上 下
669 / 803
後日談

2

しおりを挟む
「アーシュお義姉様。どうかなさいましたか?」


 リラがエドワルドと共に現れ、アシュリーに声を掛ける。


「リラ様。大した事では有りません。少し場の雰囲気に気圧されてしまっただけですわ。これ程規模の大きな夜会は初めてですから。年越しの夜会でも、規模が大きく人が多いと思っていましたが、社交シーズンは比べ物にならない程に人の数が多いのですね」


 地方では、近隣の貴族が集まりはするが、密集地では無いので、多くても数十人規模が殆どだ。

 例外として、あの顔の広い子爵が主催する時は、百人近く集まる事も有るようだが、地方でそれ程集まる事は無いだろう。

 その為情報収集しようにも、地方の他愛無い情報ばかりで、王都の情報が入ったとしても、既にその流行が終わっていたりする事が多々有る。

 地方の貴族で王都の最新情報を持っているのは金持ちか、王都に強力なツテが有るかだろう。

 アシュリーからすれば、王都はお伽噺とぎばなしのような場所だったのだ。

 それが今や、国の中枢を担う家柄に嫁ぐ事になるとは、世の中何が起こるか分からない物だと、アシュリーは思っている。


「アーシュには、私もリラも居るのだから、大丈夫だよ。それに何より、国王夫妻が私達の婚姻を認めて下さっているのだから、それに否を唱える事は、家臣として有るまじき事だよ」


 それは既に、婚姻許可証を手にしている事を、暗に教えているような物だ。


「それは知りませんでした。おめでとう御座いますジーン兄様、アーシュお義姉様。陛下のご意向に逆らう者は、エヴァンス家の名に懸けて、徹底的に排除して下さいませ。わたくしも、微力ながらお手伝いさせて頂きますわ」


 リラがジーンの言葉に、追い討ちを掛けるように、遠巻きながらも聞き耳を立てていた貴族達に聴こえる声で言う。

 勿論、外用の無表情で。

 だがそれは、聞き耳を立て、こちらを窺っていた貴族達にとっては絶大な威力を放っていた。

 リラにその気は無かっただろうが、それはリラを溺愛しているクルルフォーン公爵も、確実に敵に回ると宣言しているような物だ。

 リラが手伝うと言うのに、静観だけするようなエドワルドでは無いのだから、当然の事と言えるだろう。


「有難うリラ。勿論、エヴァンス家の名に恥じないように、全力で排除する事を誓うよ。私とて、漸く見付けた理想の花嫁に逃げられたくは無いからね。国王夫妻が来たようだ。ファーストダンスが終わったら、私達も踊ろう」

 ジーンはアシュリーの手袋に包まれた指先に、軽く口付ける。

 周囲から、物凄い嫉妬と憎悪の視線を向けられるが、アシュリーはジーンの甘く優しい視線と微笑に為す術も無く、真っ赤に顔を染め上げるだけだ。


「はい。宜しくお願い致します」


 アシュリーはジーンと初めて踊った時の事を思い出しながら、火照った顔でそう答えた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

誰得☆ラリクエ! 俺を攻略するんじゃねぇ!? ~攻略!高天原学園編~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:242pt お気に入り:13

最弱な彼らに祝福を~不遇職で導く精霊のリヴァイバル~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:9

子供の頃結婚の約束をした男の子は魔王でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:328

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:1

祭囃子と森の動物たち

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:1

太陽と月

ko
BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:250

段級位反転 ~最強の魔導士は最弱に成り下がる~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:2

処理中です...