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第十六話【不可解】前
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その日も朝からスケジュールがギチギチに詰まっていた。手早く支度を整えていると、スマホが軽く震えた。見ればそこに力也の名前が通知されていた。
【おはよう、今日帰り何時ごろ?】
そのメッセージに、返信することなく通話に切り替える。
「力也?」
「おはよう冬真、今平気?」
「ああ、支度しながらになるけど平気だ。どうした?」
また何かあったのではとドキドキとしながら、聞けば楽し気な笑い声が聞こえた。
「今日カレー作ろうかと思ったんだけど、冬真食べるかなって」
「食う!」
「食いつきすぎ」
ケラケラと笑う力也の様子に、いいことを思いついた。
「お前明日用事は?」
「用事?パーツの仕事が午後から入ってるけど?」
「なら問題ねぇな。庭に置いてあるバイクの中に鍵入れとくから入って待ってろ」
「はぁ?」
「カレー持ってきてくれるんだろ?ついでに泊ってけ」
いきなりの命令に、一瞬驚いたようだけど、すぐに力也は爆笑し始めた。
「強引。あ、さては掃除とか溜まってんだ?」
「そうじゃなくて、今日は八時には帰ってこれるから」
家事をやってもらうために呼んでいるわけじゃないと伝えたいが、力也は勘違いしたまま更に続けた。
「それまでに掃除と洗濯やっとけってことだろ?わかった、やっとく」
ハイハイと軽く流す力也にどう説明しようか考えたが、確かに部屋の中はぐちゃっとしているし洗濯物も溜まっている。いまどういったってこの部屋を見たらそうとしか思えないだろう。
「部屋ん中好きにいじっていいから」
「わかった。じゃあちゃんと綺麗にしてまってるから仕事頑張れよ」
「ああ」
あっさりと切れたスマホを横に置き、冬真は気分が急激に上昇するのを感じた。
今日のスケジュールを順調に終えれば、八時には帰ってこられるはずだ。PlayもSEXもできる。甘やかすことも、ここ数日のストレスをどうにかすることもできる。
その為に、今日は完璧に終えなければ。
午前の仕事が終わり、冬真はマネージャーの車へと乗り込んだ。昼食代わりのゼリー飲料を飲む。移動が多いという理由で今日はマネージャーが一日付きっ切りになっている。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます。次はファッション雑誌の撮影ですよね」
「そのはずでしたが、キャンセルになりました」
「え?」
「というより、午後の予定がすべて変更になりました」
「すべて…」
なにか自分では不都合があったのかと聞き返す前に、さらに言われた言葉に冬真は困惑した。
「え…っと俺なんかミスりました?」
「そうではありません。今日マミくんの予定が急遽あいたのでドラマ用の二人のシーンを撮っておこうという話にさっきなりました」
「え…」
まだ台本ももらっていないのに、ひどい無茶ぶりだった。アイドルとして名の売れているマミに合わせるのはわかるが、それでも急すぎる。
「他の出演者さんたちは?」
「今日撮るシーンは2人だけのシーンなので…あ、でも将人さんも参加するシーンがあるのでそっちも撮るなら将人さんもくると思います」
「そうですか」
「今日撮る予定のシーンの台本の代わりです。移動中に覚えてください」
そう言って手渡されたのは、急遽印刷したとしか思えない紙の束だった。
「わかりました」
順調にミスなく仕事を終えようと、頭で立てていた計画が今壊れた気がした。
スタジオにつくと、そこは最悪な状態だった。
「マジか…」
「ご、ごめんなさい、僕の所為で…」
急な撮影の所為か、プロデューサーと監督が怒鳴り合っていた。この場を収めてくれそうな慣れた役者も見当たらない。
「いや、マミの所為じゃないよ」
自分の所為でこんなことになってしまったと、泣きそうな顔を浮かべるマミをとりあえず撫でる。大の大人の男が二人怒鳴り合っているのだかなりの迫力だ。
よくみれば、マミはガタガタと震えていた。
「お二人とも、落ち着いてください」
マミをかばいつつ、声をかけるが一向に止まる様子がない。他のスタッフも止めようとするが、一向に止まる様子はない。
どんどん時間が削られていくのを感じ、徐々にここ数日のストレスが抑えられなくなっていく。
頭の中ではダメだとわかっているのに、イライラは収まらず、冬真は息を吸い込んだ。
「この度はご迷惑をおかけして、まことに申し訳ありません。」
不意に聞こえた聞き覚えのない声に振り返れば、メガネをかけた神経質そうな男がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「このドラマへの思い入れが深いお二人の気持ちを考えず、こちらの都合に合わせてしまい申し訳なく思います。」
いかにもこういうことにも慣れている雰囲気を出しながら監督とプロデューサーに近づいていく男は、初めてみる顔だった。
「アイツは?」
「…僕の元…マネージャー……です」
その男が通りすぎる瞬間マミの身体が一瞬ビクッとこわばった。
