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第二章
悪い事
しおりを挟む朝起きてすぐに大神官様の所を訪ね、治療をしてもらった。
診察結果、僕の左足首は見事に折れていた。
大神官様にも母上にもカレアにも怒られた。折れぐせが付いたかもしれないらしいので、次は絶対に言う、と約束をして家に帰った。
そして怒られた以上に甘やかされて居る。因みに目の前では父上が反省中の札を首に掛けて座っている。僕の右側には母上、左側にはカレアがいる。
父上に見せつける様に二人はベタベタと僕に触れ、リンゴを口に入れてくれる。されるがままシャクシャクと食べて、父上を見つめる。
父上は仕事を首になってしまった人の様にしょんぼりとしている。少し可哀想な気もするけど、父上にやられたのは痛かったし怖かった。魔王の母上に意義を申し立てようとは思わないし、カレアにとやかく言うつもりも無い。
僕は口の中の物を噛み砕いて胃に入れるだけだ。口の中のリンゴが無くなったので、次は母上にラフランスを入れられる。
「ンぅ・・・お、おっきいよぉ・・・んふっ、入んな・・・」
「お母様!お兄ちゃんがぁぁあああ!」
「はっ!レリィ・・・!ごめんなさい!」
「う・・・!目に毒だ!やっぱり嫁になんて出せない・・・!」
「貴方!この期に及んでまだそれを言うの?!ちょっと話し合いよ!」
「んぐぅっ!っ・・・!」
父上は母上に連れ去られ、乱暴に扉が閉じられた。なので必然的にカレアと二人きりになる。
母上は僕のラフランスをそのままに、いや、どちらかと言えば押し込めて行ったので凄く辛い。でも吐き出す訳にも行かないし、歯を立てるのだって一苦労だ。
「ふえぇ、あほあ・・・」
「お兄ちゃん!無理に食べないで、ゆっくりで良いから半分に齧って!・・・うん、お兄ちゃん上手ね!」
「ひっほふふるはほほもっはょ・・・」
カレアの言う通り齧って頑張ったけど凄く顎が外れちゃうかと思ったし、窒息しちゃうかと思った。ラフランスが喉奥に当たる感覚って凄いんだね。
果物は小さくして食べましょう。あ、おとぎ話の元気な子みたいになったら大変だもん。最終的には助かるのだけど、怖くて嫌いだったなぁ・・・。
とある町の男の子は食べ物を大きいまま食べるのが好きだからって、何回もの両親の注意も幼馴染の注意も気にしなかったんだよね。それである日、道端であった知らない人に『大きな果実が好きなら詰めてあげるわ』って言われて連れて行かれて──────
子供の教育のためにある本だけど、影響力が結構ある。大抵の子は泣いて、酷い子は固形物を食べるのが怖くなるとか。
「あぁ儚い儚い・・・お兄ちゃんは無理矢理立派なブツを咥えさせられて喉奥を突かれまくり生理的な涙が滲む・・・しかも上手く息を吸えなくて頬は紅色に染まって男の独特な臭いのするミルクを飲む事を強制されるんだ・・・。くっ・・・嫌よ、嫌だよお兄ちゃぁあん・・・!どうしてそんなに色っぽ、儚いのぉ!あぁあ儚過ぎて怖い・・・」
カレアが言ってる事はよく分からないけど父上が心配だ。母上はめっちゃ怒ってたもん。何が母上の逆鱗に触れたのか分からないから、言動には気を付けなければならない。
カレアはブツブツと何かを呟きながら、僕ではない僕を見詰めているようだ。少しの恐怖は感じるが、しっかりとリンゴをくれるので気にしない事にする。ラフランスは当分の間口にしたく無いな。
知らない方がいい事もあるよね。
カレアの事も、隣の部屋から聞こえてくる怒鳴り声も。知らないフリをするのだって大切なんだ。どうして僕は昨日泣いたのかだって、知らなくたって良いんだ。
誰も咎めない。誰にだって秘密があるのだから。
気付いたら、余計怖くなる。
たまには嫌な事なんて忘れちゃえ、楽しい事をしてやるんだ。少しだけ悪い事、しちゃおうよ・・・今も、ね?
「カレア・・・お昼寝、しちゃお?」
「はっ!私ったら眠かったからなのかなぁ?へへへ変な事考えちゃったよ!お兄ちゃんったら、最高だね!カレアと一緒にいっぱいお昼寝しちゃお!パジャマに着替えなくたって怒られないよ!お昼寝しちゃおぉ!」
「うん、そうだね・・・。」
カレアが挙動不審だけど、僕の最近の好きな悪い事は変わらずのお昼寝。
生活リズムが崩れるからあまり良くないのだけど、あんまり寝過ぎたりしないから平気だよね。
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