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第十一話 過酷な薬草探しの旅始まり

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 投げ捨てた銀貨三枚とグラサンを床から回収すると、助けた少女と一緒に冒険者ギルドを出た。
「おい、ゴミ捨てくんじゃねえよ。殺すぞ」と極悪爺に脅されたら、誰だって持ち帰る。

「何だか分からないですけど、ありがとうございます」
「ああ、うん。分かんないよね。あっははは」
「んっ⁇」

 黒グラサンをまだ余裕のある白鞄にしまっていると、よく分からないって顔で少女がお礼を言ってきた。
 まだまだ子供、下衆な男が言う『身体で払ってもらう』の意味が分からないみたいだ。
 純真無垢な少女だけど、私が助けなければ、大人の階段上った少女になっていた。
 そうなると経験済みの大人の先輩少女になるから、未経験の私は敬語で話さなければならない。

「こほん」

 とりあえず馬鹿なこと考えてないで依頼に集中しないと。
 純真無垢なままの少女に人生の先輩として訊いてみた。

「幻の薬草を探してるんだよね?」
「はい、そうです。何とか今日中に手に入れたいんですけど……」
「分かった、任せておいて! 置いてありそうな店に心当たりがあるから!」
「本当ですか⁉︎ あ、ありがとうございます!」

 少女が悲しそうな表情で答えたので、無い胸をドンと叩いた。
 私の頼もしい態度に、少女が茶色い瞳をキラキラ輝かせている。
 私の初めての依頼人だ。この子と本当に重病なお母さんの為にも頑張るしかない。
 まずはエロ爺の雑貨屋だ。エロ爺なら可愛い少女のお願いなら何でも聞いてくれる。
 
「あっ、名前教えてもらってもいいかな?」

 流石に少女Aとは呼べないので名前を訊いてみた。

「ペトラです。よろしくお願いします」
「よろしく。私はルカ、ルカでいいよ♪」
「はい、ルカさん」

 雑貨屋まで時間があるので、少女A改め、ペトラと話をする事にした。
 探している薬草は森にあって、森には『魔物』と呼ばれる凶暴な動物がいるそうだ。
 年齢は十二歳で、お母さんと二人暮らしだそうだ。
 顔が良かったチャラい父親は十年以上も前に他所の女と遠くに出掛けたそうだ。
 見つけたら玉を削ぎ落としても許されるタイプの屑男だ。

 だけど、屑男を見つけるのは最終手段だ。
 今はもしもの事を考えるよりも、お母さんの病気を治すのに全力行動だ。
 どうせ屑男を見つけても、ペトラを大切に育てる責任なんて取れるわけがない。
 あの釣り道具の私物が多かった雑貨屋に探している幻の薬草があるなら、それで問題解決だ。

 だけど、見つからなければ、過酷な薬草探しと父親探しの旅に出掛けなければならない。
 その場合は食糧とか水とか色々準備しないといけなくなる。
 そうなると報酬よりも旅費にお金がかかってしまう。
 ……確かに安い報酬で依頼を受けると大損だ。
 でも、私にはエロ爺の軍資金があるから多分大丈夫だ。

「ここだよ」

 目的地の雑貨屋に到着したので、扉を開けてペトラを中に案内した。
 まだスマホの充電は切れてないはずだ。エロ爺が店の奥でハッスルしてなければ。

「んっ? 何だお前か。何か買いたい物でも出来たのか?」

 お楽しみは夜まで取っておくみたいだ。
 カウンターに座っていたエロ爺さんが、チラッと私を見ると、顔をしかめて訊いてきた。

「妖精の薬草を探してるんですけど売ってますか?」
「何を言って……いや、うちの店には置いてないな。貴重な品だ。この辺で手に入れるのは無理だぞ」
「そうですか……」

 単刀直入に訊いてみると、エロ爺が私とペトラを順に見てから答えた。
 やはりエロ爺だ。もしもの時はエロ爺にペトラの生活費を出してもらおう。
 この店に必要なのはエロ爺じゃなくて、可愛い店員さんだ。
 生活費じゃなくて、給料だったら、エロ爺も喜んで出してくれるはずだ。

 さてと、エロ爺さんに面倒見てもらうのも一つの手だけど、まだ諦めるのは早い。
 まずは武器買って、食糧買って、薬草探しの旅に出掛けなければならない。
 やる事やらないと、最終手段のエロ爺に預けるのは危険だ。
 給料も出すけど、他にも色々と手とか汁とか出しそうで心配だ。
 白鞄は余裕があるから他の鞄は必要なさそうだ。
 だったら武器はここで買って、食糧は野菜屋のおばさんのお店で買おうかな?

「ん~、何か良さそうな物は……」

 ペトラに「ちょっと待っててね」と言って、雑貨屋の商品を見て回る事にした。
 欲しいのは武器だ。冒険者ギルドの極悪爺も武器がないと駄目だと言っていた。
 剣とか槍は持った事ないし、弓矢なんて絶対に使えない。
 ここは普段から使い慣れた物を選ぶのが正解だと思う。
 だとしたら、古料理部の私が選ぶ武器は包丁と決まっている。

「あんたら覚悟しいやあー‼︎ おい、殺されたくねえなら有り金全部寄越しな‼︎ ……なんか違うかも?」

 包丁無いから、代わりに短剣で使い勝手を試してみた。
 確か暴力団の包丁の使い方はこんな感じだった気がする。
 チンピラが路地裏で、こんな感じに包丁を使っていたのをテレビで見た事がある。
 他にも笑顔で包丁を舐めたり、左右の手で包丁をボールみたいに投げて行き来させたりしていた。
 
「……おい、ちょっといいか?」

 どの短剣を買おうか悩んでいると、エロ爺がこっそり静かに近づいてきた。
 スマホでペトラの姿を撮って欲しいとお願いに来たのかもしれない。
 まったくエロ爺め。でも、これで短剣はタダで貰えるぞ♪

「多分知らないだろうから教えてやる。妖精の薬草は何処にも売ってない。存在しない薬草だ。探すだけ無駄だぞ」
「えっ⁉︎」

 エロ爺が小声で予想外の事を言ってきた。
 それが本当なら病気のお母さんを助けられない。
「でも……」と否定しようとしたけど、エロ爺が続けて伝えてきた。

「妖精の薬草ってのは助からない病人とその家族に最後の希望として使うもんだ。儂も長く商売しているが、妖精の薬草なんて物は、一度も見た事も誰かが手に入れたと聞いた事もない。可哀想だが、あの子に本当の事を伝えるか伝えないかは、お前が決めるんだな」

 そんなぁ~。全然知らなかった。道理でギルドの誰も依頼を受けないわけだ。
 無い薬草を探すなんて無駄なんだから、今からでも断った方がいいけど……
 ぐっ、そんな事できるわけないでしょ!

 それに無駄とか意味ないとか私が決める事じゃない。
 包丁に近い形と長さの片刃のナイフを手に取ると、エロ爺に訊いた。

「これ、いくらですか?」
「銀貨三枚だが……いや、好きにしろ。気を付けるんだぞ」
「はい!」
 
 ペトラが探して欲しいと言ってるんだ。私の仕事はあると信じて探すだけだ。
 短剣と革水筒(マロウ酒入れ)を購入すると、野菜屋のおばさんの店で食糧を買った。
 これで準備は完了だ。ペトラと二人で近くの森を目指した。
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