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第一章
39ー閑話1 ルルのやらかし其の1
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ここはオーベロン王国辺境の地、ティシュトリア公爵領。豊富な水源が有り、自然豊かで気候にも恵まれた平和な地です。
辺境故に魔物が生息する森が隣接していますが、腕自慢の領主やそれに追従する領主隊員達の力により領内は安全に保たれています。
そんな平和な地を揺るがすかの様な大きな声が、ティシュトリア公爵邸の広い裏庭に響きます。
「おにぃーさまー! おにぃーさまー!」
紫掛かった銀糸の様なお下げ髪を二つ跳ねさせながらスカートの裾を翻して、小さな女の子が転がる様に駆けて行きます。
その足元には小さなフワモコのシルバーのトイプードルが、絶対に離れないぞとでも訴える様に長めの耳をピョコピョコ跳ねさせながら一緒に走って行きます。
「ルル! そんなに走ったらまた転けるぞ!」
「ラウにーさま! みっけ!」
「ルル、慌てなくても兄様達は逃げないよ」
「ジュードにーさま!」
やっと小さな女の子は目的の人物を見つけた様です。
「おにーさま、お願いがあります!」
「どうしたんだ?」
「ルル、今度は何だ?」
おにーさまと呼ばれた二人の少年は、打ち合っていた木剣を持つ手を止めて、ルルと呼ばれた女の子の話を聞きます。
この3人の子供達は、ティシュトリア公爵家の子供達です。
ラウにーさまこと長男のラウアース。紫掛かったふんわりシルバーヘアに瑠璃色の瞳が利発そうな男の子。
ジュードにーさまこと次男のジュード。紫のサラサラヘアに翡翠色の瞳がまだ少しヤンチャそうな男の子。
そして、二人の元に大きな声で呼びながら走ってきたルルことルルーシュア。公爵家の長女で一人娘です。
さてこの一人娘のルルーシュア。いつも突拍子もない事を言い出して、二人の兄だけでなく両親まで驚かせています。今回は何を仕出かすのやら。
「ルルはコッコちゃんが欲しいのです! だから、ラウにーさま、ジュードにーさま、コッコちゃんを捕まえに行きましょう!」
小さな女の子は両手を腰に当てて、さも得意気に話します。何が得意気なのか全く分かりません。何故か側にいるトイプードルまで得意気に見えます。
「ワンッ!」
「「コッコちゃん!?」」
「ルル、分かってるか? コッコちゃんとお前は呼んでいるが、アレは魔物なんだぞ」
「ラウにーさま、そうなのですか?」
「クウン?」
トイプードルと一緒に小さな頭をコテンと傾げています。
「そうだ、ルル。魔物を捕まえてどうするんだ?」
「はい、ジュードにーさま。魔物図鑑に書いてありました。コッコちゃんはとってもおいしい卵を産むそうです! ルルはその卵が食べたいです!」
「ワンッ!」
魔物図鑑に載っていたのだから、当然魔物だろ! と、突っ込みたくはなりますが。この二人の兄は、妹にはとてもとても甘い様です。
「そうか、ルルが食べたいのなら仕方がないな」
「兄貴、捕まえに行くか!?」
「ジュード、ルルが食べたがってるんだ。行くしかないだろう!」
こうしてこの三兄妹の冒険は始まります。二人の兄は腰に木剣を刺して、間に小さな妹を挟んで手を繋ぎ森の中を行きます。3人の足元には小さなシルバーのトイプードルが、短い丸い尻尾をプルプル振りながらトコトコと跳ねる様に歩いて付いて行きます。
「兄貴、森の浅いところにいるんだよな?」
「ああ、森の浅いところで草や角兎を狩って食べるらしい」
「おにーさま、コッコちゃんは角兎を食べるのですか?」
「ああ、コッコちゃんも魔物だからな」
「あ! おにいさま! あそこです!」
小さな妹が兄の手を振り解き指差します。子供達の腰位迄ある高さの草木の影に尻尾が見え隠れしています。
「いいか、後ろからそーっと行くぞ。蹴られない様に注意だ」
「ラウにーさま、わかりました!」
元気良く片手を挙げて答える女の子。
「ルル、声が大きいよ」
「ジュードにーさま、ごめんなさい」
「ジュード、ルル、足と羽根の付け根を狙うぞ!」
「分かった!」
「ルルも蹴ります!」
蹴るのか? 小さな女の子が蹴るのか!? そこは誰も突っ込まないのか?
