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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

130話 盗み聞きは良くないって? いちゃつくなら逃すわけにはいかない

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「チアキ」
「オリアーナ? どうしたの?」

 隣でエドアルドにエスコートされながら一緒に挨拶していたオリアーナが、少し眉を寄せて私を見上げている。
 そして大した内容も語らず、シンプルに一言苦言を呈した。

「かならずディエゴを連れて下さい」
「ええー……」
「なんでそこまで嫌がられないといけないんだ」

 不服ですと言わんばかりのディエゴ。お姑さんいると行動の制限入るから自由に出来ないんだって。
 そしてオリアーナは私の考えてる事を知っているな。私が今から動こうと思った途端これだもん。

「じゃ思う存分引きずり回そう」
「せめて言葉を選んでくれ」
「オリアーナ、残りの挨拶回りは任せる」
「はい」

 ディエゴを無視したままその場を離れる。
 不審人物はこの奥の場所から壁伝いに入口付近へ向かっていったと思われる。
 もう見失ってる手前、ここは人間観察を続けながら地道に足で稼ぐ作戦だ。あそこまであからさまな反応ならすぐにぼろを出すはず。

「オリアーナ嬢」
「司令、ご無沙汰しております」

 ああなんてこと、タイミングとは。私の邪魔をする試練が多いぞ。
 今や交流を続けた結果、ガラッシア公爵令嬢から名前呼びに昇格した軍部の司令さまさまが楽しそうな様子でやってくる。

「ディエゴも暫く振りだな」
「ええ、司令殿も」
「いや、先日の君の走りは素晴らしかった」
「ありがとうございます」

 軍部関係からすれば、不名誉になるはずのジョギング大会の話をあちらから振ってきたぞ。というか、司令ディエゴと仲良しさんでなかなか熱い。父親が軍部関係だからだと思うけど、そのバックグラウンドを勝手に考えていいのかな、勿論喜んで!

「大会のおかげで大幅な配置換えが実現出来たよ」
「配置換え? 人事異動的な?」
「ああ」

 中堅若手から研修中の身まで多くを大会に投入して、個々の身体と精神面の様子を観察し、必要あれば配置換えや新規配属にいかしたそうだ。警備隊から騎馬部隊へ異動したり、その逆もしかり。
 確かに一つの指標として判断基準にするのもありだな。

「そんなことしてたんですか」
「はは、最後はどこにも所属してない学生に持っていかれたからなあ」
「司令!」
「君との茶会が褒美になって、若手達はやる気を出ていたから、成績は各々良かったんだが」
「あら、嬉しいです」

 あの褒美はディエゴのみ需要ありだったから、彼の力がいかんなく発揮されてしまった。周りは不運に巻き込まれた、その程度だ。
 結果はともあれ、司令のお仕事に役に立てたならよしだ。ただの娯楽としてうまくいくだけに留まらず、それ以上の結果を知らないところで出せるなら十分意義がある。

「いっそ私も参加して君との茶会に取り付けたかったよ」
「司令とならいつでも茶会しますよ?」
「いいねえ! しかし許しが得られるかな」
「誰のです?」

 にやにやしながら司令がディエゴを見ていた。対してディエゴは営業用の顔だ。そして残念ながらディエゴに決定権はない。必要があれば通常通り司令と茶を飲むこともあるだろう。十中八九、商談になると思うけど。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「チアキ、どちらに向かう?」
「な、中庭に」

 司令との会話もそこそこに終わったまでは良かった。そこからも進めば進むだけ話し掛けられる。社交界なのだから、それは当たり前だ。
 問題はその数。事業のことやオリアーナの為だと、だいぶ交遊関係を広げていた。これが仇になるとは。それでも会場の半分はオリアーナが対応してくれているのだから、マシな方。あれだ、エステルトットが戻って会場の人達を集客してもらわないと、こちらはなかなか自由にならない。

「ほら」
「ん、ありがと」

 ディエゴがさりげなく飲み物渡してくれた。すごいな、この中で私の好きなワインを引き当ててきた。おばあちゃん、あなたの教育は完璧ですよ。バルコニー族の割に顔も広いし、社交の付き合いに慣れている。
 自らバルコニー族になる必要なかったよ。ここまでスマートにエスコート出来るなら、そこらへんの令嬢方は天にも昇る心地なんじゃないの。すごいぞツンデレ。

「警備が多いね」
「今日は司令のような軍部関係の長がいらしているのもあるし、配置換えした部隊で導線がうまくいくか確認も兼ねている」
「へえ」

 なるほど、理にかなってる。さすが司令よ。

「……、た」
「……め、……で」
「ん?」

 ひそひそ聞こえる声は探したところ、真上だった。ディエゴお気に入りのバルコニーか。見上げると結構高さあるな。叔父はここから落ちたのか。

「全然、…………ない、」
「、ど、…………せ、いの」

 声から分かるのは若い男女。雰囲気からして恋愛の甘い感じでもないし、告白シーンでもない。少しいちゃついてくれるなら、耳だけで癒しを堪能するというのに。

「どうした」
「しっ! 静にして聞こえない」
「何を」

 上を指差して耳に手を当て聞いてる雰囲気をだせば、ディエゴは察して眉根を寄せて咎めてきた。

「盗み聞きは良くないと」
「いちゃつくなら見逃すわけにはいかない」
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