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第一章

38ー結末

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 その後、第2王子は2年間の謹慎となりました。謹慎中は学園時代に修得出来ていなかった勉学、魔法学、経済学それに、王族の心得の様なものを再度叩き込まれるそうです。
 そして謹慎が明けた後には勉学を継続すると共に、さらに近衛兵見習いとして兵達に混ざって修練も開始される事になりました。
 それでも王妃様は、厳しすぎると反対されたそうですが、今回ばかりはと陛下が却下されました。
 今迄好き勝手をして逃げていた第2王子にとってはかなり辛いものになるでしょう。

 男爵令嬢はと言えば…、取調べがなかなか進まず。

「わたしはぁ、ヒロインなのよぅ!」
「この世界はわたしの為にあるのよぅ!」
「みんなわたしを愛して当然なのよぅ!」
 
 と、訳の分からない事を言い続けているそうです。その上、一部のバカ貴族から金品を盗まれたと訴えも出ているらしく、罪状がいくつも追加されたそうです。さらに、憲兵の調査は進みます。
 男爵令嬢が、毎晩サクソン・モルドレッド邸に通っていた事。
 父親のペイドン・プロセル男爵が、娘を第2王子に嫁がせ第1王子に成り代わって王太子に祭り上げ、政治の実権を握ると言いふらしていた事がアッと言う間に調べ上げられました。
 早々に、ペイドン・プロセル男爵が捕らえられ、取調べでペロッとサクソン・モルドレッド侯爵の関与を喋ってしまった。

「私は悪くない! サクソン侯爵に騙されたんだ!」

 と、喚いていたらしい。そして、今回の黒幕であるサクソン・モルドレッド侯爵について。
 侯爵邸から持ち出した帳簿一式をお爺様が提出なさいました。例の持ち出し不可の魔法が掛けられていた裏帳簿です。全ての帳簿が表に出たものだから、第1王子を貶めようとしていた証拠まで揃ってしまい万事休す。
 それでも、サクソン・モルドレッド侯爵は……

「第1王子の指示だ! 無理矢理やらされたんだ!」

 と、喚いていたらしいが、証拠が揃っている為になんの言い訳にもならなかった。
 お祖父様の邸にいらしたマーリソン様も取調べの為に出頭されました。マーリソン様はいつもの様に飄々と闇の魔石の事や、他にも父親の不正を証言したらしい。

「我が実父ですが、人の道から外れた事をしております。しっかり処罰してほしい」

 と、仰ったそうです。そして……

「私は、モーガン・ オーベロン殿下、並びにアーデス・ティシュトリア公爵にお仕えするつもりですので、モルドレッド家は取り潰して下さって結構! 何よりルルーシュア・ティシュトリア様に生涯を捧げるのです!」

 と、堂々と言ったらしい。最後の言葉は本当にやめてほしい。
 後日、私もお祖父様、お父様、お母様、お兄様、レオン殿下と一緒にお城に呼ばれました。

 沙汰が降りました。
 シャーロット・プロセル男爵令嬢は、魅了スキル所持者と言う特殊性を考慮して国外追放は見送られました。しかし、スキル封じを施された後、北の果てにある問題を起こした貴族令嬢ばかりが入っている修道院に送られる事になりました。生涯出てこれないそうです。
 シャーロット嬢の父であるペイドン・プロセル男爵は爵位剥奪の上、生涯鉱山での労働に着く刑に処されました。
 サクソン・モルドレッド侯爵は、所領、家禄、屋敷の没収および国外追放になりました。モルドレッド家の爵位は、父親の不正を協力的に証言した事で情状酌量され、爵位を伯爵位に降格された上で爵位のみマーリソン様が継がれる事となりました。
 これで今回の騒動は幕引きとなります。
 マールス侯爵、マーリソン様は勿論お咎めなしです。

「モーガン叔父上、いったいいつから動いてらしたのか?」

 王様がお祖父様に質問されました。

「私は大した事はしておらん。アーデスの子達、ティシュトリア家に仕える者達、そしてレオン殿下にマーリソン殿のおかげだ」
「いや父上、元々は娘を助けてほしいとマールス・クロノス侯爵の嘆願がティシュトリア家にあったからです。あの男爵令嬢はやり過ぎたんですよ」

 そうお父様が仰いました。そうです。始まりはクロノス侯爵の娘を思う気持ちからでした。

「なるほど。我が息子ながら言葉もない。第2王子はどうしてあの様に育ってしまったのか。しかし、よく魅了を見破ったものだ」
「ああ、それは孫娘のルルーシュアと婚約者のレオン殿下のお手柄だな」
「ほう」
「畏れながら陛下。レオン殿下が、過去に帝国で魅了が使われた事実をご存知だったからですわ」

