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第4章 砂漠陰謀編
43.乾いた肉体、腐った信念
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「ハアッ!」
「ふっ! ぬるいわ!」
裂帛の気合いとともに剣を振る。
抜き身も見せぬ神速の斬撃であったが、バロンは容易くその一撃を受け止める。
剣を弾かれ、俺は一歩後退した。しかし、攻め手を休めるつもりはない。姿勢を低くして、腰を回転させながら横凪ぎに斬撃を見舞う。
腰を背骨ごと両断するであろう攻撃であったが、バロンはそれを曲刀の腹で受け流した。
「視えているぞ! ディンギル・マクスウェル!」
「そうかよ・・・ハアアアアアアッ!!」
バロンに反撃の隙は与えない。右、左、上、下。休むことなく無数の斬撃を放った。
ある時は全開で殺気をぶつけ、ある時は殺意を隠して影のように斬りつける。幾重ものフェイントを織り込み、ひたすらにミイラとなったバロンを攻め立てる。
「ふ、くくっ、ハハハハハッ!」
しかし、俺の斬撃をバロンは神業じみた剣捌きで受け続ける。
口元に愉悦の笑みを浮かべ、余裕綽々といった様子である。
「ふはっ、アハハハハハハハ!」
全ての攻撃を見切られている俺もまた、いつしか大声で笑っていた。
薄暗い部屋の中、二人の男が笑いながら剣をぶつけ合う。
数分か、あるいはほんの数秒だったのかもしれない。
やがて俺達は、お互いの間合いの外で剣を構えて睨み合っていた。
「腕は衰えていないようだな・・・さすがは我が好敵手よ!」
「そちらも相も変わらず堅い剣。石頭は一度死んだくらいじゃ治らなかったみたいですね。バロン先輩」
賞賛に皮肉で応えて、俺は剣先を下げて床に向ける。
目の前の相手は斬り捨てるべき敵である。それでも、斬る前に聞いておくことがある。
「いったい、なんでまたそんな有様になっているんですか? ずいぶんと大胆なイメチェンじゃあないですか」
俺の問いかけに、バロンは乾ききった顔面を嘲りに歪ませる。
「くくくっ、醜くなったと思っているのだろうな、女王陛下より与えられたこの肉体を」
「・・・女王陛下?」
「冥府に落ちた私を拾い上げ、この素晴らしい身体を与えてくださったお方だ!」
バロンの言葉に、俺は目を細めた。
その言葉を信じるのであれば、『恐怖の軍勢』を生み出している存在がいるということになる。
(先輩をこんな姿にしたのも、その『女王』とやらなのか・・・?)
思考をめぐらしながら、俺はさらなる情報を引き出すべく言葉を続ける。
「へえ、その愉快な脳ミソも女王とやらからいただいたんですか? えらくご執心ですね、女王陛下とやらに」
「私はともかく、女王を侮辱するのは許さない! あのお方はこの不平等な世界を変えてくださる人。生きとし生ける全ての者に公平な死をもたらす、偉大なる統治者だ!」
「・・・公平ということは、先輩の妹や婚約者も殺すということですよね? その意味がわかっておっしゃっているのですか?」
「当然だ!」
間髪入れず、バロンは断言した。
「ナームやミストも死者の群に入れてくださるというのなら、こんなに素晴らしいことはない! 永遠に終わることない、寿命という括りすらも超えた千年王国! 悠久に続く楽園に招かれるのだぞ! なんと誉れ高き光栄よ!」
「もういい・・・もう喋るな」
俺は吐き捨てるように言って、床に向けていた切っ先をふたたびバロンに向ける。
鋭い視線で睨みつけ、目の前の男を討ち滅ぼすべき敵として定める。
「剣筋はバロン先輩のまま・・・だけど、頭の中はすっかり乾ききって干物になってしまったみたいですね。今の貴方を見ていると、ちょっとばかりイラついてくる」
「・・・そうか、貴様ならば私の理想を、女王陛下の創る世界の素晴らしさを理解できると思ったのだがな。私の買いかぶりだったようだ」
バロンもまた曲刀を構えて、残念そうに首を振った。
「女王陛下から与えられたこの肉体・・・しょせんは生者でしかない貴様に破れるものではないぞ!」
