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7.元聖女は辺境の地を訪れました。
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「いやぁ、しっかし、アイザック、でっかくなったなぁ。それにヴィクトリアと結婚してるなんてな! アイザックにはもったいねぇなぁ」
案内されたテントで、ライガはどことなく沈んだ表情のステファンに話しかけた。
「いや……、それは本当に良かったと思ってるよ。ヴィクトリアはあいつのことがずっと好きだったし」
はぁ、とため息深く答えたステファンの背中を、ライガはばしばし叩く。
「あんまあいつの言ってたことはさぁ、気にすんなよ。――あいつ、俺のことは無視しやがって。そういうとこ変わってねぇよな。やっぱ、俺、アイザック苦手だわ」
「――気にしてないよ。それより、早く寝ようか。戦ったばっかりだし、ゆっくり休んだ方がいいよ」
絶対気にしてる様子でステファンは呟いて、床に座って荷物の整理を始めた。
「ねぇ、ライガ、フィオナさんって人がステファンの妹?」
さっきから知らない人の名前が飛び交って、頭に疑問符が渦巻いている私は、こっそりライガに聞いた。
「そうそう。フィオナのやつ、まだ家にいたんだなぁ。結婚して王都かどっかに行ってると思ってたぜ」
ライガは感慨深そうに呟いた。
「ヴィクトリアさんっていうのは……」
「ヴィクトリアはもともとステファンの婚約者だったアスガルドの姫さんだよ。美人で優しくて、いい人だ」
美人で優しくて……って、ライガがそんな風に女の人を褒めるの初めて聞きましたけど……。私はけっこう、びっくりした。相当、綺麗な人なんですかね……。それにお姫様ですか!
――というか、それよりも。
「ステファン、婚約者、いたんですね」
「一応、辺境伯の長男だからね」
ステファンは苦笑気味に言った。
何だか、アイザックさんが来てから、ステファンずっと笑っても苦笑顔ですね。
――そうですか、大司教様が勝手に私とエイダン様を婚約者にしてましたけど、貴族の人っていうのはみんな婚約者がいるものなんですね。元婚約者が弟と結婚……何だか複雑ですね。ソーニャから借りた、最近流行っているっていう、物語みたいです。――数年ぶりに結婚した元婚約者に再会して、何かが起こっちゃったりするんでしょうかね。
「――そういや、アイザック、『ヴィクトリア様』って言ってたな。自分の奥さんに様付けか? あいつらしいっちゃ、あいつらしいけど……」
思い出したようにライガは呟いて、それからステファンの肩を叩いた。
「しかし、アイザックが女といるとこ想像できねぇな。あいつのことだから、もしかして……」
ステファンがどさっと布団をライガの上に左手だけで投げつけた。
「――お前は寝てろ」
それから、申し訳なさそうに私を見た。
「――何か、家族のごたごたを見せてごめんね。父さんが倒れてるなんて思わなくて……。いつも『思わなくて』ばっかりだな、そういえば」
そう呟いてから、言葉を続けた。
「でもたぶん、父さんの昏睡の原因は――、父さんの取り逃がした鬼が増えたことにあると思うんだ」
「鬼が原因とは?」
エドラさんが興味深そうに身を乗り出す。
「あの鬼の怒りの感情はすごかった。たぶん、あの鬼や小鬼たちは、あそこで辺境民を襲うつもりはなかったんじゃないかな。……言葉を話すレベルの鬼になると、相当賢い。たぶん、父さんのいる領地内を襲うための下見をしていて――、僕に父さんの何かを感じて、急に襲う気になったんじゃないかな。『見つけた』って言ってたなら、たぶんそういう意味じゃないかと思うんだ」
「それと、辺境伯殿が倒れたことに関係があるか?」
「鬼は魔法を使うし。魔法っていうのは、感情と結びついてる。特に、魔物の使う魔法は、人間より感情的だし。あれだけの怒りの感情を持った鬼がたくさんいるなら、その影響はありそうじゃないかな」
魔法と感情が結びついてるですか……。私が怒ると火の精霊が反応して、周りで爆発起こったりしますもんね。あれ、でも、それって、私、魔物寄りっぽくないですか。
ちょっと複雑な気持ちになりますね……。
「……それは、考えられるな。呪いのようなものとでも、言うべきか。――しかし、冒険者も日常的に小鬼は殺すだろう。それで、恨まれて呪われた事例は聞いたことがないが」
