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H-4.日常と、再会 1
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今日も、両親は家に居ないらしい。物音ひとつせず、朝の準備を終える。
コンビニに寄って、お昼に食べるおにぎりを買う。朝練の時間帯で高校生は見ないし、売り切れも少ない。きっと、平日に寄るならこの時間がベストだ。
生活に関わるお金は、両親が適当に、リビングに置いている。父親と母親で共有していないらしく、それぞれがテーブルに銀行の封筒を置いて行くから、基本的に金銭面で困ることはない。家賃とか光熱費も、家に届く支払用紙を使ってそのお金からコンビニで払ってる。
この先の進路を考えた時に、親と話し合いができるとは思えないし、ある程度は貯めておくのも必要。だから、カフェに行く頻度も制限をかけないといけない。
月に何度か、リビングのテーブルに置かれてるお金を、ATMに移すのもコンビニでやってしまう。地方関係なく、使えるから。たぶん、葦成には使ってる大手銀行の直営ATMもあるだろうけど。
学校での授業は、一方的に知識を植え付けてくる。そこまでは好きの範囲内だけど、考えている間に話が次へと進んでしまう。テキストを見ながら、自分で進める方がやりやすいと思うのは、私だけなんだろうか。きっと、その感想を持つのは、この学校でも一緒だ。
(勉強自体は、嫌じゃないんだけどな……)
今日はまだ、夏休み明けの課題テストの実施日だから、マシな方なんだろう。転入生が珍しいのか、休み時間になるとみんなが話しかけたそうにソワソワしている。そんな隙を与えないように、本を広げる。
どこの学校へ行っても変わらない。クラスメイトと話して楽しいなんて、私には思えない。
☆
昼休みになって、クラスメイトは机を動かして、仲が良い者同士で食べるみたいだけど、さっとおにぎりを食べて席を立つ。
初日から友達ができることは、とっくに諦めている。もし居たら、学校案内を買って出てくれたかもしれないけど。早いうちに、図書室の規模と蔵書を確認しておきたかった。
ホームルーム教室からそう遠くない、渡り廊下で繋がった別館の一階に、図書室はあった。担任からもらった校内地図によれば、このフロア全てが図書関連の教室で、閲覧室と書庫、図書準備室と分かれている。
冷房が掛かっていてドアは閉まっているけど、開室中の文字が下げられている。ありがたいことに、生徒が来ているようには見えない。
閲覧室の中に入ると予想通り、生徒は見当たらない。一学年八クラスの高校に相応しい、広い図書室だと思った。貸出カウンターにすら人がおらず、呼び鈴が置いてあるだけだった。
授業で使うこともあるんだろうか、机の置いてあるスペースもあって、せっかく広いのに利用者がいないなんてもったいない。でも、それがありがたい。何かあれば、ここには逃げ込める。
「あら、珍しい」
カウンターの方から声がして振り返ると、先生が立っていた。おそらく、司書さんだろう。担任は職員室にいるけど、養護とか司書とか専門職の先生は準備室にいることが多いのは、どの学校でも変わらない。
「初めましてよね?」
「あ、はい」
話しかけられて、断る理由もなくクラスと名前を言った。熱血系の担任とは違って、メガネを掛けて大人しく見える、いかにも司書の先生だった。
「二学期からの転入なのね、貸出には学生証が要るから、もらってからになるわ」
「分かりました」
「何かあれば、鳴らしてくれて構わないから」
「はい」
先生はカウンターで作業があるらしく、それ以上会話を続けることはしなかった。そもそも、図書室だから私語は基本禁止の場所だ。
広いけど、生徒はいない。きっと、明日も来ることになる。普段から、この調子で人が少ないと助かる。
予鈴が鳴って、教室に戻る前に姿が見えたから会釈をすると、笑顔で手を振られた。見た目は真面目だけど、フランクな先生かもしれない。
(……担任よりは、話しやすそうな先生だった)
☆
午後からの課題テストも終えて、中央駅前の混雑したところだけは歩くけど、自転車を走らせる。その先、どこへ寄って帰ろうか。図書館に行って自習するにも、授業の進み具合も分からないし、ここは散歩して時間を潰そうか。いざとなれば、日陰のベンチで本を読んでもいい。
道案内に従って、市民の広場へ入る。途中にあった看板によれば、ランニングコースを兼ねた通りがぐるっと巡らされていて、歩きがいがありそうだった。
まだまだ暑いけど、駅前より涼しく感じるのはきっと、周囲の木陰と小さな川のおかげだろう。自転車を押しながら進むと、何か楽器の音がする。
ストリートミュージシャンだとすれば、目立つ中央駅前の人の多いところでやるだろうし、穴場そうな人気のない道で、隠れて練習している人がいるんだろう。人のいない道を求めてるのは、私も同じ。本を読める場所が増えるのは助かるし、少し見てみたい。
ランニングコースから外れて、日陰になった少し細い道に入る。ちらっと見て戻るはずが、固まってしまった。
(っ……)
見間違いじゃなければ、そこでギターを鳴らしているのは、彼だ。昨日、カフェで見た運動部系の他校生。手前に停まっている自転車も同じに見える。私服だから、本人かどうか自信はない。
動けないでいたら、手を止めた彼がこっちを向いた。見つかった。一旦は遠くに目を逸らしたものの、あからさますぎて結局顔を上げた。
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