バロンが床を蹴り、俺に飛びかかってくる。
怪鳥のごとく宙を舞う男の攻撃を、俺は真っ向から迎え撃った。
「ふっ! ぬるいわ!」
裂帛の気合いとともに剣を振る。
抜き身も見せぬ神速の斬撃であったが、バロンは容易くその一撃を受け止める。
剣を弾かれ、俺は一歩後退した。しかし、攻め手を休めるつもりはない。姿勢を低くして、腰を回転させながら横凪ぎに斬撃を見舞う。
腰を背骨ごと両断するであろう攻撃であったが、バロンはそれを曲刀の腹で受け流した。
「視えているぞ! ディンギル・マクスウェル!」
「そうかよ・・・ハアアアアアアッ!!」
バロンに反撃の隙は与えない。右、左、上、下。休むことなく無数の斬撃を放った。
ある時は全開で殺気をぶつけ、ある時は殺意を隠して影のように斬りつける。幾重ものフェイントを織り込み、ひたすらにミイラとなったバロンを攻め立てる。
「ふ、くくっ、ハハハハハッ!」
しかし、俺の斬撃をバロンは神業じみた剣捌きで受け続ける。
口元に愉悦の笑みを浮かべ、余裕綽々といった様子である。
「ふはっ、アハハハハハハハ!」
全ての攻撃を見切られている俺もまた、いつしか大声で笑っていた。
薄暗い部屋の中、二人の男が笑いながら剣をぶつけ合う。
数分か、あるいはほんの数秒だったのかもしれない。
やがて俺達は、お互いの間合いの外で剣を構えて睨み合っていた。
「腕は衰えていないようだな・・・さすがは我が好敵手よ!」
「そちらも相も変わらず堅い剣。石頭は一度死んだくらいじゃ治らなかったみたいですね。バロン先輩」
賞賛に皮肉で応えて、俺は剣先を下げて床に向ける。
目の前の相手は斬り捨てるべき敵である。それでも、斬る前に聞いておくことがある。
「いったい、なんでまたそんな有様になっているんですか? ずいぶんと大胆なイメチェンじゃあないですか」
俺の問いかけに、バロンは乾ききった顔面を嘲りに歪ませる。
「くくくっ、醜くなったと思っているのだろうな、女王陛下より与えられたこの肉体を」
「・・・女王陛下?」
「冥府に落ちた私を拾い上げ、この素晴らしい身体を与えてくださったお方だ!」
バロンの言葉に、俺は目を細めた。
その言葉を信じるのであれば、『恐怖の軍勢』を生み出している存在がいるということになる。
(先輩をこんな姿にしたのも、その『女王』とやらなのか・・・?)
思考をめぐらしながら、俺はさらなる情報を引き出すべく言葉を続ける。
「へえ、その愉快な脳ミソも女王とやらからいただいたんですか? えらくご執心ですね、女王陛下とやらに」
「私はともかく、女王を侮辱するのは許さない! あのお方はこの不平等な世界を変えてくださる人。生きとし生ける全ての者に公平な死をもたらす、偉大なる統治者だ!」
「・・・公平ということは、先輩の妹や婚約者も殺すということですよね? その意味がわかっておっしゃっているのですか?」
「当然だ!」
間髪入れず、バロンは断言した。
「ナームやミストも死者の群に入れてくださるというのなら、こんなに素晴らしいことはない! 永遠に終わることない、寿命という括りすらも超えた千年王国! 悠久に続く楽園に招かれるのだぞ! なんと誉れ高き光栄よ!」
「もういい・・・もう喋るな」
俺は吐き捨てるように言って、床に向けていた切っ先をふたたびバロンに向ける。
鋭い視線で睨みつけ、目の前の男を討ち滅ぼすべき敵として定める。
「剣筋はバロン先輩のまま・・・だけど、頭の中はすっかり乾ききって干物になってしまったみたいですね。今の貴方を見ていると、ちょっとばかりイラついてくる」
「・・・そうか、貴様ならば私の理想を、女王陛下の創る世界の素晴らしさを理解できると思ったのだがな。私の買いかぶりだったようだ」
バロンもまた曲刀を構えて、残念そうに首を振った。
「女王陛下から与えられたこの肉体・・・しょせんは生者でしかない貴様に破れるものではないぞ!」
バロンが床を蹴り、俺に飛びかかってくる。
怪鳥のごとく宙を舞う男の攻撃を、俺は真っ向から迎え撃った。
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