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「いえ、私の方からは何も。お屋敷の様子をご覧になって何か勘付かれたかもしれませんが、特に事情はお話しておりません。本日はお忍びで旦那様のお見舞いにいらっしゃったようです。診察の際も同席され、医者の話も聞いておられました。アシェル坊ちゃまの事も、気にかけていらっしゃいましたよ」
 訥々と冷静に返されて、アシェルは静かに肩の力を抜いて車椅子にもたれた。小さく息をつく。
「そうか、よかった……」
 王妃となったフィアナにはもちろん、ジーノにもアシェルは父の容態はともかくとしてノーウォルトの現状は伝えないよう、じぃにはしつこいほど念を押して命じていた。
 妹も兄も、家族には甘い。現状を知れば金を工面しようと必死になるだろう。それが父の為に使われるのならばアシェルも気にせず甘えるが、金があるとなればウィリアムとメリッサがドレスやら宝石やらに使ってしまうのは明白だ。そんなことになってしまえば、婿に行ったジーノは婚家での立場が無くなり責められるだろうし、フィアナなどは国の金に手を付けたと国民に糾弾されるかもしれない。ドレスや宝石の為に兄妹を非難の的にするわけにはいかないのだ。
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