「マミ」
(Domだ)
振り返り呼ぶと同時に漏れ出たグレアに、冬真の後ろで震えていたマミがビクッと体を震わせ、おずおずと進み出た。
【おはよう、今日帰り何時ごろ?】
そのメッセージに、返信することなく通話に切り替える。
「力也?」
「おはよう冬真、今平気?」
「ああ、支度しながらになるけど平気だ。どうした?」
また何かあったのではとドキドキとしながら、聞けば楽し気な笑い声が聞こえた。
「今日カレー作ろうかと思ったんだけど、冬真食べるかなって」
「食う!」
「食いつきすぎ」
ケラケラと笑う力也の様子に、いいことを思いついた。
「お前明日用事は?」
「用事?パーツの仕事が午後から入ってるけど?」
「なら問題ねぇな。庭に置いてあるバイクの中に鍵入れとくから入って待ってろ」
「はぁ?」
「カレー持ってきてくれるんだろ?ついでに泊ってけ」
いきなりの命令に、一瞬驚いたようだけど、すぐに力也は爆笑し始めた。
「強引。あ、さては掃除とか溜まってんだ?」
「そうじゃなくて、今日は八時には帰ってこれるから」
家事をやってもらうために呼んでいるわけじゃないと伝えたいが、力也は勘違いしたまま更に続けた。
「それまでに掃除と洗濯やっとけってことだろ?わかった、やっとく」
ハイハイと軽く流す力也にどう説明しようか考えたが、確かに部屋の中はぐちゃっとしているし洗濯物も溜まっている。いまどういったってこの部屋を見たらそうとしか思えないだろう。
「部屋ん中好きにいじっていいから」
「わかった。じゃあちゃんと綺麗にしてまってるから仕事頑張れよ」
「ああ」
あっさりと切れたスマホを横に置き、冬真は気分が急激に上昇するのを感じた。
今日のスケジュールを順調に終えれば、八時には帰ってこられるはずだ。PlayもSEXもできる。甘やかすことも、ここ数日のストレスをどうにかすることもできる。
その為に、今日は完璧に終えなければ。
午前の仕事が終わり、冬真はマネージャーの車へと乗り込んだ。昼食代わりのゼリー飲料を飲む。移動が多いという理由で今日はマネージャーが一日付きっ切りになっている。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます。次はファッション雑誌の撮影ですよね」
「そのはずでしたが、キャンセルになりました」
「え?」
「というより、午後の予定がすべて変更になりました」
「すべて…」
なにか自分では不都合があったのかと聞き返す前に、さらに言われた言葉に冬真は困惑した。
「え…っと俺なんかミスりました?」
「そうではありません。今日マミくんの予定が急遽あいたのでドラマ用の二人のシーンを撮っておこうという話にさっきなりました」
「え…」
まだ台本ももらっていないのに、ひどい無茶ぶりだった。アイドルとして名の売れているマミに合わせるのはわかるが、それでも急すぎる。
「他の出演者さんたちは?」
「今日撮るシーンは2人だけのシーンなので…あ、でも将人さんも参加するシーンがあるのでそっちも撮るなら将人さんもくると思います」
「そうですか」
「今日撮る予定のシーンの台本の代わりです。移動中に覚えてください」
そう言って手渡されたのは、急遽印刷したとしか思えない紙の束だった。
「わかりました」
順調にミスなく仕事を終えようと、頭で立てていた計画が今壊れた気がした。
スタジオにつくと、そこは最悪な状態だった。
「マジか…」
「ご、ごめんなさい、僕の所為で…」
急な撮影の所為か、プロデューサーと監督が怒鳴り合っていた。この場を収めてくれそうな慣れた役者も見当たらない。
「いや、マミの所為じゃないよ」
自分の所為でこんなことになってしまったと、泣きそうな顔を浮かべるマミをとりあえず撫でる。大の大人の男が二人怒鳴り合っているのだかなりの迫力だ。
よくみれば、マミはガタガタと震えていた。
「お二人とも、落ち着いてください」
マミをかばいつつ、声をかけるが一向に止まる様子がない。他のスタッフも止めようとするが、一向に止まる様子はない。
どんどん時間が削られていくのを感じ、徐々にここ数日のストレスが抑えられなくなっていく。
頭の中ではダメだとわかっているのに、イライラは収まらず、冬真は息を吸い込んだ。
「この度はご迷惑をおかけして、まことに申し訳ありません。」
不意に聞こえた聞き覚えのない声に振り返れば、メガネをかけた神経質そうな男がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「このドラマへの思い入れが深いお二人の気持ちを考えず、こちらの都合に合わせてしまい申し訳なく思います。」
いかにもこういうことにも慣れている雰囲気を出しながら監督とプロデューサーに近づいていく男は、初めてみる顔だった。
「アイツは?」
「…僕の元…マネージャー……です」
その男が通りすぎる瞬間マミの身体が一瞬ビクッとこわばった。
「マミ」
(Domだ)
振り返り呼ぶと同時に漏れ出たグレアに、冬真の後ろで震えていたマミがビクッと体を震わせ、おずおずと進み出た。
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