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第五章 残酷な世界
225 男勝り
しおりを挟むまるで二人は本当は姉妹のように歯に衣着せぬ物言いと遠慮のない態度で話し自然に接するから、ガルシア公爵夫妻は少しだけ羨ましくなった。
でもそれはもう仕方のない事だと頭ではわかってはいたが、この二人が話す所を見てしまうとクリスティーナとカレンの不自然さや壁が明確になっていく。
本当はクリスティーナとカレンが仲良しな双子の姉妹になるはずだったのにと、初めてガルシア公爵夫妻はブラックバーン夫妻が羨ましくなった。
今までカレンは親達に対して、実の親や養父母に関係なく徹底して拒絶していたから、それについては羨ましいという感情は湧かなかった。
だが、カレンは何故かミアの事は拒絶することも、悪態をつくこともせず普通に笑顔で接する。
それは姉のミアがカレンの事を嫌いだとカレン自身が勝手に思い込んでいた為で、わざわざ拒絶しなくても自分の事が嫌いならば、近寄ってくることもないし巻き込む事もないと思っていたからで。
まあ実際のところ、ミアはカレンが嫌いではない。
……特に好きでもないが、それは幼少期のカレンが鬱陶しい性格だったからなのでミアはあまり悪くはない。
そして本当の姉妹に見える血の繋がりがない姉妹は。
イクスの実家に行った際にミアがカレンに渡した例の本の効果は如何だったのかという、至極どうでもいい話をそれはもう真剣に二人きりで内密に話し合っていた。
その本はイクス女子達愛用の教本で『イクス女子必見!閨で男を愛する方法全集』という、えっちな本である。
その本自体はエディに没収されてもう手元にはないのだがカレンは丸暗記したので何も問題はなかった。
「ふーん……じゃあ、そこそこ喜ばれたんだ?」
「うん、まあ、でも……それは娼婦みたいだから、私がしたら駄目って途中でエディにやめさせられたけどね……?」
「ああ、こっちの貞操観念すごいもんね? でもそこはほらもっとあんたが押さなきゃ! 次は最後まで頑張って彼を虜にさせな?」
「次って……でも……今のエディは……」
「……記憶の有る無しなんてそんなもんどうでもいいでしょ、同じ人間なんだし、それにそんな悠長な事言ってるとあんた他の女に横から奪われるよ? っか、お姉ちゃんが奪うよ?」
「えっ……う……、わかってる」
「あんなにイケメンで、優しくて、命まで張って守ってくれて一番あんたを大事にしてくれる男なんて他にはいないよ? 何があっても手離すなよ? 絶対に後悔すんぞ、カレン」
「……で、も……手離してあげたほうが、エディの為なんじゃないかって……私といると……傷つけちゃうから」
「いや、それはカレンあんたが彼を傷つけたという罪悪感に、あんた自身が傷つきたくないから……でしょう? そんなの相手からしたら余計なお世話だよ、調子乗んなよ?」
「うぐ……それは……」
鬱陶しくて、めんどくさくて、天才だが馬鹿な妹。
だが、ミアにとってカレンは血はもちろん繋がらないが、この世界で唯一の妹であって、それなりに心配もしていた。
その妹が本気で惚れて、彼を大切にしているとわかってしまったから、応援したいと思っていた。
……なのに、本人がこの有り様。
初恋なら仕方ないのか……? と、ミアは一度は思ったが。
それでも私の妹かとカレンにキレた。
「それにあんた彼に婚約指輪貰ったんでしょ? それをあんたは受け入れたんでしょ? なら逃げんな!」
「っ……それは……!」
「そこで逃げる方が最低だし酷いよ、もしあんたが記憶喪失になったからって彼に捨てられたら……どう思うの?」
「……え、辛いし、悲しい……かな」
「カレンあんたはね彼に今、そんな辛い思いさせてるんだよ? それ……わかってやってんの?」
「わかってませんでした……」
「なら、カレン、あんたは今からどうするべき?」
「……っお姉ちゃん、ありがとう、私、もう逃げない」
「ふんっ、このくらい、いいってことよ!」
ミアはにっこりと微笑んでカレンの頭をわしわしと撫でた。
幼少期だけでもミアとカレンの二人は一緒に姉妹として育っただけはあってどこか行動が似ていたし、女傑カトリーナに二人一緒に血反吐を吐くまで散々鍛えられたせいで。
……二人とも男勝りでとっても粗野だった。
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