 お母様、普通に話しておられますね。王家に文句でも言い出すのではないかと、ヒヤヒヤしてましたわ。

「なんと! 帝国で!」

 レオン様が説明されます。

「はい。帝国では皇族が帝国史を学ぶ際に、過去の事件についても学ぶ機会があります。その際に学んだ事と、周りの状況が酷似しておりましたので気付く事ができました。しかし、ルルーシュア嬢やマーリソン殿、ティシュトリア家お抱え魔導師のユリウス殿が、毎日沢山の魅了避けの魔道具を作成されていなかったら、あのパーティー会場で皆魅了を掛けられてしまっていた事でしょう。バッカス殿下の魅了を解いた解呪薬もティシュトリア家の薬師が調合したものです」
「そうか、ティシュトリア家には素晴らしい人材が揃っているのだな。ジュノー・クロノス侯爵令嬢には申し訳ない事をした。第2王子のバッカスは性根を叩き直す様、教育し直すつもりでおる。此度は第2王子のしでかした事から、第1王子を貶めようとした事、王家への反逆罪とも言える大罪をよくぞ見破ってくれた。礼を言う」
「勿体ないお言葉です。しかしながら陛下、次は御座いませんぞ。決して忘れてはおりませんぞ。アーデスの婚姻の際にも我々は苦渋を味わっておりますからな。今後はよくお考えになる事だ」
「叔父上……」

 お祖父様が釘を刺されました。部屋の空気が一気に冷えました。何があったのかしら?

 陛下との謁見が終わり部屋を出ると、第1王子殿下が待っていらっしゃいました。

「皆様、今回はご迷惑をお掛けし、また大罪を未然に防げた事、心から感謝致します」
「ディーユ殿下、やっと全て終わりましたな」
「モーガン叔祖父上、有難うございます。ティシュトリア公爵、少しだけルルーシュア嬢をお借りしても宜しいでしょうか?」

 え? 私? なぜに?

「ルル、先に行って馬車で待っている」
「お父様、分かりました」
「有難うございます。ルルーシュア嬢、少し彼方へ歩きませんか?」
「はい」

 お城の中庭まで来ました。少し離れた所に殿下の護衛の方々がいます。

「ルルーシュア嬢、学園以来ですね」
「はい。ご無沙汰しております」
「私の事は覚えておられますか?」
「勿論です、殿下。何度か生徒会のお部屋の近くで、お話した事を覚えております」
「実はもっと小さい頃にもお会いした事があるのですよ」
「そうなのですか?」
「あなたがまだ2~3歳の頃でした。私は子供の頃からモーガン叔祖父上が好きで付き纏っていたので、よくお相手をして下さっていた。あの時もモーガン叔祖父上に連れられて、ティシュトリア領へ行ったのです。その時にルルーシュア嬢は、本当に小さい柔らかい手を繋いで一生懸命歩いてらした。ピンク色のほっぺをされて、それはそれは可愛らしかった」
「そんなに小さい頃ですか」
「ええ、私もまだ小さかったのですが。実はあの頃、私はルルーシュア嬢を自分の花嫁にするんだ。と、思っていました。第2王子バッカスとの婚約話が出た時に、私が先に見つけた子なのに! と両親に食って掛かった事があります。まあ、弟に甘い両親に却下されましたが。それ以来、私の細やかな反抗心で婚約者を決めずにきました」
「……」
「ああ、帝国の第3皇子殿下と婚約されている事は知っておりますよ。ですので、思い出話です」
「殿下……」
「久しぶりにルルーシュア嬢を見たら、話しておきたくなってしまいました。どうやら、父とルルーシュア嬢のご両親とは何か蟠りがある様で、王家に娘は絶対に嫁がせないと言われてしまったそうです」

 ああ、お母様なら言いかねないわ。

「今回、バッカスの婚約者がルルーシュア嬢でなくて良かった。勿論、ジュノー嬢だから良いと言う意味ではありませんよ。これ以上、王家とティシュトリア家の溝を深めたくないのです。代々、ティシュトリア領を治める公爵家は王国でも文武に秀でた一家ですから、蟠りを持つ事は王家にとって、いえ王国にとって損失だと私は考えています」
「有難うございます。王国民として、貴族として、王家にお仕え致します」
「有難う。私達の代では蟠りを解消したいと願っております」
「はい、殿下」
「お話出来て良かったです……ああ、婚約者殿が、余程心配の様です」

 え? と、振り返ると柱の影にレオン様の背中が見えた。

「ではまた、機会があれば」
「はい」

 ディーユ殿下が歩いて行かれた。

「……レオン様、見えてますよ」
「チッ……わざとだよ」

 レオン様が手を出されました。

「ルル、帰ろう」
「ええ、帰りましょう」

 私は、出されたレオン様の手を取った。
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