「父さんは人の何倍も鬼を殺してますからね。――家に帰ったら、母さんにも聞いてみます」
ステファンはそう言って、また荷物の整理を始めた。
案内されたテントで、ライガはどことなく沈んだ表情のステファンに話しかけた。
「いや……、それは本当に良かったと思ってるよ。ヴィクトリアはあいつのことがずっと好きだったし」
はぁ、とため息深く答えたステファンの背中を、ライガはばしばし叩く。
「あんまあいつの言ってたことはさぁ、気にすんなよ。――あいつ、俺のことは無視しやがって。そういうとこ変わってねぇよな。やっぱ、俺、アイザック苦手だわ」
「――気にしてないよ。それより、早く寝ようか。戦ったばっかりだし、ゆっくり休んだ方がいいよ」
絶対気にしてる様子でステファンは呟いて、床に座って荷物の整理を始めた。
「ねぇ、ライガ、フィオナさんって人がステファンの妹?」
さっきから知らない人の名前が飛び交って、頭に疑問符が渦巻いている私は、こっそりライガに聞いた。
「そうそう。フィオナのやつ、まだ家にいたんだなぁ。結婚して王都かどっかに行ってると思ってたぜ」
ライガは感慨深そうに呟いた。
「ヴィクトリアさんっていうのは……」
「ヴィクトリアはもともとステファンの婚約者だったアスガルドの姫さんだよ。美人で優しくて、いい人だ」
美人で優しくて……って、ライガがそんな風に女の人を褒めるの初めて聞きましたけど……。私はけっこう、びっくりした。相当、綺麗な人なんですかね……。それにお姫様ですか!
――というか、それよりも。
「ステファン、婚約者、いたんですね」
「一応、辺境伯の長男だからね」
ステファンは苦笑気味に言った。
何だか、アイザックさんが来てから、ステファンずっと笑っても苦笑顔ですね。
――そうですか、大司教様が勝手に私とエイダン様を婚約者にしてましたけど、貴族の人っていうのはみんな婚約者がいるものなんですね。元婚約者が弟と結婚……何だか複雑ですね。ソーニャから借りた、最近流行っているっていう、物語みたいです。――数年ぶりに結婚した元婚約者に再会して、何かが起こっちゃったりするんでしょうかね。
「――そういや、アイザック、『ヴィクトリア様』って言ってたな。自分の奥さんに様付けか? あいつらしいっちゃ、あいつらしいけど……」
思い出したようにライガは呟いて、それからステファンの肩を叩いた。
「しかし、アイザックが女といるとこ想像できねぇな。あいつのことだから、もしかして……」
ステファンがどさっと布団をライガの上に左手だけで投げつけた。
「――お前は寝てろ」
それから、申し訳なさそうに私を見た。
「――何か、家族のごたごたを見せてごめんね。父さんが倒れてるなんて思わなくて……。いつも『思わなくて』ばっかりだな、そういえば」
そう呟いてから、言葉を続けた。
「でもたぶん、父さんの昏睡の原因は――、父さんの取り逃がした鬼が増えたことにあると思うんだ」
「鬼が原因とは?」
エドラさんが興味深そうに身を乗り出す。
「あの鬼の怒りの感情はすごかった。たぶん、あの鬼や小鬼たちは、あそこで辺境民を襲うつもりはなかったんじゃないかな。……言葉を話すレベルの鬼になると、相当賢い。たぶん、父さんのいる領地内を襲うための下見をしていて――、僕に父さんの何かを感じて、急に襲う気になったんじゃないかな。『見つけた』って言ってたなら、たぶんそういう意味じゃないかと思うんだ」
「それと、辺境伯殿が倒れたことに関係があるか?」
「鬼は魔法を使うし。魔法っていうのは、感情と結びついてる。特に、魔物の使う魔法は、人間より感情的だし。あれだけの怒りの感情を持った鬼がたくさんいるなら、その影響はありそうじゃないかな」
魔法と感情が結びついてるですか……。私が怒ると火の精霊が反応して、周りで爆発起こったりしますもんね。あれ、でも、それって、私、魔物寄りっぽくないですか。
ちょっと複雑な気持ちになりますね……。
「……それは、考えられるな。呪いのようなものとでも、言うべきか。――しかし、冒険者も日常的に小鬼は殺すだろう。それで、恨まれて呪われた事例は聞いたことがないが」
「父さんは人の何倍も鬼を殺してますからね。――家に帰ったら、母さんにも聞いてみます」
ステファンはそう言って、また荷物の整理を始めた。
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