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第五章 残酷な世界
224 華麗なる姉
しおりを挟む焼きたてのクロワッサンを口一杯に頬張って、バターの芳醇な甘い香りに包まれる優雅で静かな朝。
……だったのに。
「うわ、ほんとにカレンが姫みたいな格好をしてる! しかもイケメンまみれ?! 私もイケメンに囲まれたい!」
「ほら、俺が言った通りだろ!」
「うげっ……、お姉ちゃんに、ルーカス……」
優雅な朝を満喫していた所、突然呼ばれて仕方なく応接室まで護衛達にホムンクルスを従えて嫌々やってくれば、朝からテンションが無駄に高い姉と、幼馴染みがそこにはいて。
その急な二人の来訪に、カレンは嫌そうな顔を浮かべた。
そこに、まだガルシア公爵家に滞在して遊んでいた養母である女傑カトリーナが、元気にやって来て。
「あら何事かと思えば、ミアちゃんにルーカスじゃない? アルス観光はもう済んだの? ずいぶん早かったわね?」
「うん、終わったよ! 楽しかった! それでカレンがアルスでどんな生活してんのか見に来たんだけど、どうしてここのお家は美男美女だらけなの?!」
「ああ、此方の方々は、ガルシア公爵夫妻ね? カレンちゃんの本当のパパとママよ?」
女傑カトリーナの紹介にガルシア公爵夫妻は、突然の来訪だったが嫌な顔一つせずにミアに柔らかく微笑んで挨拶する。
「……申し遅れました、私はミア・ブラックバーン、イクスで小さな会社を経営しております若輩者でございます。此方の作法にはまだ疎く、高貴なる方々にはお目汚しになるかと存じますがどうぞお許しくださいませ?」
それに対しミアは、先程までの軽い態度とは打って変わって、まるで淑女のように美しいカーテシーをガルシア公爵夫妻に返し、挨拶するからその場に居た者達は目を丸くして驚く。
「まあ……お若いのに会社を経営なさっておられるの?」
「はい。魔道具での製粉を主な事業として、製パン事業も最近はさせて頂いております。そしてイクス国内で流通する小麦は全てわが社が製粉したもので、最近はここアルスにも輸出しております」
カレンは姉が近所のパン屋で働いてるだけだと思っていたが、その近所のパン屋はミアの会社であった。
イクスでは自立した格好いい女がモテるのである、自立しているがモテない例外もここにはいるが。
それに姉妹として育ったカレンとは大きく違って礼儀作法が完璧で、皆が驚くのもまあ無理はなかった。
「それは……凄いね、それにアルスの礼儀作法もキチンと君は出来ているよ、自信をもっていい」
「ありがとうございますわ、ガルシア公爵様」
にこやかにガルシア公爵夫妻とミアが会話するなかで、カレンは私には関係ないなと即座に判断し、静かにこっそりと気付かれないように、その場から撤退を試みていたが。
「あ、こら! 馬鹿妹! 逃げんな!」
静かなるその逃亡に、即座に姉のミアは気付き、あまりにも素早い華麗なる立ち回りでカレンは簡単に捕まってしまう。
流石は女傑カトリーナの実の娘である。
「あ、お姉ちゃん?! え、ちょ、離して?」
「……で? この前あんたに渡した本の結果どうだったのよ、お姉ちゃんにちゃーんと、教えなさい?」
「そっ……それはここでは言えないよ?!」
「ふーん、そう? じゃあ……二人きりで、姉妹水入らずで……仲良く楽しく話そっか?」
「え、いや、それも嫌なんだけど?!」
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