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第十六話【不可解】中
しおりを挟む「怯えてないで、ちゃんと謝りなさい」
「は、はい…。ご、ごめんなさいっ…僕の…僕の所為で…」
耐え切れずボロボロと泣き出したマミの様子に、途端に監督とプロデューサーが慌てだした。
「すまない!マミ君の所為じゃない」
「怖がらせるつもりじゃなかったんだ!」
「ご、めんなさい…ごめんなさい…」
涙を流し続けるマミの声も震えが止まらず、見ている冬真たちも心が痛くなるほどのものだった。
(違う)
それを見ていて冬真はそう直感した。確かに今回の喧嘩はマミのスケジュールに急遽合わせたこともあるだろうが、もともとこんなことは日常茶飯事だ。同じ作品に関わる者たちが必ずしも同じ意見を持っているわけでもない。
今回はたまたまそれが、現場に持ち込まれて表にでてしまっただけでマミの所為じゃない。
(コイツもなんでこんな)
収まる事には収まったが、これではマミの心を傷つけただけで、追い打ちでしかない。激しい恐怖と自己嫌悪で小さな体は止まることなく小刻みに震えている。
「どうか泣き止んでくれないか?」
「本当にすまなかった」
「マミ、君が泣き止まない所為で余計に気を遣わせてしまっているじゃないですか」
「ご、ごめんなさい…」
「おい、そういう言い方ないだろ」
隠すことのない呆れたような口調と感情のこもっていない目線に、マミは謝ることしかできなくなっていく。冬真は思わず、そんなマミの前へとたち彼からマミをかばっていた。
「冬真くんでしたね。貴方にもご迷惑おかけして申し訳ありません」
「いまはその話じゃないだろ」
「こちらの都合で振り回してしまい、貴方のお時間を奪ってしまったこと、今後このようなことがないように気をつけます」
「そうじゃなくて」
「やめて、ください…全部僕がいけないんです。僕が…僕が…」
否定しようと伸ばす手を振り払い、マミはその場にいるスタッフ全員に何度も何度も謝り始続けた。
「マミ、それぐらいでやめなさい」
「は、はい…」
「本当にご迷惑おかけしてすみません。これ以上ご迷惑をおかけしないよう心掛けて演じなさい」
「は、はい」
元マネージャーの男はマミの様子に満足そうに頷き、見ているというようにその場から離れていった。震えるその手を強く握りしめ、押しつぶされそうな不安と必死で戦いながらマミはうまくやるようにと自分を追い込んでいた。
その様子に、撮影を止めるべきではないかと冬真は何度も思った。監督も気づいていたのだろう、休憩を提案したが、その度にマミは“大丈夫です。続けてさせてください”と頼み込んだ。
「お疲れ」
「将人さん」
「どこまで撮ったとこ?」
しばらくして遅れてやってきた将人が現場に入ると、全員の視線が集まった。監督とプロデューサーへと気軽に話しかけると、その場の緊迫感が揺らいだのがわかった。
さすが、役者歴が長いだけある。将人は少し話を聞いて、冬真とマミの方へと目を向けた。
「悪ぃけど、俺との絡みさきでもいい?」
「はい」
「はい、ごめんなさい」
反射的に謝ったマミに不思議そうな顔をするも、時間がないとばかりに自分の配置へと向かってしまう。怒っているわけではないのは冬真にはわかったが、隣にいたマミにはわからなかったのかもしれない。一度収まったかのように見えていた身体がまた震え出した。
その目が助けを求める様に、元マネージャーの方へと向けられるが、その目を見て再び下へと落とされた。
「大丈夫、俺も一緒だからもう少し頑張ろう?」
怖がらせないようにと優しいグレアを出しながら頭を撫でれば、マミの震えがとまった。
「そう、マミはよく頑張ってる。怖くないから肩の力を抜いて?」
すがるような眼を向けられ、にっこりと微笑み返した。そして少しだけ、Domらしくグレアを強める。
「笑顔で、リラックスだ。できるよな?」
「はい」
「よし、いいこだ」
顔を上げ、ぎこちなく笑顔を浮かべたマミに微笑み、チラリと元マネージャーの方へと目を向ける。動く様子はない。
「Good Boy」【よくできました】
そうコマンドを囁けば、マミは目に見えて嬉しそうな表情へとなり、じっと冬真を見つめた。もしも、パートナーならばこの状況を許すはずはない、本来ならばこれはパートナーであるDomの役目でやらなくてはならないことのはずだ。
(こねぇのか?)
そう視線を送るも、マネージャーは動くことなくただじっと見つめていた。
「2人とも、撮影始めるぞ」
「はい、今行きます」
「はい!」
監督に声をかけられ、2人は自らの立ち位置へとむかった。
その後の撮影は、先ほどよりもずっとスムーズに進んでいった。将人が入ったことで、冬真やマミの演技も引っ張られよりよいものとなっていった。マミの精神が安定したことも関係したのだろうが、表情もよくなり、冬真への視線も信頼する兄へと向ける物へとなった。
雰囲気が全く違う二人だが、仲のいい兄弟という設定どおり、冬真からの目線も優しく互いに目をあわせるシーンも完璧なものへとなっていった。
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