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第五章 残酷な世界

268 知識を

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 パラパラと本のページを捲り、他に世界樹を再生させる方法は無いのかと探す私の側で。

 香り高いお茶を手際よく優美に入れてくれるのは。

 漆黒の騎士服を、溢れる出る色香と貴族特有の気品で優雅に着こなす微笑んだら落ちない女はいないだろう男。

 ……執事服もいいが騎士服も良い!

 何を着ても似合うとか美形は反則だよなとその美しい立ち姿に見惚れつつ、入れてくれた温かなお茶と色とりどりの美味しいお菓子を貪りながらひと息ついていると。

「カレン? これから少し出掛けるから、それ飲んだら外出の準備するぞ」

「へ? お出かけって……いったいどこに……?」

 普段私の事を外に出したがらないエディが、外出するとか珍しい事を言い出した。

「……アルス王立魔法学院。あまり行きたくはないが……仕方がない、これ以上危ない攻撃魔法を好き勝手行使するのなら基礎くらいはしっかり学べ、カレンお前みたいな天才なら数時間で済むだろ?」

「魔法学院? でも、今さら誰かに教わらなくても魔法使えてるよ、何を今さらこの私に学べと……? そんな事してる時間……無いんだけど」

「魔力制御の方法と基礎的な事を全部、あれは仕方なかったにしても魔力暴走するのは基礎的な知識がないからだ……時間が無いのは確かにわかるが一日だけ時間をくれないか? お前の事が心配なんだ」

 まるで懇願するようにエディは私の事を心配だと言って、眉間に皺を寄せて憂いを帯びた顔をするから。

「……エディは心配性だね?」

 

 外出用の可愛らしい服に着替えて馬車に乗る。

 今日も今日とてエディの選んでくる服や小物は可愛らしくて、鏡に映る愛らしい自分の姿に辟易としてうんざりと肩を落とした。

 ……まあ、確かに?

 私にこの可愛いらしい装いは私情を一切いれなければ、たぶん似合っているとは思う。

 だが、幼く愛らしく見えてしまう自分が嫌だ。

 どうして私達は双子なのに、クリスティーナはあんなに大人っぽくて私はこんなに幼く見えるのか?

 ……解せぬ。

 そして馬車にガタゴトと揺られて向かう王立魔法学院とやらは、不特定多数が出入りする場所らしくエディだけの護衛では人手不足だとしてイーサンも一緒に行くことになった。

 一応執行官にも魔法を学びに行くと伝えたら、また何やら用事があるとかで私の首に特権の首飾りが付いてる事だけを確認してどこかへ消えた。

 だが執行官の奴はいったいいつになったら世界樹の麓に帰るのだろうか?

 私は大丈夫なんだから、さっさと帰れ……!

 裏でちょろちょろ暗躍すんな……!

「僕、魔法学院は久し振りです!」

「へえ? イーサンもその……魔法学院とやらに行った事……あるんだ?」

 イーサンが魔法学院に行くのは久方ぶりだと、嬉しそうに笑顔で告げる。

「ええ、ありますよ? この国の貴族子女は例外なくみんな魔法学院で魔法を学び社交をします、オースティン団長も通ってらっしゃいましたよね?」

「ああ、まあな……今は末の妹も通ってるし」

 イーサンの問いにエディは何か嫌な事でも思い出したのか、一瞬険しい顔をして答える。

 その一瞬の表情で、あまり魔法学院に良い思い出はないらしい事がありありと伝わってきた。

「ふむ……そうなんだ、イクスには学校なんて無いからなあ……国立図書館を全国民に無料開放してて学びたいなら勝手に学べ、だからね」

 貴族子女はみんな行く所なのか、もし私が魔力を持って産まれていたとしたら?

 魔法を学ぶ為にその学院に自分もクリスティーナと一緒に通っていたかもしれないなと、少し想像して。

 ……憂鬱になった。

 絶対に完璧淑女のクリスティーナと事あるごとに比べられて、私の学院生活は悲惨だったであろう……!

「全国民に無料開放?! それはそれですごいですね……絶対それ巨大建造物ですよね」

「うん、それなりに大きいね? でもまあ、一般市民が利用できる区画は狭いし蔵書も少ないんだけどね、基本的に錬金術師専用だから」

「イクスって錬金術師が沢山居るんですもんね、カレン様みたいな方がいっぱい……! 一回遊びに行ってみたいです!」

 国立図書館を全国民に無料開放している事に驚いて興奮したイーサンが、イクスに一度行って見たいと言うが。

 高い魔力量を有してアルス貴族であるイーサンでは、コネなしだと入国審査が厳しくイクス入国はほぼ不可能だと思う。

 エディが易々と入国出来たのはイクスからの要請と、国際連合のコネを使ったから。

「錬金術師達の国だからねイクスは、全てにおいて錬金術師は優遇される、逆に錬金術師でなければあまりいい国とは言えないかもね? だから執行官がケチつけてくるんだけど」

 いちいちうちの国に執行官がケチつけてくる要因の一つは、錬金術師にだけ有利な法律と制度。

 それは錬金術師達の国だから仕方ない事で、優遇されたければ錬金術師になればいい。

 それでも嫌なら国を出ればいい。

 まあ。

 執行官がイクスという国や制度を嫌う一番大きな要因は別にあるけど、それはもうどうしようもない。

 それに私は理由はなんであれ最高位の錬金術師、名実ともに国の礎となって国を支える者。

 だから国の運営に私情は挟めない。

「執行官とカレンは、仲良いのか悪いのか……本当によくわからないな?」

 エディが笑いながら執行官と私が仲が良いとか言ってくるが、全然そんな事はない。

 私に仲良くするつもりがないから!

「狂信者達と仲が良いわけないじゃん?! 私のこと英雄とか言い出しやがって! なんて迷惑な……!」

 そんな取り留めもない会話を交わしていたら、馬車がゆっくりと静かに止まった。

 ふと気になってカーテンを開けて窓の外を覗くと。

 アルス国の王城よりも遥かに重厚で巨大な要塞のような建造物が、眼前にお目見えした。
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