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第五章 残酷な世界
253 治癒
しおりを挟む見ているこちらまで痛みを覚えてしまうくらいにその腕は傷だらけで、痛々しいのに。
こんなのはただのかすり傷で、大した事はないと言って、カレンはいつものように笑顔を見せた。
お前のせいじゃない。
お前は世界を救ったんだ。
本当は全てを知っている。
そう告げて、一緒にその痛みを背負いたい。
だけどあの責任感の強い性格じゃ、そんな言葉を受け入れる事は決して出来ないだろう。
それに俺が全てを知っているとカレンが知れば、罪悪感に苛まれその優しい心は壊れていってしまうだろうから。
なにも知らないフリを、続けるしかない。
……もう霊薬ですらその傷だらけの身体を癒せないのに、それでも大丈夫だと笑うその姿があまりにも痛ましくて、どうしようもなく悲しかった。
もしかしたら治癒魔法が得意な者ならば癒せるかもしれないと、縋る思いでガルシア公爵夫人に頼んだ。
ガルシア公爵夫人はこの国で一番治癒魔法を得意とするロースチェント公爵家の娘だったから。
そしてガルシア公爵と夫人を連れて急いでカレンがいるはずの研究室に戻れば、そこはもぬけの殻で。
「……くそっ……今度はどこにっ?!」
「あらあら……まあ……?」
「なんというか……ほんと、自由奔放だね、あの子は……怪我しているというのに、誰に似たのか」
呆れるガルシア公爵とカレンちゃんはお転婆さんねと、くすくす笑う公爵夫人をその場に残して。
エディは公爵家の屋敷内を必死に探す。
いくらなんでもあの傷で外には出ないだろうと探すが、その行方は知れず苛立ちながら探していると。
ガルシア公爵家から出ていこうとするルーカスにエディは玄関ホールで遭遇した。
「……ルーカス、お前まだ居たのか」
「ん、もう出る所だけど……彼氏君なにしてんの?」
「カレンが居なくなった、まさか……またお前が?!」
「いや、俺は今回何も知らないよ? でもあの怪我で?! アレは目を離したら何するかわかんないのに。もー……仕方ないなあ? 一緒に探してあげるよ」
「……お前の手伝いなんかいらん」
「あははー、残念でした! 彼氏君の為じゃなくて、カレンの為に探すんだよ? 勘違いしないでね?」
まるでエディを小馬鹿にするようにルーカスは、ニタニタと笑いカレンを探そうと歩き出す。
「ルーカスお前さ、カレンの事……」
そんなルーカスにエディは真意を問おうとして。
「……彼氏君さ、それ俺に聞かない方がいいよ、だって君からお姫様を取り上げるなんてとっても簡単だからね? 国に連れて帰って国境門を閉じてしまえば良いだけの話なんだから……少しでも好きな子と一緒に居たいでしょ? ……だからやめときな」
ルーカスはいつものへらへらとした軽薄な笑い顔から一転して、真顔でエディにそれ以上聞けばカレンを取り上げて国に連れ帰ると警告した。
「っ……ルーカス!」
「……この話は終わり! じゃあ、探そっか? どこかなー? うちのお転婆なお姫様は……」
話を勝手にルーカスは終わらせて、もうエディには取り合う気はないと存外に告げて。
カレンを探しはじめた。
殺伐とした嫌な雰囲気を二人は漂わせながら、屋敷内をしらみ潰しにその姿を探して走る。
そしてエディとルーカスの二人が一緒にガルシア公爵家の中を探していると、調理場の方からとても楽しそうなお目当ての人物の笑い声が聞こえてきて。
……調理場の扉を開けると。
キャッキャウフフ!
と、ガルシア公爵家の使用人達に囲まれながらとても楽しそうに笑顔で食事をするカレンの姿がそこにはあった。
「……何やってんのお前? 部屋で大人しくしてろと言っただろう? 勝手にうろうろするな!」
「ん? エディとルーカス! 二人揃って……どした? 私はお腹空いたから何か作って貰おうかなってここにきただけだよ? ……あっ、食べる? 美味しいよ」
「いや……お前、怪我……!」
「……なんか、お姫様が元気になってるような」
先程までとは打って代わって、カレンの元気過ぎるその様子にエディとルーカスは目を丸くする。
「ふふん! あんなのもう治ったから大丈夫! この天才カレンちゃんを舐めて貰っては困るね?!」
「いや、んなわけねぇだろ? 見せろこの馬鹿」
カレンの腕を掴み袖をエディが捲れば。
そこには真珠のように真っ白で、傷ひとつない艶やかな肌があった。
「……ね? だからエディ、もう心配ご無用!」
「カレンお前………一体それどうやって?!」
エリクサーをかけても飲ませても全然駄目だった傷が綺麗に治って、その顔色もとても良くなっていた。
「ふっ……教えてあげない! 秘密ですー!」
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