下と王妃様は放心状態と言った感じです。動かず一言もお話になりません。

「有難う。其方があの魔道具を作った魔導師か」
「はい、ルルーシュア様とマーリソン・モルドレッド殿と共に作成致しました」
「モルドレッド……嫡男ですか? 魔導士団を辞職されたのは聞いていたが、ティシュトリアにおられるのか……?」
「はい、ルルーシュア様を慕って来られました。大変優秀な魔導士です。ディーユ殿下、北での出来事はご存知ですね?」
「モーガンお祖父様から話は聞いた。その、信じ難い事だが創造神様のお言葉も聞いた」
「そうですか。では、それを踏まえて私が考えた事をお話致します。ルル様とレオン殿下からお話をお伺いしてまず最初に思った事が、本当に陛下お一人だけしか邪神の影響を受けておられないのか? と、言う事です。魅了でさえ、あれだけの数の人間が掛けられていたのです。その邪神が、城では陛下お一人だけとは不自然だと。そして邪神の場合、魅了ではないかも知れないと。その考えをアーデス様にお伝えしておりました。アーデス様がご様子をご確認された後必要ならば魔道具でお呼び頂く事になっておりました。失礼ながらレオン殿下が時間を稼いで下さっている間に、ルルーシュア様に御三方を鑑定して頂きました。やはり、御三方に呪いが掛かっておりましたので、解呪した次第です。私の妹で薬師としてティシュトリア家に仕えておりますディアナが様々な種類の解呪薬を作っておりルル様がお持ちでしたので、対応できました。しかし、後は……ルル様、お願い出来ますか?」

 私はユリウスにうなづいて話を始めます。

「此方に来る迄にユリウスから聞いておりました。ディーユ殿下、無断で鑑定して申し訳ありません。ディーユ殿下は先程の解呪でしっかり解呪されております。もう大丈夫です。邪神は人の心を惑わすと言います。今迄、お辛い気持ちになられた事もお有りかと思いますが、邪神の仕業です。これからはご気分も楽におなりになるでしょう。しかし、陛下と王妃様は創造神の言葉通り邪神の影響は深く、これ以上無理矢理解呪するとお心を壊されてしまうかと。此処までが限界の様です。陛下の状態も創造神の言葉通りでした。既に病を患っておられます。長くはないだろうと思われます。創造神は、陛下は邪神に魂を半分喰われてしまっていると。もうこの世界には存在出来ないと言っておられました」
「……そうか。私はまた貴方方に助けられたのだな……」
「殿下……」

 そしてディーユ殿下は今迄とは違う、何か吹っ切れた様なお顔付きでお話された。

「モーガンお祖父様、父上には早急に譲位して頂きます。立会人をお願いできますか?」
「ディーユ殿下、勿論です。ご決心なさいましたか」

 ディーユ殿下はゆっくりとそして、しっかりと頷かれた。

「ルルーシュア嬢の言った通り、私は今迄よく分からない思いに囚われておりました。何故、バッカスばかり可愛がるのか。何故父と母は何もしないのか。父がいるから私は何も出来ない。そんな思いです。何故その様な思いに囚われていたのか……
 しかし、今はその様な思いも消えております。父であろうが、母であろうが、上に立つべきでない者には降りて頂きます。魅了に、邪神にボロボロにされた王国を立て直さなければなりません。どうか、モーガンお祖父様あと暫くお力をお貸し下さい」
 
 お祖父様に頭を下げられた。もう大丈夫かな?