「せーので行くぞ」
「「はい!」」
3人はそーっと後ろから近寄ります。
「せーのっ!」
「「とぉーッ!!」」
2人の兄が飛び出して木剣を叩きつけます。兄は羽根の付け根を、弟は足を狙って思い切り叩きつけました!
「コケーッ!!」
コッコちゃんと呼ばれる魔物もビックリして抵抗します!
「えいっ!!」
小さな妹がコッコちゃんの後頭部に飛び蹴りを決めました! 足と羽根の付け根を狙うと言う、兄の話を聞いていなかったのでしょうか?
「「ルルッ!!」」
「キャンッ! キャンッ!」
「にーさま! 攻撃をつづけてください!」
「「おうっ!」」
「キャンッ!」
小さな三兄妹はコッコちゃん目掛けて殴ったり蹴ったり。ボッコボコです。小さなトイプードルまでキャンキャン鳴いて、一緒に攻撃でもしているかの様です。
しかし、コッコちゃんも魔物です。負けてはいません。羽根をバタつかせ、足蹴りしながら抵抗します。
「えいっ!!」
再び小さな女の子の飛び蹴りが決まり、女の子は小さな身体全体を使ってそのままコッコちゃんを押さえ込みにかかります! なんと言う事でしょう!
「「ルル!」」
「コッコちゃん、あばれないでね! わたしはコッコちゃんの卵が食べたいの!」
「キャンッ! キャン!」
「コッコッコッコ」
「コッコちゃん、わたしたちの勝ちよ! おとなしくついてきなさい!」
女の子はガッシリとコッコちゃんと呼ばれる魔物を抑え込みました。女の子に自覚があるのかないのか? 女の子はコッコちゃんにしっかりと威圧を放っています。
「コッコッコッコ……」
「わぅわぅ」
「コッコッコ」
「コッコちゃん、わかった?」
「コッコ……」
「にーさま、連れて帰りましょう!」
「ルルは凄いなー!」
「ハハッ、ルルの勝ちだ!」
「ラウ! ジュード! ルル!」
三兄妹がコッコちゃんを連れて邸に帰ると、両親が血相を変えてやってきました。
「おとーさま! おかーさま!」
「貴方達3人共ボロボロじゃないのッ!」
「ルル、その魔物はどうした!?」
「はい! ルルはコッコちゃんの卵が食べたいので、ラウにーさまやジュードにーさまと一緒に捕まえてきました!」
「捕まえてきただと!?」
「はい! 父上! 3人で捕まえました!」
「はい! 父上! 最後はルルの飛び蹴りでした!」
「ラウ、ジュード……ルルの飛び蹴り!?」
「ルル! あなた女の子なのよ!」
「おとーさま! おかーさま! 裏でコッコちゃんを飼いましょう! おいしい卵を食べましょう!」
「「ええーーッ!!」」
兄達2人はいつも妹に言われて付いて行ってるので、妹がまたやらかしたと思っていますが兄達2人も相当なものです。普通は子供達だけで魔物を捕獲したりは出来ません。妹の無茶振りに応えられる兄達の方が、やらかしていると言えるのかも知れません。
その後、公爵家の裏庭にコッコちゃんの養鶏場が建てられ、いつの間にかコッコちゃんの数も増えていきました。
今日も平和なティシュトリア公爵家の裏庭で、大きな声が響きます。
「おにーさまー! おにーさまー! ルルはモーモーちゃんが欲しいですー!」
「キャンッ! キャンッ!」
辺境故に魔物が生息する森が隣接していますが、腕自慢の領主やそれに追従する領主隊員達の力により領内は安全に保たれています。
そんな平和な地を揺るがすかの様な大きな声が、ティシュトリア公爵邸の広い裏庭に響きます。
「おにぃーさまー! おにぃーさまー!」
