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第1章

71捕獲①

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 レオラムは勢いよく飛び出したはいいが、すぐに護衛に捕まった。スキナーがぬっと前に立ちはだかる。

「レオラム様、どこへ」

 手紙の内容にあまりにも頭に血が上っていたが、彼らの存在に気持ちが少しだけクールダウンする。
 聖女みたいに騒動を起こして周囲に迷惑をかけるのは本意ではないので、レオラムは熱していたものを吐き出すようにふぅーと大きく息を吐き出した。

 彼らもレオラムの安全の確保と居場所の確認が仕事なので、用件をしっかり言えば通じるのだ。何度かの失敗から学び、レオラムは気持ちを整える。衝動的な行動は何も良いことを生まない。
 ぎゅっとカバンを掴み、真剣な顔で切々と訴えた。

「ギルドへ行きたいと思います」
「わかりました。我々もお供させていただきます」
「レオラム様。よろしくお願いします」
「はい」

 スキナーとマクベインにじっと見つめられ、レオラムは頷いた。すぐに彼らはレオラムに合わせるために手早く仕事を調整し、後を付いてくる。
 景色や他のことが入ってこないまま、急く気持ちを押し殺し王城を出てギルドに到着すると、茶の白髪交じりの熊みたいに大柄なギルド長を捕まえて、二人きりで話せるように急かす。

 忙しいギルド長に一時間待てと言われ、時間をもらえるだけありがたいのだがじっと待つ間は長く、レオラムはぎゅっと拳を握りしめながら、護衛二人を気遣うこともできず妹の手紙のことで頭がいっぱいになった。
 あり得ない、なにかの冗談だと思いたいが、冗談を言うタイプではなかったはずだし、だけど会わなかった数年の間を知らないので身内なのに絶対こうだと言い切れなくて、いろいろやりきれなくて、思考がぐるぐるした。

 こんなに気持ちが熱くなったのは久しぶりだ。自分のことではないから、余計にどのように吐き出したらいいのかわからない。
 八つ当たりしても仕方がないと思うのに、ぬぼぅと緊張感がなく口髭を撫でながら、待たせたなと現れたギルド長の腕をレオラムは掴む。

「おおっ。どうした?」
「いいから。早く」

 目上の、しかもお世話になっている相手への態度ではないが、一刻も早く確認がしたくて大きなブライアンを引っ張る。
 ダニエルと深い関係があるこの大人にしか言えなくて、手段がないから安直に頼る自分の未熟さを感じながら、それでも収まりきらない気持ちで部屋に入ると詰め寄った。

「ギルド長、あの人、いったい妹に何をしたのでしょうか? 何か聞いてますか?」
「おいおい。いつになく熱いな」

 レオラムの勢いを面白がりながら言われるまま動いていたブライアンは、口髭を撫でながら笑う。こっちは深刻だというのに、それが伝わらなくてレオラムは唇をかんだ。
 いつになく、という言葉に掴んでいた腕を離す。

 最近、少し気が緩んでいるのか、前より感情を抑えることがうまくできない。
 これではいけないとゆっくりと瞼を閉じ大きく息をし、レオラムはなるべく感情を表に出さないように口を開いた。

「普通です」

 激して揺れ動いていた双眸が一度伏せられ、再び開いたときにはそれらの感情は消えていた。
 ブライアンは難儀な青年に苦笑する。 

「普通ねえ。この前来た時はいい感じで少し肩の力抜けて感情出してきたと思ったんだがな。それで、あいつがどうしたって?」
「大事な妹に変なことしてませんか?」
「ダニエルがか? 変なことって?」
「手を出すとか、洗脳とかです」

 バカ兄と書いていたということは、ダニエルが何かを言ったに違いないと思う。
 認めたくはないが、妹はダニエルをとても信頼しているから、何をどう話したか気になる。

 百歩譲って、バカ兄はいい。
 あんなに可愛かった妹がとは思うが、自分もまったく考えもしなかった現状であるカシュエル殿下との関係のことを思うと、妹だけが変わらないと思い込んでいるのはエゴであると待っている間に思い至った。
 何か文句があってのそれは、しっかり話し合えばわかりあえるはずだ。だが、最後の一文だけはいただけない。

「洗脳!? 手を出すもあいつに限ってないな。妹は16なのだろう? ああー、絶対ないない。年の差いくつだと思ってるんだ」
「言い切れますか?」
「それは言い切れるな。何があった?」
「言葉にしたくもありません。とにかく、一刻も早く真相を確かめたいので帰りたいと思います。前に話してた馬車の手配を今すぐにでもお願いします」
「今すぐって言ってもお前、そっちはいいのか?」
「そっち?」
「レオラム、それはないだ、ろう……ぅお!?」

 レオラムが首を傾げると、呆れ返った視線を向けていたブライアンの双眸が驚愕に見開かれていく。一時臨戦態勢を取り手を構えたが、解かれ降ろされる。
 何事かと考えるより先に知った魔力の気配に気づくと同時に、ヒヤリとした平坦だけど脳髄に響く美声とともに背後から抱きしめられた。

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