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第4章 砂漠陰謀編

42.不本意な再会

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「・・・逝ったか」

「そのようであるな・・・なむなむ」

 絶命したジャール・メンフィスを見下ろし、俺はゆっくりと首を横に振った。
 隣のオボロも神妙な顔つきで両手を合わせて、謎の呪文を唱えている。

(馬鹿な奴だ・・・他にやりようがあったものを)

 家族と主君。天秤に掛けてどちらを選ぶべきか。
 その不自由な二択への正しい回答など、俺にだってわからない。

(だったら・・・両方、選べばいいじゃねえか)

 ジャールは自分一人で問題を抱え込むべきではなかった。
 バロンやベルトに相談をして、助けを求めればよかったのだ。
 あの二人であれば、なにを置いてもジャールのために力を尽くしてくれたはずだったのに。
 そうすれば、主君を裏切ることなく家族を救い出すことができたかもしれないのに。

「結局、この男は弱かったんだろうな。主君のことを最後の最後まで信じ抜くことができなかった」

「人を裏切りに追いやるのは欲や野心ではなく、心の弱さである・・・勉強になったのである!」

「オオオオオオッ・・・」

 そんなことを言っているうちに、通路の向こうから新しい死者が現れた。

「チッ・・・!」

 俺はミイラの頭部を蹴り飛ばして、カラカラに乾いた頭蓋を粉々にする。
 新手の敵が現れる前に、廊下を蹴って走り出した。

「オボロ! 要塞の構造は調べてあるな!?」

「もちろんなのである! この要塞にいた兵士に話を聞いて、見取り図を作っておいたのである!」

「よし! だったら、このまま予定通りに司令室まで向かうぞ!」

 年には念を入れて、『鋼牙』に事前調査を命じておいたのは正解だったようだ。
 俺達はジャールの案内なく、要塞を奥へ奥へと進んでいった。
 途中で現れる死者の数が徐々に増えていく。どうやら、司令室にロード級がいるのは間違いなさそうだった。

「その先を右である! あとは直進なのである!」

「おう! 了解!」

 俺は廊下の突き当たりを曲がる。進む通路の先に大きな扉が見えた。

「到着・・・とおっ!」

 俺は一際強く廊下を蹴り、勢いをつけて扉を蹴り開けた。
 飛び込んだ部屋の中には明かりの一つも灯されておらず、暗闇に包まれていた。
 少し遅れて、ランプを持ったオボロが部屋に入ってきた。
 小さな灯火に照らされて、司令室の内部が露わになった。

「お前は・・・」

 広い部屋の中には、一つの人影があった。
 俺は目を凝らしてその正体を見極めようとするが、朧気な輪郭しか見てとることはできなかった。

カツ、カツ、カツ、カツ

 靴の踵が床を叩く音がして、人影がこちらに近づいてくる。
 やがて、ランプの明かりの中にその人物が侵入してきた。

「やっと来てくれたな、ディンギル・マクスウェル」

「そうか・・・アンタが、いや、貴方がこの要塞にいるロード級だったのか」

 俺は見慣れた男の姿に、口調を改める。
 乾ききったミイラになり果てているが、要所要所にかつての面影があった。
 金色の髪。褐色の肌。右手に提げているのは深い湾曲の入った曲刀。

「お久しぶりですね。お元気そうで安心しましたよ・・・バロン先輩?」

 バロン・スフィンクス。
 俺は数ヶ月ぶりに顔を合わせた先輩の名を呼び、右手の剣を振りかぶった。

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