紫掛かった銀糸の様なお下げ髪を二つ跳ねさせながらスカートの裾を翻して、小さな女の子が転がる様に駆けて行きます。
その足元には小さなフワモコのシルバーのトイプードルが、絶対に離れないぞとでも訴える様に長めの耳をピョコピョコ跳ねさせながら一緒に走って行きます。
「ルル! そんなに走ったらまた転けるぞ!」
「ラウにーさま! みっけ!」
「ルル、慌てなくても兄様達は逃げないよ」
「ジュードにーさま!」
やっと小さな女の子は目的の人物を見つけた様です。
「おにーさま、お願いがあります!」
「どうしたんだ?」
「ルル、今度は何だ?」
おにーさまと呼ばれた二人の少年は、打ち合っていた木剣を持つ手を止めて、ルルと呼ばれた女の子の話を聞きます。
この3人の子供達は、ティシュトリア公爵家の子供達です。
ラウにーさまこと長男のラウアース。紫掛かったふんわりシルバーヘアに瑠璃色の瞳が利発そうな男の子。
ジュードにーさまこと次男のジュード。紫のサラサラヘアに翡翠色の瞳がまだ少しヤンチャそうな男の子。
そして、二人の元に大きな声で呼びながら走ってきたルルことルルーシュア。公爵家の長女で一人娘です。
さてこの一人娘のルルーシュア。いつも突拍子もない事を言い出して、二人の兄だけでなく両親まで驚かせています。今回は何を仕出かすのやら。
「ルルはコッコちゃんが欲しいのです! だから、ラウにーさま、ジュードにーさま、コッコちゃんを捕まえに行きましょう!」
小さな女の子は両手を腰に当てて、さも得意気に話します。何が得意気なのか全く分かりません。何故か側にいるトイプードルまで得意気に見えます。
「ワンッ!」
「「コッコちゃん!?」」
「ルル、分かってるか? コッコちゃんとお前は呼んでいるが、アレは魔物なんだぞ」
「ラウにーさま、そうなのですか?」
「クウン?」
トイプードルと一緒に小さな頭をコテンと傾げています。
「そうだ、ルル。魔物を捕まえてどうするんだ?」
「はい、ジュードにーさま。魔物図鑑に書いてありました。コッコちゃんはとってもおいしい卵を産むそうです! ルルはその卵が食べたいです!」
「ワンッ!」
魔物図鑑に載っていたのだから、当然魔物だろ! と、突っ込みたくはなりますが。この二人の兄は、妹にはとてもとても甘い様です。
「そうか、ルルが食べたいのなら仕方がないな」
「兄貴、捕まえに行くか!?」
「ジュード、ルルが食べたがってるんだ。行くしかないだろう!」
こうしてこの三兄妹の冒険は始まります。二人の兄は腰に木剣を刺して、間に小さな妹を挟んで手を繋ぎ森の中を行きます。3人の足元には小さなシルバーのトイプードルが、短い丸い尻尾をプルプル振りながらトコトコと跳ねる様に歩いて付いて行きます。
「兄貴、森の浅いところにいるんだよな?」
「ああ、森の浅いところで草や角兎を狩って食べるらしい」
「おにーさま、コッコちゃんは角兎を食べるのですか?」
「ああ、コッコちゃんも魔物だからな」
「あ! おにいさま! あそこです!」
小さな妹が兄の手を振り解き指差します。子供達の腰位迄ある高さの草木の影に尻尾が見え隠れしています。
「いいか、後ろからそーっと行くぞ。蹴られない様に注意だ」
「ラウにーさま、わかりました!」
元気良く片手を挙げて答える女の子。
「ルル、声が大きいよ」
「ジュードにーさま、ごめんなさい」
「ジュード、ルル、足と羽根の付け根を狙うぞ!」
「分かった!」
「ルルも蹴ります!」
蹴るのか? 小さな女の子が蹴るのか!? そこは誰も突っ込まないのか?
