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第五章 残酷な世界

254 召集

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 元気になったらお腹が空いた。

 研究室として貸し与えられた部屋を出て軽い足取りで、なにか食べるものはないかとガルシア家の調理場に足を踏み入れたら。

 私の屋敷の料理長トーマスもそこには居て、ガルシア公爵家の使用人達にも何故か大歓迎された。

 ただ動く為だけに私は食事を摂っていた。

 最近は味なんてもうどうでもよくなってたのに、トーマスに作ってもらった料理の温かさと、私好み作られた味付けがとても嬉しいと感じられて。

 それは愛想笑いじゃなくて。

 作った笑顔でもなくて。

 自然に私は笑顔になって、笑うことが出来た。

 そこへ険しい顔をしたエディと何故かルーカスもやってきて、研究室からいなくなった私を責める。

 だが私はちゃんと屋敷内にいるのだからそんな怒らなくてもとは思うが、心配だったらしい。

 そしてエディから私の治癒の為にガルシア公爵夫妻を呼んだと聞いて、気が重くなった。

 もう大丈夫なのにエディに嫌と言ってるのにも関わらず、無理矢理引きずられるようにしてガルシア公爵夫妻の所へ連れてこられた。

 今にも抱きついて来そうな笑顔の公爵夫人と、おろおろするガルシア公爵に鳥肌が立った。

「カレンちゃん、貴女怪我をしてたって聞いたけどもう大丈夫なの? 顔色は良さそうだけど……」

「……大丈夫です、なにも問題はありません、ご心配をおかけし大変申し訳ございません」

「一応触って見せて貰っていい? カレンちゃんのお薬に比べれば私の治癒魔法なんて大したことないのだけれど……心配なの……」

「っ……手早くお願いします」

 扉の前で絶対に逃がさないとエディが見張っていて、逃げられそうもない雰囲気に観念して。

 公爵夫人に2人きりで身体を見せる。

 死ぬほど恥ずかしい。

「怪我は大丈夫みたいだけど……カレンちゃん貴女今まで一体どんな生活をしていたの? 不摂生にも程があるわよ!」

「うっ……」

 アルスにくるまで一人暮らしだったカレンは研究三昧で徹夜は当たり前、不摂生に不摂生を重ねるような生活を送っていた。

「ちゃんと食事をして睡眠をとりなさい、こんなに痩せて! 骨格の成長もたぶん十歳くらいかしら、途中で止まっちゃってるし、だから貴女ちっちゃいのね……もうこれ以上……背は伸びないわね」

「え……うそ……?!」

「とても残念だけど……」 
 
 聞きたくなかった現実を突然実母に突き付けられたカレンは、ガックリと肩を落としながら自室に帰り枕を涙で濡らすから。

 エディは少しだけ悪いことをしたなと思った。

「カレン……その、うん、悪かったって! ほら泣くな! 俺、背は低い方が好きだし……」

「エディの好みなんてそんなんどうでもいい!」

「どうでもいいって……」

「そんなこと知りたくなかった! 私は絶望した! エディの馬鹿! 禿げろ! 捥げろ!」

「もげっ……怖いからそれ言うのはやめて……」

 妬ましそうにカレンはエディをじっとりと睨み付けて、ふと柔らかく微笑んだ。

「……じゃあ私の好きなところって背が低いのだけ?」

「そんなわけないだろ……? 一晩中ゆっくりとお前の好きなところ語ってやろうか?」

 そういってキスしようとしてたら。
 

「ゆっくり話は、出来ないと思うぞ? 残念だけど」

 勝手に人の部屋に入ってくるお邪魔虫。

 さっさとイクスに帰れば良いものを、一体アルスで何してんのこいつ?

「なにルーカス? 気安く人の話しに入ってくんな、あと勝手に部屋に入ってくんな! えっち!」

「いや……俺も好きでお邪魔虫しに来た訳じゃないよ?! とりあえず本国からお呼びだし、今すぐ帰れってさ、俺にも帰れって伝達きたわ……やだな……」

「……貯まってた仕事はある程度終わらせて来たよ? ったくもう何の用だよ……ルーカスは知ってる?」

 なぜこのタイミングで帰らねばならぬのか。

 今から私はやることたくさんあるのに。

「緊急召集、序列五十位まで全員だってさ、せっかくの休暇なのに……! ストゥルトゥスめ、ほんと嫌い」

「え……それって、もしかして……?」

 ルーカスの言葉に最悪な事態が目に浮かぶ。

「あー違う違う、ただのいつもの小競り合い! なんだけど……それに最高位の一位様が幽閉してる地下から脱走して頼んでないのにご参加中で阿鼻叫喚の嵐、それを止めに行くだけのお仕事! すごく簡単!」

「え……アレに近付くの嫌なんだけど?!」

「お、気が合うなカレン、俺もすごく嫌! でも行かないわけには行かないから……潔く諦めよ?」

「いやだ、諦めたくないー!」

 もっとヤバいやつだった!

 あの人には絶対に近付きたくない。

「盛り上がっている所、大変申し訳ないのですがそんな危険な場所にカレン様をお連れするなんて私は許可致しかねますが?」

 こいつも勝手に人の部屋に入って来やがった。

 なぜエディは部屋の鍵を閉めておいてくれないのか、今さら世間体とか醜聞とかもうどうでもいいよ。

 だがアンゲルスたまにはいい事言うじゃないか?

「……どうして我々イクスが最高位を連れて帰るのに国際連合の許可が必要なんですか? 貴方達に私共への命令権は……無いはずですが?」

 ルーカスが執行官に言い返す。

 なにこいつカッコつけやがって。

「カレン、国際連合にイクスへの命令権がないって……それどういう事だ……? 連合の命令は絶対だぞ?」

 驚いた顔でエディが私を引き寄せて聞いてくる。

「あー……うん、イクスって国際連合に加盟してないからね……敵対はしてないし困った時とかは助け合うし、取り引きはするけど……傘下には入ってないな……?」

「だから……カレンは帰る準備直ぐにして? 簡易転移装置の許可も下りてる……俺、休暇中なのに……最悪だ!」

 ……うん、本当に最悪だ。   
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