「ああ、ルル。大丈夫だ」
「お祖父様、王太后様も恐らく」
「ああ、私が責任を持って解呪薬をお飲み頂こう」
「お願いします」
「レオン殿下、先程のお言葉感謝致します。しかし、ティシュトリアは領主隊といい、魔導士、薬師といい素晴らしい人材が集まって居るのですね。北の地では皆様、本物のドラゴンに会われたのでしょう? 羨ましい事です」

 あら、ドラゴンの赤ちゃんならいつもいるわよ。

「プッ…… 」
「レオン様」

 また心を読んでたわね。

「すまん」


「レオン殿下が怒りだした時は冷や汗が出たぞ」
「モーガン殿、すみません。まあ、半分本心と言う事で」
「半分本心か!? ワハハハ!」

 お祖父様のお邸に戻っています。もう重い事ばかりで心が疲れたわ。お茶を頂こう。

「しかし、ユリウスが気付かなかったらまた見過ごしていた、て事だよな?」
「そうだわ。レオン様、そうですよね。あのイケショタどうしてやりましょうか?」
「本当だな。いい加減すぎるな!」
「ルル様、イケショタとは何ですか?」
「ユリウス、そこはスルーして」
「え? 何ですか?」
「あのだな、ユリウス。創造神の姿がな、まだ子供の姿なんだよ。金髪で、それはそれは可愛らしい子供の姿なんだ」
「はぁ、子供ですか」
「ああ、多分なんだが……見た目や性格がカッコいい少年の事を、イケショタと言うと思うんだが創造神は見た目が飛び抜けて可愛い子供なだけで中身はかなり残念だな」

 イケショタてそんな意味だったの? 知らなかったわ。

「一度で良いですから、お目に掛かってみたいですね!」
「マーリソン様、止めておく方が良いわ」
「ああ、勧めないな」
「ルルーシュア様、レオン殿下何故です?」
「「超ムカつくから!」」
「わふぅ、二人共酷いわ」
「しかし、やっと終わったな」
「はい、父上。さっさと帰りましょう」
「ラウの言う通りね。あなた、早く帰りましょう」
「ああ、さっさと帰るぞ! その前にだな、マーリソン殿」
「はい、父ですか」
「ああ、まだ目を覚まされない。北の地で真面に食べておられなかったのだろう。健康状態も良くない。魅了が深かった事もある。一気に解呪したのだから反動もあるのだろう。そこでだ。領地にお連れしようと思う」
「アーデス様! それはなりません。目が覚めていなくとも、父は罪を犯しました。然るべき処分を受けるべきです」
「それは勿論なのだが。今の状態で城に引き渡すのは躊躇われるのだ」
「アーデス様、ご恩情を感謝致します。ですが……」
「領地にはディアナもいる。意識を戻され健康を取り戻されてからでも構わんだろう。ルルの鑑定では既に魅了は解呪できているのだから、目覚められても無謀な事は為さるまい。城に報告するのはそれからだ」
「アーデス様……」

 マーリソン様は無言でゆっくり深く頭を下げられました。

「さて、皆! 明日領地に向かって出発するぞ!」

 実は、あの時シャーロットに魅了されそばにいた修道女と警備兵二人、ティシュトリアに連れて行って欲しいと嘆願してきたのです。
 しかし、誰も彼も連れて行く訳に行かず、兎に角お祖父様のお邸で試験徒用する事になりました。
 3人共食事を真面に取っていなかったらしく衰弱していましたが、北から王都へ向かう間にティシュトリアの食事を鱈腹食べ、ディアナ作の薬湯も飲み、お祖父様のお邸に着く頃には普通に生活出来る迄に回復していました。
 その間に伯父様が身元調査をされていました。警備兵は兎も角、修道女は何か仕出かしたから修道院に入れられていた訳で事に因っては城に引き渡す事になります。その辺も伯父様が聞き出される様です。
 結果、私達がお祖父様のお邸に到着した次の日には修道女は城へ引き渡され、警備兵2名はそのままお邸で雇い入れる事になりました。
 速攻でしたねー。それなりの事をしていたのでしょうね。逃げ出せるいい機会だとでも思ったのでしょう。甘いですね。伯父様は怖いから。
 修道女はまた北の修道院に逆戻りです。
 警備兵2名は操られていたのでお咎めもなく、お祖父様のお邸に再就職の様な感じです。
 一人は北から両親を呼び寄せ、一人は妹を呼び寄せるそうです。穏やかに暮らしてくれれば良いけれど。
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