「せーので行くぞ」
「「はい!」」
3人はそーっと後ろから近寄ります。
「せーのっ!」
「「とぉーッ!!」」
2人の兄が飛び出して木剣を叩きつけます。兄は羽根の付け根を、弟は足を狙って思い切り叩きつけました!
「コケーッ!!」
コッコちゃんと呼ばれる魔物もビックリして抵抗します!
「えいっ!!」
小さな妹がコッコちゃんの後頭部に飛び蹴りを決めました! 足と羽根の付け根を狙うと言う、兄の話を聞いていなかったのでしょうか?
「「ルルッ!!」」
「キャンッ! キャンッ!」
「にーさま! 攻撃をつづけてください!」
「「おうっ!」」
「キャンッ!」
小さな三兄妹はコッコちゃん目掛けて殴ったり蹴ったり。ボッコボコです。小さなトイプードルまでキャンキャン鳴いて、一緒に攻撃でもしているかの様です。
しかし、コッコちゃんも魔物です。負けてはいません。羽根をバタつかせ、足蹴りしながら抵抗します。
「えいっ!!」
再び小さな女の子の飛び蹴りが決まり、女の子は小さな身体全体を使ってそのままコッコちゃんを押さえ込みにかかります! なんと言う事でしょう!
「「ルル!」」
「コッコちゃん、あばれないでね! わたしはコッコちゃんの卵が食べたいの!」
「キャンッ! キャン!」
「コッコッコッコ」
「コッコちゃん、わたしたちの勝ちよ! おとなしくついてきなさい!」
女の子はガッシリとコッコちゃんと呼ばれる魔物を抑え込みました。女の子に自覚があるのかないのか? 女の子はコッコちゃんにしっかりと威圧を放っています。
「コッコッコッコ……」
「わぅわぅ」
「コッコッコ」
「コッコちゃん、わかった?」
「コッコ……」
「にーさま、連れて帰りましょう!」
「ルルは凄いなー!」
「ハハッ、ルルの勝ちだ!」
「ラウ! ジュード! ルル!」
三兄妹がコッコちゃんを連れて邸に帰ると、両親が血相を変えてやってきました。
「おとーさま! おかーさま!」
「貴方達3人共ボロボロじゃないのッ!」
「ルル、その魔物はどうした!?」
「はい! ルルはコッコちゃんの卵が食べたいので、ラウにーさまやジュードにーさまと一緒に捕まえてきました!」
「捕まえてきただと!?」
「はい! 父上! 3人で捕まえました!」
「はい! 父上! 最後はルルの飛び蹴りでした!」
「ラウ、ジュード……ルルの飛び蹴り!?」
「ルル! あなた女の子なのよ!」
「おとーさま! おかーさま! 裏でコッコちゃんを飼いましょう! おいしい卵を食べましょう!」
「「ええーーッ!!」」
兄達2人はいつも妹に言われて付いて行ってるので、妹がまたやらかしたと思っていますが兄達2人も相当なものです。普通は子供達だけで魔物を捕獲したりは出来ません。妹の無茶振りに応えられる兄達の方が、やらかしていると言えるのかも知れません。
その後、公爵家の裏庭にコッコちゃんの養鶏場が建てられ、いつの間にかコッコちゃんの数も増えていきました。
今日も平和なティシュトリア公爵家の裏庭で、大きな声が響きます。
「おにーさまー! おにーさまー! ルルはモーモーちゃんが欲しいですー!」
「キャンッ! キャンッ!」
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